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悪役令嬢、魔王を倒した勇者様に所望される  作者: 吉沢月見


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 昼過ぎまで、私が声をかけなければお茶も飲まずにモクビリー様は畑仕事。ひとつのことに集中してしまわれるタイプのようだわ。そうでなかったら10年以上もしつこく魔王と戦ったりしない。


 面倒な人に娶られてしまったかしら。今のところ一緒に眠る以上のことは求められていない。


「ふぅ、疲れた。アン、昼飯はどうする?」

 モクビリー様、午前中だけで日焼けしてる。


「うちの者がパンと卵を持ってきたので、私が作りますね」


「ああ、頼む」

 とその場にへたり込んでしまった。


「お水です」


「ありがとう。畑の開墾は魔王と戦うより大変だ」

 なんて冗談まで。


「すぐにお昼にしますね」


 お台所ではまだ失敗ばかり。火の加減がむつかしいのよね。卵を焼いてパンに野菜と挟む。モクビリー様は胡椒が好きだから砕いてパラパラパラ。


「俺が汗臭いから外でもいいか?」


「ええ、もちろん。ピクニックみたい」


 外で食事なんてあまりしないから嬉しい。モクビリー様はこれが普通だったのよね。魔王との戦いの終盤は同じところで戦っていたそうだから、こんなような小屋を建ててそこから戦いに行っていたのかしら。テントを張って眠っていたのだろうか。屋根のないところで眠るなんて私には想像もできない。


「うまい」

 と私のサンドイッチを褒めてくれる。


「お茶も飲んでください」


「ああ」


 モクビリー様ったら上は裸で、ドキドキしてしまう。腕の筋肉がすごいわ。眠っているときにあの腕に包まれているのね。やだ私、恥ずかしい想像してる。


「ここは夏野菜にして、あっちも耕して秋野菜にしようかな。ここの冬はそんなに寒くないそうだから冬野菜も作ろう」


「冬は芋ばかり食べています」


「やはり芋は重要だな。通常に植える時期にはちょっと遅いな。でもかぼちゃを植えたし、ここの気候ならば秋口にも芋は植えられるから」


「作物に詳しいんですね」


 私は何も知らずにぼんやり生きている。


「食べなければ人は死ぬ。勇者でもな」


「確かに」


 だから父は領地内の収穫量をいつも気にしていたんだわ。もうプラムの季節。小さい頃は取りに行ったけど、大きくなってからはいただいたものを侍女に剥いてもらった。この周辺にもあるのかしら。


 令嬢だったから買い物に行ったりしたことがないのだけれど、今はこれでも私はこの人の奥さんだから行くべきなのよね。


「モクビリー様、今度お買い物に行きたいわ。市場とか」

 と誘ってみた。


「そうだな」

 もう妻だから並んで歩いていいはず。


「楽しみ」

 私が笑うとモクビリー様も微笑んでくださった。この人とは温かい空気が生まれる。エドワード様とは違った。小さい頃は仲が良かった時期もあるけど、成長するにつれどんどん冷たくなっていった。


「さて、もう少しやるか」

 着ていたシャツを頭に巻いて、おかしな人。私の周りにいなかった人だから特別なのではない。


 太陽って本当に動いているのね。日焼けはしたくないから木陰の切り株に移動。知っているようでなにも知らないことばかり。


 一日は長いようで短い。あなたを見ているせいかしら。

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