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悪役令嬢、魔王を倒した勇者様に所望される  作者: 吉沢月見


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 授業が終わり帰り支度をしていると門のところが騒がしい。どうしたのだろう。


「見て、ロバよ」


 くすくすと笑い声がする。


「馬が逃げたのかしら」


「かわいいじゃない」


 小馬鹿にしたような言い草。


 ん? 馬車の中に一頭だけ見慣れたロバがいる。


「モクビリー様?」


「アン、迎えに来たよ」


「ありがとうございます」


 荷台に乗って、

「みなさま、ごきげんよう」

 と手を振った。


「アンジェリカ様? ということは、勇者様?」


 みんなの驚いた顔がおかしかった。


 そうですの。私の旦那様ですのよ。ロバはゆっくり歩きだした。


「迎えに来てくださったのですか?」

 嬉しいわ。


「そなたは俺の嫁だからな」


 早く会いたいって思ってくれたのかしら。私は思っていましたよ。


 つむじに訴えてはいるけれど、言葉にするのは難しいわ。


「ありがとうございます」

 としか言えない。


「学園でなにを学ぶ?」

 モクビリー様が聞く。


「勉強です」


「料理を学んだほうがいいんじゃないか?」


 いつもとは違う道。そうか、私たちの家に向かっているのね。


「あら、池?」

 右手に見える。


「湖だよ。知らなかったのかい?」


「ええ」


 そこでモクビリー様はロバを止め、私を荷台から降ろしてくれた。


「川で魚が取れないときはここまで来てる」


「そうでしたのね」


 広い。


「私、海を見たことがないんです。もっと広いのでしょう?」


「ああ。それに湖と違ってしょっぱい」


「へぇ」


 この湖でも怖いのに、海を見たらもっと怖いと感じるのかしら。


「アン、この前はすまなかった。性急すぎた」

 モクビリー様が頭を下げる。


「いいえ。私のほうこそ、まだ心の準備ができなくて。妻なのに申し訳ございません」


「君がかわいくて、つい」


 こんな私をかわいいって思ってくれるのはこの人だけだわ。


「私、今日の授業で動物の交尾を学びました。頭では理解したのですが」


「よいよい。気持ちがなければできないのだろう? 人だもの。それもわかる。無理強いはしない。できそうなら、言ってくれ」


「わかりました」


 ロバが湖の水を飲む。


「随分飲むな。腹壊すなよ」


「この子、レイクなんて名前はどうかしら? 湖という意味ですのよ」


「いいな。呼びやすい」


 モクビリー様がレイクと呼びながらロバの頭を撫でる。私もそんなふうに扱っていただきたいわ。


「モクビリー様」


「ん?」


 頬にキスをするつもりが唇の下のほうに当たってしまった。


「今日、迎えに来てくれたお礼ですわ」

 気丈に振る舞うのは得意なの。


「じゃあ毎日行ったら毎日してくれるのか?」

 モクビリー様が意地悪そうに聞く。


「知りません。さぁ、レイク行きましょう」


「帰ろう。アン、俺たちの家に」


 同じように思ってくださることが嬉しい。

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