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亮の考えていた事

投稿30話目

 朱里が今まで心の内に隠してきたことを打ち明けると、亮は心配ないと言って、説明をはじめた。


「今の事務所を辞めるつもりは無いよ。まぁ、最終手段かなとは考えてはいたけれど。さっきも言ったけど、彼女作ったらダメとは言われなかったし、社長やプロデューサーにも、きちんと話して今後のこと決めていけば大丈夫だろうって。まあ、デビューが決まったら、芸能科のある学校に通うことになるから、物理的な距離は離れる可能性はあるけれど・・」

 確かに、デビューすれば歌手活動のために、学校を早退したり欠席することもあるだろうし、高校も、朱里の学力と希望高校が、亮の通う予定の学校と同じになる可能性は低いとは思う。


「この間さ、夏休みに少し遠出しようって言ったじゃん? 実は、プロデューサーに会ってもらおうかなって思ってたんだ」

「無理」

 何故そうなるのか話が見えない。

「いやね、プロデューサーが朱里に会いたいって言ってて・・」

「なんでよ」

 ますます意味が分からないが、どうせ、亮が何か企てたのだろうと思って、少し亮を睨んで問い詰める。

「この間、朱里に聞いてもらった曲を、プロデューサーも聴いたわけだけど、オレの詩が変わったことに気が付いてね。何があったのか聞かれたから、その・・先生に教わったと・・あっ、もちろん朱里だとは言ってないよ。それで、朱里がオレに書いてくれた曲も聴かせたら、会ってみたいってね。だから、出かけるついでに、どうかな?って思ったんだけど」

 楽しそうに話す亮に、朱里は頭が痛くなる。額に手をあてて、「はぁー」と、ため息をついた。


 ……確かに、あの曲を聴けば、普段から見ているプロデューサーならば、詩が変わったことに気が付くだろう。“先生”に関してはひとまず放置だが、朱里が作詞したあの曲を聴かせたとか、多分、亮が聴かせるように仕向けた気がしてならなかった。そして、会ってみたいは社交辞令ではないかと思うわけで――――


「却下」

 必要ないと判断する。


「えぇー・・そうなる?」

(なるでしょ)

 朱里が納得したように見えていたみたいで、断られた亮は声を荒げた。

「朱里の詩が気に入ってくれたらさっ、プロデューサーもオレたちが付き合うこと、すんなり認めやすくなると思うんだよね!」

(それが狙いか)

「あ・・・」

 想定外のことに、企んでいることまで話してしまい、亮は「しまった」という顔をする。


「フフッ、ははは・・」

 その様子を見ていたら、笑いがこみあげてきた。

 最初は、朱里の隠し事を話していたはずなのに、いつの間にか亮の策略話になっていた。そして今、亮は話すつもりのなかった、自身の企みを口走ってしまったのだ。きっと、本来は、プロデューサーに会ったときに、朱里を驚かせるつもりだったのかもしれない。そう思うと、おかしくて仕方がなかった。


 ただ、朱里が笑っているのを見て、亮もどこかホッとしたのか、

「はぁー・・朱里が、オレの前で声だして笑うところ見れたし、まっいいか。まあ・・そういうことだからさっ、うん」

 そう一人納得して、亮は微笑んだあと、飲み物を口にし、思考をまとめる様子を見せた。朱里も、少しずつ落ち着きを取り戻していく。


 朱里が落ち着いたのを見て、亮は立ち上がる。その様子に、朱里は戸惑いの目を向けるが、亮はそれに構わず、近づいてきて、朱里が座る斜め左前に立つ。朱里がそんな亮を見上げるように見ると、亮は真剣な表情をしている。そして、話を戻すように話し始める。


「だから、朱里は何も心配しなくていいから。オレは、朱里とのことちゃんと考えてるから、離れるつもりないから、それだけは分かってほしい」

 朱里を見つめて、きっぱりと宣言する亮と目が合った。


 ――ドキッ


 まっすぐな目で見つめられて、朱里の心臓が跳ね上がる。ドキドキして、胸が苦しくて、亮の目を見ていられなくなる。返事をしなければと思うが、上手く声に出せなくて、朱里は亮から視線をそらすように俯く。


「朱里、焦らなくていい。朱里の気持ちは大切にするから・・今はただ、聞いてくれればいい」

 朱里が返事できずにいると、亮は少しかがんで、優しく囁くように言った。すると、少しずつ胸の苦しさが消えていき、気がかりだったことを思い出し、少し顔をあげる。

「あのっ・・ホントに私、亮に負担かけてない?」

 亮は朱里のために色々考えて、動いていてくれている。亮の負担になってないか、心配しなくてよいと言われても、本当に亮だけに任せてよいものなのかと不安になる。

「かけてないよ。これはむしろ、自分のためにしてることだ。オレが朱里と一緒にいたいから、行動しているだけだ」

 朱里が自分のためだと思っていたら、亮は亮自身のためだと言った。思えば、亮はこういう人だった。

(なら、私は亮のために、何ができるのだろう・・)

 そんなことが浮かんだ。そして、ずっと心の奥に何か絡まっていたものが、ほどけていくのを感じた。

「・・そう。分かった。ありがと」

 亮の考えを理解できたことを伝え、考えてくれていたことに感謝した。


 すると、亮はホッとした笑顔を朱里に向けながら、

「うん、オレも朱里が悩んでたこと、聞けて良かったよ。今日は話せて良かった」

 そう喜ぶ様子を見て、亮に向けてもう一つ返事をする。

「亮のこと・・・真剣に考える、ね」

 もう朱里の中で、答えは出ているのかもしれない。それでも、今、この場で告白の返事をしようとは思えなかった。


 ただ、亮は、朱里にそう言われて、一瞬驚いた顔をしたあと、満面の笑顔になる。

 まだ自分の想いが通じたわけではないが、それでも亮は十分だというように、

「あぁ」

 と、短く返事をした。


 話がひと段落して、壁にかかる時計を確認する。気づけば1時間ほど話していたようだ。もっと話していたい気もしてくるが、夕飯の時間も迫るし、亮も帰らなければならないだろう。そう思っていると、


「さて、帰るか。今日は、ありがとうね」

 亮はそう言うと、座る朱里の手を取って、立つように促される。それに従って立ち上がり、顔をあげれば、亮と目が合う。

(近いぃ――)

 思っていたより顔が近くにあって、朱里は思わず動揺する。なんとか平静を装うが、亮は気づいているかのように、微笑んだ。


「じゃあ、夏休みのことは互いの予定見て決めようね! また明日、学校でね!」

 そう言って、亮が帰っていくのを、朱里は玄関で見送った。


ブクマありがとうございます。読んでいただき、ありがとうございます!

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