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内臓の模造品  作者: 鯨井イルカ
幕間・一

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16/18

きもすい

「さっきからお椀をじっと見てるけど、どうしたの?」


「ん? ああ。大したことじゃないから気にしないで」


「そう言われると余計気になるじゃないか」


「それもそうか。いやさ、きもすいってさ」


「うん? きもすい?」


「そう。きもすいって、漢字で書くと字面がなんか妖怪みたいだな、と思って」


「妖怪?」


「そう。ほら、『肝』と『吸う』で、『肝吸い』なわけだから」


「恋人との食事中に何を考えてるの!?」


「あはは、ごめんごめん」


「でも、言われてみればたしかに」


「でしょ? なんか田舎のお婆ちゃんとかが孫に、『これ!! そんなイタズラばっかしてっと、肝吸い様が肝を吸いにくるでよ!!』とかお説教しそうじゃない?」


「ありそうだけど……、子供のイタズラに対する罰にしては重すぎないかな?」


「まあ、そうか。ただ、お婆ちゃんあたりが孫の躾に使う怖い話ってさ、わりと大袈裟なもんだし」


「うーん……。俺はあんまり祖父母と関わりがなかったから、あんまりピンとこないかも」


「そっか」


「うん。だから、君の所ではどんなかんじの話があったか教えてほしいかな」


「え、うち? えーと、本当によくある類の話だったし、取り立て教えるほどのものでもないよ?」


「構わないよ。君のことをもっとよく知りたいから」


「……そんな殺し文句みたいな勢いで、子供の頃に聞いた怖い話をせがまれましても」


「あはは、ごめんごめん。でも、興味あるから」


「まあ、そこまで言うなら……、えーと『悪いことをすると、マックロオバケがお腹をかじりにくるよ』ってよく言われてた」


「……ぅ」


「ちょっ、大丈夫!? 急にどうしたの!?」


「あはは、ごめんごめん。昨日の会合でちょっと飲みすぎたみたいだ。ほら、面子的に俺が一番歳下だからさ、周りの方々が飲ませたがっちゃって」


「そっか……。若き重役さんはなかなか大変だね」


「いやいや、これも仕事のうちだから」


「なんかごめんね。本調子じゃないのにご飯付き合ってもらっちゃって」


「ううん、大丈夫だよ。先週末は一緒にいられなかったから、今週はできるだけ君と一緒にいたいんだ」


「……」


「それに、アルコールをとった次の日は、無性にここのかき揚げ蕎麦が食べたくなるから」


「ああ……、確かに。なんかここの蕎麦って飲みの翌日に食べたくなるかも」


「でしょ? やっぱり俺たちって食べ物の好みが似てるよね」


「うん。わりとそうだね」


「これなら、一緒になってもきっと上手くやっていけるよ」


「……」


「ん? どうしたの?」


「……ううん、なんでもない。ただ、またくだらないことを思いついちゃっただけだから気にしないで」


「だから、そう言われると逆に気になるって」


「えーと、『肝吸い』の対義語は『腸吐き』になるのかな、なんて」


「本当に恋人との食事中に何を考えてるの!?」


「あはは、ごめんって」


「……まあ、でも。吸うものがいれば吐くものがいるのも、自然の摂理ではある、のか」


「ちょっとちょっと。単なりくだらない思いつきなんだから、そんなに深刻な顔しないでよ」


「……あはは。たしかにそうだね。じゃあ、しっかりご飯を食べて午後の業務も頑張ろうか」


「うん、そうだね」

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