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祖父の記憶

家への帰路、あまり長い距離ではなかったが、少し気まずさがあった。

「…シオンさんは、どうしてそんなに旅をしたいの?」

リノはシオンに問いかけた。

「…あ、ごめんなさい。そこも話してませんでしたね。」

「……祖父の影響なんです。」

「おじい様の?」

「はい、私の祖父は若い頃、世界中を旅したみたいで、その話を私が小さい頃よく聞かせてくれていたんです。」

「その話を聞いて、私も大きくなったら世界中を旅してみたいって思うようになったんです。」

「最近だと、祖父の手記を見ながら、地図を開いて冒険に言った気分を味わえるようにしたりして…リノさんがさっき起きる前もしてたんですよ。」

ああ、さっき作業をしていたのはそれだったのか、とリノは思った。

「…ただ、やっぱり難しいですよね。世界を旅するとなると、危険も伴いますから…」

「…」

リノは黙ることしかできなかった。


シオンの家に戻ってくると、シオンの叔父が家の中にいた。

「叔父さん!帰ってきてたんだね。」

「ああ、おかえり。あんたも目を覚ましたんだな。」

「これ私の叔父さんです。さっきいた兵士たちの指南役なんですよ。」

シオンの叔父は精悍な顔つきの壮年の男性だ。眼つきが只者ではなく、リノから見ても明らかに強そうな男性であることは明らかだった。

「は、はい。すいません、助けていただいたうえに食事までご馳走になって…」

「ああ…気にするな。」

ハンスは椅子にかけ、飲み物を飲みながら返事をした。

「…あ、私リノといいます。一ノ瀬リノ…」

「ハンスだ。……あんた冒険者か?」

「…いえ私は」と言おうとしたところで、

シオンが遮り、

「リノさん、今あんまり記憶がはっきりしないみたいなの。」と答えた。

「…そうか。」

「シオン、頼みがあるんだが、酒屋まで酒を取りに行ってくれないか。ちょうど切れちまった。」

「え、もう飲んじゃったの?」

「ああ。」

「わかった。すぐ行ってくるね。リノさん、ちょっと叔父さんの相手しててもらっていいですか?すいません、すぐ戻りますから。」

「え?あ、はい。わかりました。」

シオンは家を出て行ってしまった。

「…」

家の中に沈黙が流れた。

「あ、あの…」

「ん?」

「私どこか森の中で倒れてたところを、…ハンスさんに助けてもらったみたいで…」

ああ、という顔でハンスはリノの顔を見て、

「…あんた冒険者じゃないよな?あんな森の中で何をしてた?」

「いや、気づいたらあの・・もうこの家にいて、森にいた記憶とかは全然なくて…」

「…気づいたら?あんたどこからきた?」

「…」

またも沈黙が流れた。

「まあいい。シオンに何か言われたか?」

一瞬迷ったが、いえ、と答えた。

しかし、ハンスは見透かしたかのように、

「冒険に連れて行ってほしいといわれただろう」と聞いてきた。

「……はい。」

「そうか。」

「あの…私、魔物とか、見たことなくて、それに冒険者でもなくて…そんなに危険なんですか?」

ハンスは驚いたような顔でこちらを一瞬見たが、すぐに手に持っているグラスに目を移した。

「危険だ。」

「あの子…シオンには色んなことを教えてやった。そのへんの魔物くらいなら倒せるはずだが、あの子が憧れるような旅をするとなると、それこそたちまち命を落とすだろう。」

「…そうなんですか。」

「ああ。おれも剣の腕には自信があるが、魔法はからきしでな。あの子を守ってやれるとは思えん。…だからあの子には腕の立つ冒険者がいればついていってもいいと言っている。」

「…ただ、最近じゃそんな冒険者はこのへんにはいない。残念だが…」

「なるほど。」

「あんた、魔物を見たことが無いし、記憶もサッパリって言っていたな?」

「?……はい。」

「…つかぬことを聞くが、別の世界から来たのか?」

「!」

「違うなら、今の話は忘れていい。」

「……たぶん…いえ、きっとそうです。…私は、別の世界から来たんだと思います。でも、なんで…?」

「おれの親父…シオンの祖父もおそらくそうだったからだ。」

「…え!?」

「親父が死ぬ間際に、別の世界からきたような話をおれにしてくれたんだ。どこか違う世界で戦争して、そこで死んで、気づいたらこの世界にいたってな。……あんたもそうなのか?」

「……そんな感じです。…でもなんで?」

「親父も魔物をみたことは無かったそうだ。この世界に来るまでは。姿は似てないが、雰囲気がなんとなくあんたに似てたよ。」

「…」

「あの子は祖父の影響で冒険をしたがっているんだが…」

「…あ、その話は、シオンさんから…」

「そうか。」

「でも、私、シオンさんの言うように、旅に連れていってあげることは…できないと思います。私なんて魔物とあったらどうなるか…」

ハンスはうん、とグラスに残った飲み物を飲み干した。

「ああ。無理にとは言わん。命がかかってるからな。それに、あんたが別にこの世界に興味があるかもわからんしな。」

「ただ、おれの親父には魔法とは違う不思議な能力があったよ。あんたにももしかしたらあるかもしれん。」

「…私にも?」

バンと大きな音が背後から聞こえ、目をやるとそこにはシオンがドアを開けて立っていた。

「…あ」

「叔父さん、どういうこと?お祖父ちゃんが別の世界からきたって?それにリノさんも?」

「…聞いてたのか。」

「…うん、始めから聞いてたよ!なんで黙ってたの?どうして?」

「…そのことを知っても、何も変わらないと…思ったからだ。」

「…そんなこと…」

シオンは泣きそうな顔をしながらうつむいてしまった。

「すまなかった。おれも…リノさんが現れるまで半信半疑だったんだ。」

「……もういいよ。」

シオンはどこかに駆け出していってしまった。

「…シオン!」

リノはどうすればいいかわからなかった。

「…すまない。変なところを見せてしまったな。」

「い、いえ、でも…シオンさんが…」

「あの子の行先はわかってる。悲しいことがあったりすると、いつも決まった場所に行くんだ。少し出かけてくるから、あんたはゆっくり休んでてくれ。」

「…あ、あの。私も行きます。…お世話になりっぱなしで…なにもできないかもしれないですけど…」

ハンスは部屋の隅に立てかけていた剣を腰に結んだ。

「…ありがとう。じゃあ、頼む。」

リノとハンスはシオンの後を追った。

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