エピローグ.1 ~中学卒業 朝霧視点モノローグ
冒頭以外、朝霧さんの語りなかんじです。本編でもう少し関わらせたかったみたいな。
中学1年の夏休み明け、かったるい始業式が終わる・・・終わったと思っていたら、
「先生、すみません。少し良いですか?」
何故か一番前に居た亮くんが挙手して、そう言ったあと、ステージに上がっていった。おそらく、事前に教師たちには伝達されているみたいだと思って見ていると、マイクを持った亮くんは、
「同じクラスの佐伯朱里さんと付き合うことになりました。男女問わず、朱里に手を出したら許さないので、よろしく。それから、オレと朱里のことは、この学校以外の者に話したり、SNSに載せたりしないでください。オレがいずれ公表した時には、好きなだけ語ってもらって構わないので、それまではよろしくお願いします」
そう言って、ゆっくり頭を下げた。チラッと朱里を見ると、顔を真っ赤にして、口をハクハクさせていた。どうやら、当人にはこのことを言ってなかったみたいだ。
今日の朝、二人の様子を見た時から、二人の間に何か変化があったことは分かっていた。やっと付き合ったか、長かったなーと、そして、恐らくクラスメイトのほとんどは同じ感想を抱いているだろうと、朝霧は思った。
私が亮くんと出会ったのは、まだ幼稚園の頃だ。近所に越してきて、初めて会ったのは、迎えのバスを待っている時。初めて見たその男の子は、朝日をあびてキラキラしていて、一瞬物語に出てくる、どこか遠くの星から来た王子様かと思った。その王子様は、私よりも小さくて、体も弱くて、元気の良い男の子たちにからかわれていたりして、私が守ってあげなければ・・と、思うようになっていった。
小学生になると、亮くんは少しずつ体も強くなり、活発になっていく。・・というか、時々近所を走ったりして、鍛えているようだった。亮くんは、その頃から、周りの女の子から好意の目を向けられていて、そうなると、男の子たちからやっかみを受けそうなところだが、自分に人気があることは理解していた亮くんは、早いうちから男の子たちと仲良くするようにして、普段から野球やサッカーなど遊んだりしていたため、反発が起きることはほとんどなかった。あっても、友達がたくさん居たので問題なかったとも言える。
そして、突然芸能事務所に入った亮くんは、雑誌のモデルを始めるようになる。歌手になりたいと、学校で歌を歌うこともあり、気づけば学校中の女の子たちの注目の的となる。そうなると、亮くんの周囲でトラブルが起き始めたため、亮くんが問題なく生活できるよう、私はその女の子たちを取りまとめるようになっていった。
中学に入ると、亮くんは恋をした。ある時、亮くんの視線が時々誰かを追っていることに、いつも近くで見ていた私は気付いた。最初は少し気になる存在だったのかもしれないけれど、ある日を境に、亮くんは彼女と交流を持とうと、積極的に近づきだした。その様子に、私だけではなく、周囲もだんだん亮くんの気持ちに気付いていっていたと思う。
亮くんが好きになったのは、佐伯朱里さん。大人しそうなお嬢様風の見た目の綺麗な子だった。彼女は、初めは亮くんに興味なさそうな態度をしていたが、いつしか彼女の視線は良く、亮くんを追っていた。本人は気づいていなかったのかもしれないけれど、亮くんに興味を持っているだろうと、少なくとも亮くんが告白する少し前あたりの頃には好意を持っているように、私には見えていた。だから、まさか告白から1か月以上経っても、交際が始まらないとは思っていなかった。
周りの子たちの真意は分からないけれど、私は、出会ったころから、亮くんが幸せになってくれたらいいと、亮くんが憂いなく過ごせることが願いだったので、想いが通じれば良いと願っていた。亮くんが告白した時も、上手く彼女の気持ちを聞き出せればと思っていたけれど上手くいかず、亮くんに特に好意のある子たちが暴走しかけてしまった。それが二人の関係が進まなかった要因だったのかもしれないと後悔したが、それでも亮くんは、自分の力で彼女と周囲を納得させて、ついに二人の交際がスタートして、本当に良かったと思う。
夏休み明けの始業式で全校生徒に発表後も、少なからずトラブルはあったが、亮くんが彼女のことが大好きということを常に体現していて、彼女に向けている顔が、普段自分たちに向けられている表情と違うことを感じれば、認めるしかないとも思えてくるようで、納得する者が増えていく。更に朱里がお嬢様風の見た目をしていたこともあり、いつしか王子と姫と例える人までいた。そして、だんだん二人を自然と見守るような、二人が一緒にいることが当たり前の環境になっていった。
また、亮くんは、夏休み中にクラスの男子たちと色々準備を進めていたようで、学校の者しか入れない、コミュニティサイトを作っていた。そこは、亮くんが自分の芸能活動情報を流したり、みんなが外部に出せない話を好きに書き込む場だったり、学内の者と話したりできるチャットルームみたいなものがある場だった。私も管理者の一人として、特に女子たちの案内という名の監視役みたいなことを頼まれていた。
中学3年生になった頃、亮くんの変声期が終わり、本格的にデビューに向けて進めていくという話を聞いた。芸能活動を認めている学校へ移るという話もあったようだが、今年で卒業だし、何より彼女と離れたくないみたいで、学校側と相談して、今までどおり卒業まで通うことになったそうだ。
そして1月、年明けの始業式に、中学卒業後、自身の誕生日当日がデビュー日に決まったと、亮くんは全校生徒の前で再びお知らせした。そこからは学校に来る回数も減ってきていたが、そもそも受験シーズンだったので、問題なかったとも言える。
卒業式は、式自体は、保護者も来ているからか、普通に滞りなく終わったが、すべて終わったあと、亮くんは、体育館のステージで、元吹奏楽部の子たちなどに演奏を頼んで、卒業生、在校生と教師向けに「卒業ライブ」を行った。文化祭でも、中2の時は変声期でできなかったが、ステージで歌を披露していた。多分、二人の交際をだまっていてもらうお礼の意味もあったと思う。卒業式ライブのあと、亮くんと二人で写真を撮ることもできた。彼女がいることを話さなければ、亮くんと同じ学校で同級生であることは公表しても良かったので、SNSに載せたり、別の学校の友達に見せたりしたいと、撮る者が多く、卒業式が終わっても、かなり長時間学校にいることになり、大急ぎで謝恩会に向かうことになったのは記憶に新しい。
・・・そう、そして私はこれから亮くん、いや、RYOのライブに行く。朱里とのことをこのライブで公表するというライブ。やっと、私が見守る必要がなくなるのだ。亮くんと出会ってから、ずっと見てきた亮くんとの関係も、ひとつの区切りを迎えることになる。もう、私がずっと見守る必要はなくなるのだ。それは少し寂しくもあるが、やっと肩の荷が下りる気分のほうが大きい。
二人の交際が発表されたら、多少騒動はあるかもしれないけれど、それが落ち着いたら、私もあの人に「好き」だと伝えたい・・そんな想いがでてきていた。あの二人を見ていたら、私もあの人と二人のように付き合えたら・・と、ひとまずこのライブが終わったら会いに行こう!と思いながら、RYOが朱里について語るところを、私は見守った―――――
朝霧さんにとって亮は別世界の王子様で、恋愛対象ではありませんでした。そんな朝霧さんにも好きな人ができました。




