第6話 お嬢様の初めてのクエスト
「やった。また薬草を見つけたわ」
「それは良かった」
嬉しそうなお嬢様に共感の言葉を伝える。
彼女は足早に薬草の生えている場所に近づいていく。
そんな彼女を横目に周囲を確認する。
どうやら敵対する生物はいないようだ。
「この辺りには気にするような魔物はいませんよ」
「ですが、しっかりと安全は確認しないと・・・・・・」
同行してくれた女性冒険者──ヘルバさんに苦笑されるが、注意は怠らない。
万が一、お嬢様に怪我をさせれば後悔してしまうからだ。
「しかし、君たちみたいな有望な新人がこんな低ランクの依頼を受けるなんてね」
楽しそうに薬草を摘むお嬢様を見て、ヘルバさんが呟く。
彼女の言うとおり、俺達が今受けているのはGランクの依頼で【薬草の採取】である。
都市の近辺にある群生地から薬草を採取するという危険度が低い依頼だった。
薬草は傷を治すポーションを作るために使われるので、常に必要になる素材である。
危険度も低いことから、新人や低ランク冒険者が受ける簡単な依頼なのだ。
「お嬢様がせっかく冒険者になったのだから、いろんな依頼を受けたいそうで」
「なかなか変わったお嬢様だね」
俺の言葉にヘルバさんは笑う。
馬鹿にしたような感じではなく、純粋な反応だった。
俺達がこのクエストを受けることになったのは、冒険者登録をした昨日に遡る。
Dランク冒険者を返り討ちにした俺達をリオネスさんはギルドマスター権限でEランク冒険者にする提案をした。
十分な戦闘技術があると判断したからである。
だが、お嬢様はそれを断った。
Eランクの依頼を達成できないと思ったからではない。
彼女はせっかく夢だった冒険者になれたのに、経験できないことがあるのを嫌ったのだ。
だからこそ、新人以外が受けないような【薬草の採取】など低ランクの依頼を受けたのだ。
ちなみに、冒険者になったばかりの新人なので同行者としてヘルバさんがついてきている。
彼女は5年目のFランク冒険者であり、採取系クエストのベテランらしい。
「しかし、君たちは珍しいね」
「何がですか?」
ヘルバさんの言葉に首を傾げる。
そんなことを言われる意味がわからなかった。
俺の様子に彼女は苦笑する。
「たとえ新人でも、あんな風に楽しんで採取系クエストを受ける人はいないよ。大抵が討伐系クエストを受けたがるものさ」
「ああ、そういうことですか」
説明されて、ようやく理由が分かった。
やりたがる者が少ない採取系クエストを自ら受けているのが珍しいわけだ。
「ポーションを作るのに必要な薬草だけど、採取系クエストは地味だから誰も受けたがらない。地味だからこそ蔑む意見すらあるぐらいだよ」
「冒険者である以上、お世話になっているのにですか?」
「誰にもできるクエストだからね。危険なクエストに挑むことこそ冒険者としての本懐と考えている奴らが多いのも理由だね」
「ううむ」
思わず唸ってしまった。
別に考え方を否定するつもりはない。
クエストが危険であればあるほど、達成したときのリターンが大きくなるのだ。
そういう意味ではロマンがあると言えるだろう。
だが、俺は逆の考えだった。
お嬢様を危険にさらさないため、できる限り安全なクエストを受けたい。
「だから、私みたいな万年低ランクの冒険者は馬鹿にされているんだ。【薬草狩り】なんて異名がつけられているぐらいだ」
「必需品の素材を採取しているんだから、感謝されるべきだと思いますけどね」
「そういうところも珍しい。でも、そう言ってもらえるのなら、また頑張れる気がするよ」
「なら、良かったです」
ヘルバさんは笑みを浮かべる。
初めて会ったときは暗い雰囲気だったので、少し不安だった。
おそらく馬鹿にされ続けた経験が彼女を卑屈にさせていたのだろう。
そんな彼女が少しでも前向きになっただけで話をした甲斐がある。
「クロード、ヘルバさん。この辺りは採取を終えたわ。次に行きますわよ」
お嬢様が楽しげに呼びかけてくる。
まるで遊びを楽しんでいる子供のようだった。
そんな彼女の反応に俺達は顔を見合わせ、軽く笑ってしまった。
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○キャラクター紹介(簡易)
・ヘルバ
5年目のFランク冒険者。
とある事情があって採取系クエストしか受けていない。
ギルド職員や素材を扱う職人たちからは重宝されているが、討伐系クエストが本懐と考えている冒険者からは馬鹿にされている。
地味だが整っているルックスなので意外とファンが多い。




