亮宅へ行く日
水曜日―――――
今日のことを莉奈に話したら、「結局、仲良くなってるし」と、呆れ半分に言われた。
この日は、部活があり、運動部である亮が遅くなるため、終わったら連絡するということになった。それまで朱里は、音楽室は閉まってしまうので、下校時間までは開いている図書室に居ることにして、亮からの連絡を待って、一緒に学校を出た。
――そして今、朱里は亮の家の前に居る。
「さっ、入って」
亮が鍵を開けて家に入った。
「・・お邪魔します」
おずおずと入る。
「あっ母さんにはちゃんと、オレの好きな人が来るって言ってあるから、気にしないで」
「気にするよっ」
思わず、返してしまった。朱里の反応に、亮はニコニコしながら、
「大丈夫、大丈夫。ほら、上がって。オレの部屋、二階だから」
そう言って、ため息をつく朱里を招き入れる。
「あっ、それともなんか飲む? 朱里んち行くと、いつもお手伝いさんが出してくれるけど」
亮が階段に足をかけたところで、立ち止まり、思い出したかのように尋ねた。
「ん・・大丈夫」
「そう? 欲しくなったら言ってね」
「うん」
確認を終えると、階段を上がっていきながら、話し出す。
「最初、朱里んち行った時は、すごく大きくて、お屋敷ってかんじでビックリしたよ。お手伝いさんまで居てさぁ」
「家は両親が不在がちだから・・」
そう答えたところで、階段を上がり切り、亮が自室と思われるドアを開けた。
「どうぞってか、うわっ、なんか緊張してきた」
まぁ、普通中学男子の部屋に、同級生の女子が入ることなんて無いだろう。朱里は、怜の部屋に出入りしているので、たいして気にはしていなかったが、それでも亮の部屋に入るということで、少し緊張していた。
亮の部屋は、6畳ほどの部屋に、勉強用の机、ベッドが端のほうにあり、あとは、作曲のためのスペースというかんじで、パソコンと小さめのスピーカーの乗った机、その横にオーディオやMIDIキーボードが置かれている。楽器類は、電子ピアノやエレキギターに、アコギも置かれているが見えた。
「ピアノは小さい頃少しだけ習ってたんだ。エレキは今勉強中」
朱里が楽器に視線を向けていることに気づいた亮が、説明しながらパソコンを立ち上げると、そちらに視線が向く。
「見る?」
「うん」
亮がピアノのイスを、パソコンの机の近くに移動し、座るよう勧めるので、荷物を近くに置いて、朱里は座ると、パソコンの画面を凝視した。
(へぇーこんな風になってるんだ)
亮はパソコンを使って、作曲編集していた。いわゆる打ち込みで曲を作っていくわけだが、色々機器を揃えなくてはいけない。
「色々持ってるんだね」
パソコンの付近を見ると、ヘッドホンやつまみのたくさん付いた機器もあった。楽器類もあるし、これだけそろえるのは大変そうである。こういうものがあるのは知っていたが、詳しくは知らないため、目の前の光景に、朱里は単純に興味を持った。
「楽器やパソコンは親に買ってもらったけど、他の機器は・・それを揃えるために、モデルやったりしたってかんじなんだ」
「そうなんだ」
なるほど・・相変わらずこの人は、自分の叶えたいことのために出来ることをやるんだなと、朱里は思った。
そして亮は、パソコンを少し操作すると、2オクターブほどのキーボードを手にして、キーを押すとスピーカーから音が出る。エレキギターの音だ。
「こうやって弾くと、こんな風に音が表示されてー・・再生すると、こんなかんじね」
パソコン画面を指さしつつ、亮が色々操作していくと、ギターソロのシンプルなメロディーがスピーカーから流れる。
「それを、ここの画面で、手を加えていくと・・」
再び再生されると、先ほどの単調だったメロディーに強弱がついたり、音色が変化したりする。たった4小節くらいのメロディーだけだが、ガラリと変わり、朱里は見ていて楽しくなって、目を輝かせる。
「こんなかんじで・・またコードを入れたり、ベースやドラムとか加えていくわけだな」
「うんうん」
「やってみる?」
「いいの?」
「うん、これは、まぁ、お試しみたいにしてるだけだから」
「へぇー」
テンション高めに返事をしてくれる朱里に、亮は若干戸惑いつつも、キーボードを差し出し提案すると、喜んでキーボードを手にした。朱里はコードを入れたり伴奏を加えていく。パソコンはさすがに亮が扱ったが、二人でアレンジを考えていくと、4小節のギターソロが完成した。
「一応、一通り流れはこんなかんじかな」
「うん、十分だよー・・満足。ありがとう」
朱里は亮に満面の笑顔でお礼を言った。初めてに近い、自分に向けられた笑顔に、亮は顔が赤くなる。それをごまかすように、
「なら良かった。あっ、喉乾いただろ? なんか飲み物持ってくるから、これでも聞いててよ。朱里にアドバイスしてもらった後に、作ったやつなんだ」
口早に言いながら、朱里にヘッドホンを渡し、パソコンを操作すると、部屋から出ていった。朱里は、その様子を横目に見送ると、ヘッドホンから流れる音楽に集中した。どうやら歌も入っているようだ。
聞き終わり、ヘッドホンを外す。部屋を見回すと、勉強机のところに亮がいたが、手に持った、コップを渡してきたので、受け取る。
「ありがとう」
一口飲むと、甘い、桃フレーバーのアイスティーだった。朱里の好みを分かって用意したようで、朱里は嬉しくなった。
「曲どうだった? この間、プロデューサーに聞いてもらって、褒めてもらえたんだ」
一旦部屋を出て、落ち着きを取り戻した亮が尋ねる。
「うん、良かったよ、聴きやすくなってて・・・あっ、褒めてもらえて良かったね」
朱里も少し落ち着いてきていて、普段に近いテンションで話す。
「ありがと、朱里のおかげだよ」
「全然・・キミが活かした結果でしょ」
その言葉に、亮が顔をしかめる。
「まだ“キミ”か・・なぁ、友達になったんだし、呼び方変えない?」
以前から名前で呼んで欲しがっていたので、連絡先交換の次の要望は、それになるだろう。それは分かるが、
「・・すぐは、無理」
冷静になって考え、素直に今思っていることを答えれば、亮も理解を示し、
「そか、ゆっくり待つか」
と、呟いた。
(はぁー・・初めて見る機器に、興奮しすぎちゃったなぁ)
朱里は亮と話しつつ、アイスティーを飲むと、さっきまでの自分を思い出して、内心頭を抱えていた。
「さて・・もうすぐ7時だけど、朱里時間大丈夫?」
亮が話題を切り替えるように尋ねる。作曲体験に、気づけばかなり時間が経っていた。
「あっ・・そろそろ帰るよ」
今日は寄り道して帰ると、沙織さんに言ってあるが、そろそろ帰るべきだろう。立ち上がってイスを戻そうとすると、
「そのままで、いいよ。じゃ、行こうか」
言っていたとおり、送ってくれるみたいだ。
亮が朱里からコップを受け取り、キッチンに入っていくのを廊下で待つが、中の様子が見える。
(あれ?)
キッチンは使われたかんじに見えなかった。コップを置いて戻った亮が、首を掲げている朱里に気づき、
「あー夕飯は、これから作るんだ」
「え? キミが?」
「そっ。母さんが夜勤の時とか、自分で作ってる」
「そうなんだ」
「いずれ一人暮らしすることになるだろうし、練習も兼ねてってかんじかな」
なんというか、相変わらず先を見通して行動しているなぁと、朱里は感心する。
話しながら、玄関へ向かい、亮の家を後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・
朱里を家まで送っていく道すがら、
「ところで、さっきの曲、気になったことは無かった?」
亮は、先ほど朱里が何か言葉を飲み込んだように感じていたので、質問を投げかける。音楽のことだと朱里はけっこう真剣に答えてくれると分かっていてのことだ。
「えと・・良かったんだけど、なんというか・・」
「ものたりない?」
朱里の戸惑いがちな言葉を引き継ぐと、
「うん」
肯定された。
「やっぱ、そうか・・」
亮は納得し、つぶやいた。それは先日プロデューサーにも言われたことだった。
そうして、朱里の家に着くと、お礼を言い合って、「また明日」と、別れた。
ハイテンション朱里に、ちょっと長くなりました(笑)
最後は亮視点なかんじでした。




