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朱里の隠してきた事

 ―――ピーンポーン


 亮が家に来た。部活後はジャージのはずだが、どうやら着替えてきたようで私服だった。

 そして、沙織さんに案内されてリビングに入ってくると、すぐ、

「時間とってくれて、ありがとう。朝は、ホント、ごめん」

 亮が頭をさげてきた。反応に困っていると、

「別に退路を塞ぐつもりはなかったんだ。でも・・朱里にも周りにも、オレの想いは理解してもらいたいという意図はあった」

 亮が体を戻して、朱里を見たため、目が合う。いつの間にか、朱里より目線が上にあることに気が付いた。

「朱里最近、オレと向き合おうとしてくれてるだろ?」


 ――ドキッ


 気づかれていたことへの戸惑いと、嬉しそうな笑顔で見つめられて、朱里の心臓が跳ね上がった。それを、ごまかすかのように、とりあえず席を勧め、向かい合ってソファーへ座ると、沙織さんが飲み物とクッキーやスナックなど小さなお菓子の入った菓子箱を持ってきてくれた。お礼を言って、沙織さんがリビングから出て行くと、亮が飲み物・・外は暑かったみたいで、良く冷えた塩ライチティーをゴクゴクと半分ほど飲んだ。朱里も一口飲み、おいしいと思っていると、


「これ、おいしいな」

 亮も気に入ったようだった。気の利く沙織さんは、ちゃんとおかわり用のボトルも用意してくれていたので、欲しければおかわり可能だ。

 そして、飲み物のおかげか、互いに少し緊張が解けた気がする。そして亮が話し始める。


「オレは・・朱里のことが好きだ。朱里をずっと見てきたから、朱里が何か悩んでいるのは分かってるつもりだ。困らせているのがオレだってことも・・オレじゃ頼りがいがないかもしれないけど、朱里の悩んでることに、オレも関わらせてほしい。朱里が抱えてること、聞かせてくれないかな?」


 朱里もいい加減話さなければとは思っていた。でも亮が、今まで朱里のためにしてくれていたことを考えれば、話すことで、また彼の負担になるのではないかと思い、すぐに口に出すことができずにいた。黙っていると、


「なぁ、朱里。もし、オレのこと考えてくれてるなら、話してほしい。オレのこと信じてくれないか? せかすつもりは無いとは言ったけど、朱里が何か悩んでることで、オレとのことに答えが出せないのなら、聞かせてほしい。オレがなんとかできることなら、全力でなんとかする。なんとかできるよう頑張る。オレじゃ無理なことでも、なんとかできないか考えて頑張るけど、朱里の気持ちは大事にするつもりだ。だから信じて話してほしい」


(この人はホントに、自分の想いを叶えるためなら全力なんだから・・)


 そんな彼を好ましく思っている自分がいる。そして本当に、なんとかしてしまうのではないかと思い、これ以上、はぐらかすわけにはいかないと、ようやく重かった口を開く。


「あの、ね、私のこと、ちゃんと見てくれて好きになってくれたのは嬉しい。けど、あなたと付き合うことはできない・・・あなたは・・亮はこれから歌手としてデビューするんだから・・」


 亮の歌手デビューの邪魔はしたくない。

「だから、なに?」

 亮は少しイラついたかんじで、続きを問うかのように聞いてきた。その様子に、ついに朱里は、今まで黙ってきたことを口にする。

「だから・・仮に付き合ったとしても、デビュー決まったら、どうせ私とは別れなきゃいけなくなるんでしょ。だったら、最初から付き合わないほうがいい」

 きっと、まだ今なら、引き返せる・・はずだ。


「なんだよ、それ。オレは朱里と別れるつもりなんて無い。何なら、すぐにでも結婚したいくらいなのに」


(は?結婚?)


 朱里が目を見開いて固まっていると、亮も、つい口走ってしまったと頬を赤くし、口元を押さえる。

「っと、それは、まあ先走りすぎたけど、とにかく、オレは朱里との関係を限定的にするつもりはない。もちろんオレは歌手になるよ。でもデビューするのに、彼女がいちゃダメとは言われてないし、言われたら断固拒否する。それに認めてくれないんだったら、事務所を辞めてでも――――」


「それはダメっ」

 思わずテーブルに「バン」と、手をついて、立ち上がってしまう。

「歌手になるんでしょ? そのためにずっとお世話になってる事務所をやめるなんて、言っちゃダメだよ」

「でも、歌手は他の事務所でもできるけど、朱里とのことは朱里じゃなきゃダメだし、オレは朱里と付き合いたいし、もし別れるように言われも無理だし。だったら・・」

「はぁーそうなるのが嫌だから言えなかったのに・・」

 亮が朱里を優先することだけは避けたかった。だから今まで隠してきたというのに。

 どこまでも朱里優先な亮の言葉に脱力して、再びソファーに腰をかける。


「あーなんか悩ませちゃったかな? ごめんね。でもきっと大丈夫! 心配しなくていいよ。オレは、デビュー決まっても朱里と別れる気はないから。朱里に見限られない限りね。実はね、もうマネージャーさんに相談してるんだよね」


(はい?)


 ……それは、すでに根回し済みということだろうか。

 自分の望みのためなら策を講じる亮に、呆れ果てる朱里だった。


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