亮宅へのお誘い
短め、繋ぎ3編なかんじ
期末テストの答案用紙が戻ってきて、夏休みまであと数週となった、7月のある日。
「朱里、いつ家来る? 学校帰りがいいかなぁ?」
最近の亮からの話題は、そのことばかりである。今、朱里は自分の席で頬杖をついて、亮から視線を外している。朱里は態度で「行かない」と示しているだけで、返事はしていない、というか、どうすれば良いか悩んでいた。朱里が亮の家に行くことに迷っていると、亮は新たな提案をしてくる。
「もし、母さんに会うのが困るんなら、夜勤の日にすれば、会わなくて済むよ」
亮の母親に会うことについて、朱里は全く意識していなかった。確かに、まだ付き合っているわけでもないのに、親に挨拶するのは、緊張してしまう。それで朱里が迷っていると、亮は考えたらしい。でも逆に、そうなると二人きりになるということではないか・・と、余計に緊張してしまいそうだ。
「だから、その日ならご飯食べていっても大丈夫だよ!」
(いやいや、私の心臓が持たないから・・)
内心戸惑いながら、亮を見ると、明らかにからかっているような笑顔だった。
(私も大分、この人の表情が分かるようになっちゃったなぁ)
それだけ、ここ数か月近くに居て、関わってきたということだ。亮は、「クスクス」と笑うと、
「ちゃんと帰り送るからね!」
そんなことは気にしていないと、肩を落とせば、
「まっ、食事は半分冗談だけど、家には来てほしいな」
にっこり笑って、懇願するように亮は言う。この前作っていると言っていた曲を聞いてもらいたいのかもしれない。そろそろ、拒否し続けるのも無理そうだと思い、朱里が、
「・・考えとく」
と、言えば、
「うん」
亮は大満足という返事をした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その夜、自室で朱里は迷っていた。
亮の家へ行くかやめておくかだ。夕食はともかく、作曲風景は気になる。ギターもまあまあ上手かったので、他に楽器をやっていたりするのかも気になるところだ。
行くなら休日より学校帰りがマシだろう。来週、まだ短縮授業になる前ならば、時間も短く済むかもしれない・・結局行くことに気持ちが傾いていた。
ただ、自分から言い出しにくく、こちらからメッセージを送るのも気が引ける。いつも向こうからアクションがあって、対応していたことに気づかされた。そう、いつも・・・
(私のこと、そんなに考えてもらってたんだ)
関わりたくないと、自分がどれだけ目をそらしてきていたのだろう。何度も告白されていたのに、いつの間にか向こうから話しかけられることが、当たり前になっていて、自分から動くことはなかった。これはその弊害。
とはいえ、やはり自分からは話しかけにくいので、明日向こうから挨拶してもらってからなら、まだ言いやすいかもしれない。
……結局、あの人頼みだけど。
そうして朱里は考えをまとめると、机に向かい、テストで間違えたところの復習をはじめた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日朝、朱里が教室に着くと、既に亮は学校に居て、友人たちと話していたが、朱里が来たことに気づくと、その場を離れ、朱里の席にやってきて、挨拶しにくる。
「朱里、おはよう」
「おはよう」
挨拶を返すのも、いつの間にか慣れてしまっていたが、今日は朱里から言い出さないといけない事がある。
朱里が緊張して俯き、口に出せずにいると、
「朱里? うーん・・もしかして昨日の話、考えてくれた?」
亮は様子を察して、朱里が言い出しやすいように話かけてくれたので、
「・・うん。あの・・来週の・・」
途切れ途切れ話す。それを、亮は笑顔で、「うん、うん」と聞いている。
「火曜か水曜・・どっちか、大丈夫なほうで」
亮が問題ない日を選べるよう、朱里が提案すると、亮はスマホで予定をチェックし、
「水曜日がいいかな」
「じゃ・・水曜帰りに・・行く」
「分かった。考えてくれて、ありがとね!」
亮は、とても嬉しそうに了承し、お礼を言った。これで話は終わったと、朱里がホッとして、顔を上げると、亮と目が合った。
――ドキッ
朱里は、自分の気持ちを認識し始めたことで、妙に意識してしまい、視線がさまよう。その様子に、亮は何か感じ取った気がしたが、
「じゃあ、その日のことはまた来週決めようね」
深く追求せずに、話を切り上げると、満足した亮は、笑顔のまま、友人たちのところへ戻って行った。




