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雨の季節に入る前、モクビリー様は熱心に畑を耕した。道具まで作ったり借りてきたり。筋骨隆々の腕を使い、魔法使いがいれば便利とは考えないらしい。
「勇者なのに」
と私はついこぼしてしまった。立派だとは思うけれども、人を雇うとか、せめて私の実家を頼ってほしい。それなのに本人は、
「楽しい」
の一点張り。魔王を倒すことばかりでゆっくりと畑で野菜の栽培などできなかったのだろうとは思う。
鍬や鋤を振るう様はさすがだが、魔王を倒したその力を欲する地域もあるだろうに。
「日焼けするといけないから」
と私に帽子をかぶせた。
私も付き合って鍬を使ってみたが、数回で手に血豆。
「これだからご令嬢は」
呆れられてしまう。
「申し訳ありません」
魔法使いのエラン様もわざわざ自分でしなくても魔法で耕せばいいのにと考えるに違いない。なんだったら満腹になる魔法もある。一瞬だけどね。
「こんなふうにゆっくりできることはなかった」
モクビリー様は始終楽しそうだ。
「これも平和になったからできることなのですね」
「そうかもな」
耕してから種を蒔く。勇者なのだから野菜など好きなだけ買えるだろう。いや、王様に私が欲しいと言ってしまったから、まさか褒美は私だけ?
聞けば、魔王退治をしていたときも食糧確保と料理はモクビリー様の担当だったそうだ。
「エランは魔法の疑似料理で誤魔化そうとするし、スーリは甘いものしか食べないし、タナックは食べないでどれだけ生きれるかとか考え出すし」
確かに個性的な人たち。
「モクビリー様、資産はいかほど?」
心配になって私は聞いた。
「金貨はそれなりに持ってる。しかし、この家と土地もアンの家から無償で借りているのだから、資産と呼べるものはないに等しいか。でも君を働かせるほどではないよ。必要ならば俺が仕事をするさ」
勇者様の仕事って勇者以外になにができるのだろう。王の護衛とか金持ちの用心棒だろうか。
「この種はトマトだよ」
吹けば飛びそう。
「小さいのね」
こんなもの、戦いながらどうやって保管していたのだろう。
「これはきゅうり」
「かぼちゃが好き」
「あるよ」
かぼちゃの種はそこそこ大きかった。
「種まき初めて」
私は言った。
「こっちを下にして、土に突き刺すように」
「はい」
手は汚れるけど、楽しい。
「アンジェリカ様、なにを?」
声のする方へ振り返ると、ちょうどうちの使いの者が来ていた。
「種まきよ」
「手が汚れます」
うん、でもモクビリー様だって。
「今日は何を持ってきてくれたの?」
父様が頼んでいるのか毎日のように何やら運ばれてくる。食材も含まれているからモクビリー様が野菜を作る必要もないのだけれど。
「寝具です」
あれこれ持ってこられても、我が家の狭さを父様わかってるのかしら。
「ありがとう」
と受け取り、私が土いじりをしていたことは内緒にしてもらう。
これでようやくふわふわの布団で眠れる。
唯一の部屋を片付けたいが、モクビリー様の品であふれている。剣とか防具とか盾とか、褒美でもらったよくわからないものまで。金貨も多分あの中に埋もれているのだろう。




