7月三連休~朱里の企て~
亮の家で、遊びに近いが作曲体験して、更に亮の新曲を聞いたことで、新たな刺激を受けた朱里は、週末作詞に没頭していた。この三連休、亮は芸能事務所の仕事をすると言っていた。新しい作曲用の機器が欲しいみたいだ。
「デートできなくて、ごめんね」
からかい半分に言われたが、明らかに残念そうだったのは彼だった。
「よし」
いいかんじに出来たため、思わず声が出た。今、目の前には、詩を印刷した紙が数枚。朱里は、それを見て満足し、口元が緩む。
しかし、パラパラと確認すると、
「うーん・・」
最初は、兄のバンドにと書いていたが、調子に乗ってきて、気が付くと、亮のためにも詩を書いてしまっていて、緩んでいた口元を引き結んだ。
“キミに書くのは今回限り”と言った手前、書いたとは言いにくい。でも、書いたものを渡さないでいるのも、妙に落ち着かない。
(これに曲つけて、あの人に歌ってもらいたいな)
ふと、そんな思いが沸き上がる。
……まさか、自分がこんなことを思うなんて。兄のバンドに書いていた時は、ただ面白くて、自分の詩が兄によって曲がつけられていくのが楽しかった。詩を書くのも、兄に喜んでほしくて、褒めてほしくて、書いていただけだった。毎回印刷して紙で渡すのも、直接渡して反応が見たいからだ。しかし、今回亮に詩を書き終えた時には、亮に自分の詩を使って曲を書いてほしいと思うようになっていた。
(と・・友達としてよっ)
特別な意味も感情もない。そう、友達として、渡せばいいじゃないか、なんなら、この間の作曲体験のお礼という事にすれば良いかも・・そんな結論を出す。
友達・・・
「友達なったんだから呼び方変えない?」
そう言った亮のことを思い出す。名前で呼んでほしいということだ。
(名前かぁ)
名前で呼ぶことに抵抗があるわけではない。怜や兄のバンドメンバーだって呼んでいる。ただ、関わりたくなくて、彼との距離を取るために、あえて頑なに言わなかっただけだ。「呼んで」と言われて、すぐ呼ぶのも癪だし、突然変えることも難しい。考えをまとめたくて、時間をもらったかんじだ。
……突然呼んだら驚くかな?
毎回、驚かされているから、たまにはこっちから驚かせるのも良いかもしれない。ふと、そんな企てが浮かび、再び口元を緩ませた。
――三連休明け―――――
「おはよう、朱里」
教室に入れば、いつものように亮が近づいてきて、挨拶してくる。
「おはよう」
挨拶して、朱里も自分の席へ行く。亮も当然ついてくる。席につけば、
「朱里、夏休みさ、ちょっと遠出しない?」
もうすぐ夏休み、予定を取り付けようとしてきた。隣町のパンケーキ屋以来、亮とは出かけていないので、また出かけたいのだろうが、朱里はまだ、二人で出かけることに戸惑いがある。亮が自分に好意があるのが分かっていて、二人で出かけるというのは、心理的にきついのだ。だが、夏休みに限らず、いずれは、彼とちゃんと話す機会を作って、結論を出さなければならないだろう。そう思いつつ、
「・・考えとく」
そう言えば、亮も納得の笑顔で、
「うん、分かった」
と、朱里の予想どおり答えてくれる。
そして亮が、自分の席へ行こうと動き出したところで、
「亮」
朱里が亮の名前を呼んで、呼び止める。亮は動き出そうと、向きを変えた状態の形で固まった。朱里は、驚かせることに成功したと内心ニンマリしながら、カバンから紙を取り出し、何事もなかったように、
「これ、渡しておく」
二つ折りにした紙を、亮の目の前に差し出すと、それに視線を落とすが、
「え? ち・・ちょっと待って、もう一回」
理解が追い付かないのか、頭を押さえて、紙には目もくれず、朱里に振り向いてきた。
なんだか亮の耳が赤い気がするが、とりあえず、
「これ、渡しておく」
もう一回言って、紙をヒラヒラさせる。
「・・じゃなくてっ」
亮が何のことを言いたいのか、朱里も分かってはいたが、直前のことをもう一回繰り返していた。なので、
「亮?」
「そう、それ」
「ダメだった?」
「い・・いや、嬉しいよ」
亮は、ようやくいつも通りに戻り、朱里に笑顔を向けてきた。ようやく自身の要望が叶って、かなり嬉しそうだ。
「それで・・これは?」
朱里が手に持っていた紙を手に取り、中を見る。亮は一瞬目を見開いて驚くが、詩ということが分かると、
「これ、もらっていいの?」
「・・うん、この間のお礼。良ければ使って」
1回限りの件を、亮は突っ込むことはない。お礼だと言い訳はしたが、朱里もそういう亮を理解していた。
「ありがとう」
そう言うと、亮は朱里の席を離れる。ただ、いつもは自分の席か友人たちのところに行くのに、何故か足早に教室を出て行った。
――そんな亮の耳が赤いことに朱里は気づかず、教室から慌てるように出て行く亮を、不思議そうに見送った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
教室を出た亮は、
(ヤバイ、嬉しすぎる)
好きな人に名前を呼ばれると、こんなにもドキドキするものなのかと、亮は思いながら、心を落ち着けるべく、トイレへ駆け込んだのだった。
亮の家に行った日から、次の出来事までの間の、ワンクッション。そして、ついに?名前呼ばせてみました。




