第3話 執事の俺が最優先するものは
今回から主人公(予定)のクロード視点になります。
「冒険者の登録をお願いしますわ」
「は、はい。かしこまりました」
お嬢様の言葉に受付の女性が緊張したように答える。
あれほどの大立ち回りをしたのだから、恐れられてもおかしくはない。
まあ、俺もその一因になっているだろうが・・・・・・
「まず、こちらに記入をお願いできますか?」
「わかりましたわ」
受付の女性は紙とペンをお嬢様に差し出す。
横から確認したところ、名前など個人情報を書く必要があるようだ。
冒険者として登録するのなら必要な内容だろう。
お嬢様はサラサラと記入していく。
「あの・・・・・・」
「はい?」
受付の女性が不安げに話しかけてくる。
その手には同じような紙を持っていた。
「こちらをお願いします」
「いえ、俺は結構です。冒険者にはならないので」
「えっ⁉」
予想外の答えに彼女は驚きの声を漏らす。
まさか断られるとは思っていなかったのだろう。
この場にいるのだから、俺も冒険者になると思っていたのだろう。
「まだそんなことを言っているの、クロード?」
お嬢様が呆れたような表情で話しかけてくる。
どうやら書類は既に書き終えているようだ。
「私が冒険者になるのだから、執事であるあなたも当然冒険者になるべきでしょう」
「いえ、俺にはお嬢様の世話をする必要があるので、冒険者になるつもりはありません」
お嬢様の言い分と同じく俺の言い分も変わらない。
彼女としては一緒に冒険者をやっていくつもりかもしれないが、俺にそのつもりはない。
しっかりとした理由がある。
「あなたは私から離れるつもりはないのよね」
「もちろんです。俺のすべてはお嬢様に捧げるつもりで、生涯仕える所存です」
「・・・・・・そこまでは重いですけど、その気持ちは嬉しいですわ」
お嬢様は顔を背ける。
なぜか頬を赤くしているが、どうしてかはわからない。
嬉しく思っているのはわかったけど・・・・・・
少しして落ち着いたのか、彼女は再びこちらに向く。
「生涯仕えてくれるのなら、別に私と一緒に冒険者になってもいいでしょう? 別に何の損もないのですから」
「たしかに冒険者の資格を持つことで損はないですね」
「だったら──」
「ですが、一緒に冒険する者にとって損になります」
「え?」
予想外の答えに呆けた声を漏らすお嬢様。
この理由を説明するのは初めてである。
だが、この状況はありがたい。
周囲に人がいる状況で伝えるのなら、彼女は受け入れざるを得ないだろう。
「俺の最優先はお嬢様の身の安全です。俺の行動の全てがお嬢様のために行われます」
「それがどうしたの?」
「冒険者として行動するのであれば、当然仲間を守る場面にも遭遇するでしょう。そんな状況でも、俺は確実にお嬢様を優先します」
はっきりと宣言した。
これは俺がかつて決めた信念だ。
どんな状況でもお嬢様を守るために最善を尽くす、と。
「・・・・・・私が命令したとしても?」
「ええ、もちろんです。命の危険にさらされてもお嬢様を優先する私と行動してくれる冒険者はおそらくいないです」
「だったら、二人でパーティーを組めば良いじゃない」
理由を聞いて、お嬢様は反論してくる。
たしかに彼女の言うとおり、二人でパーティーを組めば仲間との信頼などは気にしなくても良いでしょう。
だが、それには問題もある。
「ずっとそのままではいかないでしょう。冒険者としてのランクが上がれば、自ずと他の冒険者との協力する場面がでてきます。そうなると、信頼されない俺は足手まといになります」
「そ、それは・・・・・・」
お嬢様は反論できなかった。
彼女は近接戦闘だけでなく、魔法による遠距離戦闘の才能もある。
貴族としての教育を幼い頃から受けてきたので、頭も悪くはない。
そんな彼女が冒険者として活動するのなら、大成する可能性が高い。
そうなると、信頼を獲得できない俺は彼女の足手まといになってしまう。
ならば、冒険者として登録しない方が良いのだ。
執事としてついていけば問題はない。
「ちょっとええやろうか?」
「「っ⁉」」
いきなり間に割って入られ、驚いてしまった。
声のした方に振り向くと、そこには一人の女性がいた。
身長は俺と同じぐらいだろうか、傷だらけの鍛え上げられた肉体を持っていた。
さらに目を引くのは左目を隠している眼帯だった。
こんな特徴的な人物が近くにいたのにまったく気づけなかった。
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