夏休みのお出かけ、そして・・
最終話です
「じゃ、オレたちも行こうか」
そう言って、亮は朱里に手を差し出した。
今日は、10時に家を出て、約1時間ほどかけて都内の楽器店に立ち寄った。亮はギターの弦を買ったり、作曲用の音源ソフトを予約していたみたいで、その為に来たようだ。その後、亮にねだられて、ピアノの試奏をすることになり、何故かそこに居た店員や客らに見られながら弾くという、朱里としては実に居心地の悪い時間を過ごしたあと、更に電車で移動して、このお店で昼食を食べることになった。既にお昼は大分過ぎていて、食事と川崎と話をしたりで、それなりに時間は経っていたので、今日はこれで帰ることになるのかなと、朱里は思う。
そして、朱里は今、亮と手を繋いで、亮の言うまま案内されている。夏休みの都内は、さすがに混んでいたので、朱里も拒否することなく、亮と手を繋いでいた。むしろ、あまりの人の多さに、手を繋いでもらって良かったと思っていた。
「あそこ」
昼食を食べた店から、少し歩くと、亮が指さした先にあったのは、水族館だった。今日行くところは亮に任せていたわけだが、楽器店といい水族館といい、朱里の興味のある場所へ案内されている。
(もしやまた、お兄か怜にでも聞いたのかな?)
朱里がそう思っていると、
「朱里、海の生き物とか好きだろ? 貝殻柄の下敷きとかペンギンのポーチ使ってたり、それ・・」
朱里の胸元にある、イルカのモチーフのネックレスを指さす。父親が海外土産で買ってきてくれたものだ。
「この前出かけた時もつけてたし、気に入るかな?・・と、思ったんだけど」
照れ臭そうに頬をかきながら、来た理由を亮は言った。聞いたわけではなく、亮の判断だったようで、朱里は好みに気づいてもらえていて、嬉しくなった。
「うん・・ありがと」
行ってみたいと思っていたところに、連れてきてもらえたので、お礼を言えば、亮も嬉しそうに微笑んだ。
「ここイルカはいないからさっ、今度はイルカショーのあるところに行こうね!」
早々に次の約束を取り付けにきた。今までであれば、断るか、考える期間をもらうところだが、今は不思議と、また一緒に出かけたいと、朱里は思うようになっていた。そのため自然に、
「うん」
と言うと、亮は一瞬驚いたが、すぐに満面の笑顔になった。
「夏休み中は、部活と仕事とレッスンがあるけれど、時間作るからね!」
相変わらず忙しい亮だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
水族館で、ペンギンやクラゲ、大きな水槽の魚など、たっぷり見て満足した二人は、館内のカフェで一休みしたあと、地元へ帰ることにした。
そして、亮は朱里を家まで送ってくれる。きっと亮はそうしてくれると朱里は思っていた。家に近づくにつれ、朱里は緊張していく。今日は朝から、ドキドキしていたが、比にならないくらいドキドキしてくる。今日は、ちゃんと亮の告白の返事をしようと思っていた。彼のマネージャーの川崎から、「覚悟」が必要とも言われたが、考えてみれば、分かり切っていることだった。
「今日は、ありがと。楽しかった」
家の門の前で、朱里は亮と向かい合った状態でお礼を言った。亮は名残惜しそうに、朱里と両手を繋ぎつつ、左右に軽く振っていた。
「オレも楽しかったよ。デートしてくれて、ありがとう。また行こうね!」
現在進行形で楽しそうに亮は言った。
(言わなきゃ・・)
二人の間に沈黙が流れるが、亮は朱里が何か言いたそうにしている様子を感じ取り、言い出すのを笑顔で待っている。
そして、朱里は緊張しながら、覚悟を決める。
「あの・・さ、いいよ」
ドキドキしすぎて、心臓が飛び出しそうだった。亮は良く言えたものだと感心する。告白に返事するとは決めたものの、なんと言えばよいのか、上手く言葉にできなくて、ただ一言だけ、簡潔に告げたまま、黙ってしまう。
「えっと・・何が?」
亮は我慢できず問いかける。亮は笑いをこらえているが、朱里はいっぱいいっぱいで、その様子には気づいていなかった。
さすがにはしょりすぎたかもと、朱里は思い、
「つっ・・」
「つ?」
「つき・・」
「月?」
亮は朱里の言いたいことが分かっているのか、少し嬉しそうに、朱里の言葉を繰り返してきた。ここでようやくからかわれていると気づいた朱里は、顔が熱くなる。もぉっ・・と思い、
「・・付き合ってもいいよっ」
絞り出すように早口で言い放つと、亮は、少し頬を赤くして、笑顔になった。その顔を見ていられなくなって、朱里は顔をそむけると、亮が近づいてくるのを感じた瞬間、頬に何か触れた気がした。
……何が・・
と、思って横目でチラッと見た瞬間、亮の顔が間近にあって、頬にキスされていたことに気づく。
「・・っ」
朱里は真っ赤になって、声にならない声を出した。逃げ出すように後ずさりしようとしたが、亮に両手を握りしめられていて、それは叶わない。
そして、亮に握られている手すら恥ずかしさに離したくなって、その手を見つめていると、亮が片方の手を離し、キスした左頬に触れて優しくなでたあと、自分と視線を合わすように朱里の顔を向けさせる。目が合うと、
「朱里、大好きだよ。今度は“好き”って言ってね!」
満面の笑顔で告げた。
(そんなの無理ぃぃぃー)
再び爆発したかのように朱里の顔が赤くなった。顔が熱くて、心臓がドキドキを超えてバクバクしている。
亮が「好きだ。付き合ってほしい」と言われたことに対して、「いいよ」と言うのが精いっぱいだった。「好き」なんて、ずっと好きじゃないと思い続けてきた相手に、言えるとは思えなかった。
……でもいつか・・いつかはちゃんと伝えられたらいい・・のかな?
亮の笑顔を見て、今まで感じていなかった温かい気持ちになってくる。そう、この笑顔が好きだったんだと。
関わりたくないと言いつつも、この笑顔を見ていたくて、亮が話かけてくれることが嬉しくなっていった。それは、亮が朱里を得るために画策していたことかもしれないけれど、分かっていても、そんな亮にどんどん惹かれて、それでも付き合えるわけないと思っていたのに、心配いらないと、朱里の悩みは亮が全て振り払ってくれた。そんな亮に、亮のために自分のできることをしたいと思った。「亮と恋人同士になりたい」と、そう思ったのは、もしかしたら、ずっと前なのかもしれない・・・
そんなことを考えていると、少しずつ心臓の鼓動が落ち着いてきた。そして、
「い・・いつかね」
亮に返せば、返事がくると思ってなかったのか、亮は一瞬驚いた顔をしたあと、再び破顔した。
「うん、ゆっくり待ってるよ」
そう言って、再び朱里と両手を繋いで、軽く握りしめ見つめてきたので、手のぬくもりを感じながら、朱里も亮を見つめ返し微笑むのだった。
―――――完―――
本編完結!!
あと、エピローグ3つ入れます! ここまで、読んでいただき、ありがとうございます! 感謝です!
二人の恋人関係を公表する高校卒業までを考えれば、第一部or第一章な部分ですが、このお話はここまでです。
ただ、元々どのように「公表の時」を迎えたのか?もテーマなため、この後を繋ぐストーリーとしてエピローグを3編書くことにしました。
それから、活動報告にあとがき的な?書き終えて的なもの?も書きました。




