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終業式前日の出来事

 一学期の終業式前日の朝。


 朱里が教室の後ろのドアから中に入ると、普段なら亮が気づいて近づいてくるが、今日は違った。教室の前方で、亮と朝霧を中心に、亮の取り巻きたちがかなり居て、何やら話している。今は他のクラスの取り巻きたちも居るように見える。疑問に思いながらも、とりあえず自分の席へ移動すると、近くの席の子が、前方の状況を説明してくれる。最近は、クラス内でも、亮の取り巻き以外は、かなり二人に好意的な様子になっていた。


「いつもは、佐伯さんが来る前に終わってるんだけどね・・」


 どうやら最近、取り巻きたちに絡まれなくなったのは、亮が説得をするなど、対策をしていたらしい。あの、亮が告白してきたあとの事があってから、亮自身の気持ちや考えと、朱里とのことを納得してもらえるように話をしていたと聞いた。


(あれから何もなかったのは、亮のおかげだったんだ・・)


 確かに、あの時、考えるし守ると言われたが、本当に守られていたとは気づいていなかった。

「最近はもう、二人が付き合ってるようにしか見えなかったからねー」

(え? マジで?)

 自分たちが周囲から、そんな風に見られていたことを知る。彼女たちも、本当のところはどうなのか聞きたそうにしているのを感じるが、亮が「せかさないで」と言ってくれているようで、聞いてはこない。実際は友達になっただけで、付き合ってはいないわけだが。



「亮くんは、本気で佐伯さんと付き合うつもりなの?」

「もちろん。諦めるつもりはないよ」

 そんな話が聞こえてきた。・・というより、だんだんヒートアップしてきたのか、声が大きくなってきたようで、恐らく教室中に、聞こえているし、みんなが聞いていると思う。


「もうすぐ2か月だよ? 最近少し仲良くなってきたとはいえ、佐伯さんはもう・・」

「朱里の気持ちは関係ないよ。オレが好きってだけだ。そりゃあ好きになってもらいたいし、付き合いたいと思ってる。だからオレのこと少しでも知ってもらおうと頑張ってきたし、オレも少しずつ朱里のこと分かってきたんだ。朱里のペースで、答えてくれたらいいと思ってる」

 彼女の言葉に被せるように、亮は自身の想いを語っていく。

「朱里に対する真剣な気持ちは変わることないけど、君たちとの時間も、今までどおりちゃんと作るから。君たちが朱里に対して、色々と思うところがあるかもしれないけれど、オレは別に音楽一家だからって朱里を好きになったわけじゃない。もちろん朱里の音楽センスは気に入ってるけどね」

 いつの間にか、朱里の家庭環境が知れわたっていたらしい。そして朱里への不満のようなことを言われていたみたいだ。更に亮は、朱里について語っていく。

「口数少なかったり端的に話すところだって、別におかしな事を言うわけじゃないし、最近はそういうところもいいと思ってる。たまに自然に話してくれるようになって、それが今嬉しいんだ。オレの気持ちは変わらないよ」

 嬉しいと言って、真剣に話す亮の姿は、普段彼女たちに見せている姿と違うように見えた。朱里のことが好きで、みんなに認めてほしいということを体現している。その姿に、朱里は心臓がドキドキして顔が熱くなり、自分の話題に、教室から離れたくなってくる。


 亮に詰め寄った朝霧は、あまりにも亮がきっぱり言い切ったことで、息をのむ。それは朝霧だけではなく、他の取り巻きたちも、何も発せなくなっていた。そんな周囲の様子に、

「だからみんなには上手くいくように、応援してもらいたいけど、あまり朱里をせかさないでほしいかな・・ってオレが一番せかしてるかっ」

 そう言うと、クラス内にくすくすと笑いが広がった。

(こういう持っていき方は上手いのよね・・はぁー)

「少しは分かってもらえたかな?」

 亮が周囲の取り巻きたちを見渡すように確認すると、ある程度納得をしたような様子になり、朝霧など何人かがうなずいたことで、この話は終わりとなった。

(ずるいなー・・これじゃあ、ちゃんと話するしかないじゃんっ)

 胸が苦しかった。



 そして、チャイムが鳴り、朝のホームルームが、はじまった。




 ――放課後―――――

「朱里、また明日ね」

 ニコニコ顔の亮が帰りの挨拶をしてきた。思わずそんな亮をジッと見てしまい、

「じっと見てどうしたの?」

 聞かれるが、答えないでいると、

「あっ、朝のこと?」

 確信をつかれビクっとしてしまう。

「あー・・なんかゴメン。今日はちょっと話が長くなっちゃってね」

 教室で謝られ、周りのクライメイトたちが、こちらを気にしている雰囲気を感じて、朱里は小さく頷く。

「でも、まあ、朱里が来たことに気づいて、話したところもあったけど・・あのさ、できれば今日、部活のあと話す時間もらえないかな?」

 明日は終業式のため、今日の部活は普段より早く終わるはずだが、終わり時間は部によってまちまちだ。小声で話す亮の顔には、「家に行きたい」と、書いてあるように見えた。

(まぁ、そうだよね・・)

 そう思って、朱里は再度頷く。それだけで、亮は十分と判断し、

「じゃあ、部活終わったら連絡入れるね!」

 そう言うと、ドア付近で待っていた怜と一緒に、部活へと向かっていった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・


 朱里が部活を終え、帰り際、校庭を見ると、陸上部はまだ部活中だった。遠目に亮が走る姿が見えた。


 家に帰り、沙織さんに亮が来ることを伝え、制服から普段着に着替えていると、


 ―――ピコーン


 通知音が鳴り、確認すると亮から、

『部活終わったから、これから朱里の家に行くね!』

(・・これから)

 一気に緊張してくるのだった。


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