連絡先交換の行方
「朱里、おはよう」
少しして、亮は怜と一緒に登校してきて、朱里の席にやってきた。
「おはよう」
挨拶を返せば、
「朱里、今朝はごめんね」
「別に、約束してたわけじゃないし」
「でも、いなくて気になったでしょ?」
「別に」
朱里の反応に、亮はがっかりするが、気を取り直すと、
「連絡取れたら良かったよね!」
その言葉に、今度は朱里がうなだれた。
(それが狙いだったのね・・)
亮は散々朱里と連絡先を交換したがっていた。待ち合わせしていたわけではないが、連絡取れたら、問題なかったとでも言いたいのだろう。今回、恐らく怜に伝言を頼んで、断られたのかもしれない。来ても困ったが、何度も怜や兄を介するわけにもいかないから、連絡先交換くらいはしても良いとは思ってはいる。けれど、素直に教えるのもなんか癪だ。
(ふむ・・)
そこで朱里はふと閃き、スマホを取り出す。
「朱里?」
自分の意図を読み取ってくれたのかと、亮の顔がほころぶ。そこへ朱里は、スマホを手に持ち亮に見せるようにすると、
「連絡先交換するのと、これから登下校一緒するのと、どっちがいい?」
亮が良くやる二択を持ち掛ける。
「えぇーっ・・そう来る!?」
亮は驚きの声をあげるがどこか嬉しそうだ。そして、「うーん」と、うなりながら、悩む仕草をする。
「うん、じゃあ連絡先で」
亮が悩んだ時間はわずかだった。もっと悩むかと、悩ませようと思ったのに、たいして悩まずに決められたので、朱里は若干面白くなかった。
(私はいつも悩まされてるのに・・)
心の中で悔しがりながら、亮に返事はせず、スマホを操作する。連絡先を交換するのは構わないが、やり取りしながら、
「何度もしつこく送ってきたら、ブロックするから」
釘を刺しておく。亮の顔は引きつっていた。
……これで少しは面倒ごと回避できたかな?
とりあえず、亮と一緒に登下校することは回避できた。ただ、
『付き合うようになったら、一緒に登下校しようね』というメッセージが届いていたことを除いて。(既読スルー)
――期末テスト終了日の夜―――――
朱里は一人夕食を終えると、リビングのソファーでテレビをBGMに読みかけの本を読んでいた。
―――ピコーン
メッセージの通知音だ。通知画面を確認すると、亮からだった。反応するべきか、しばし悩む。
―――ピコーン
再び亮から届く。仕方なく、メッセージを見ると、
『朱里、こんばんは。今、大丈夫?』
『遅くてもいいから、大丈夫な時に連絡ほしいな』
と、きていた。
朱里は、ため息をつくと、
「何」
とだけ送る。すると、速攻亮から返信がくる。
『ありがと。朱里は今、何してるの? オレはねー作曲中』
相変わらず、自分の話かと、スルーするが、即既読がついているので、見ていることは分かるだろう。
『曲聞きたい?』
『できたら聞かせてあげるね』
『おーい、朱里』
次々と送られてくるが、スルーしていると、
『朱里、今度オレんち来ない?』
(はぁ!?)
「行かな」
“行かない”と入力しかけて手が止まる。
(待て待て、これは向こうが私に反応させようとしてる策略だ)
はまるわけにはいかないと思いとどまっていると、
『いつもオレばかり朱里んちお邪魔してるからさーたまには来ないかな?と思って』
理由が送られてきた。更に、
『作曲するところ、見てみたくない?』
その言葉には朱里も興味が沸いた。確かに、隼人やバンドメンバーの作曲する様子しか見たことが無いので、気にはなる。
(でもなぁ)
亮の家か・・・考えると少し緊張する。悩んでいると、また亮からメッセージが届いた。
『ついでに夕食も一緒に食べよう』
(なっ・・却下、却下―)
朱里がスマホを持って、悶えていると、
『まぁ、却下かな?』
(読まれてる・・)
亮に大分自分のことを理解されてきていると気づき、うなだれる。もう見るのをやめようかと朱里が考えていると、
『まぁ、それはまた今度誘うことにするよ。でね、朱里に1つ聞いてもらいたい話があるんだ』
(話? さっきまでは前置きだったのか)
『というか、謝りたいことかな』
朱里は、何のことだろう?と、結局スマホを見続ける。
『入学式の日の学校帰りのことだけど、入学式の日、周りに居る女子たちと違う反応をしてる朱里が目に入って、覚えてた。後つけられてて、困ってた時に、朱里が見えて、話すきっかけだと思ったんだ』
「え?」
思わず声がもれた。あの時、クラスで会話すらしていないのに、亮に覚えられていたとは意外だった。
『ただ何て話しかけたら良いのか迷って、あんな風にお願いする形になって、ごめん。朱里があの時のこと、怒ってたって、怜に聞いたんだ、だからその、悪かったと思ってる』
今になって亮から謝罪されるとは思っていなかった。あの日、家に帰る前に朱里は、怜のところに行って、憤りをぶちまけていた。怒ってもいたけれど、亮を嫌いになったきっかけでもあった。怜も何でもかんでも話さないでほしいと思うが、もう朱里自身、あの事はあまり気にしていない。そして今、朱里と話がしたいがための行動だったと謝罪されたため、スルーせずに返事を送ることにした。
「もう怒ってないよ」
すると、速攻返事がくる。
『ほんと? その、もう嫌ってない?』
「嫌いではないよ」
(好きでもないけど)
『友達くらいには思ってくれてる?』
朱里から返事がくることで、新しいことを聞いてきた。亮が家に来るたび、“友人じゃない”と否定してきていたのは、入学式の日のことで、朱里が怒っていて嫌われているからだと思ったのだろう。
「そう、だね」
これまでの状況では、認めざるを得ないと、友達で満足してくれたらと、思う朱里だった。
朱里が友達と認めたことで、亮はひとまず満足したようだ。
『良かった。じゃ、家に来る日は、また今度決めようね! また月曜学校でね。おやすみ』
「おやすみ」
行かないし、と朱里は思いながら、お休みの挨拶をして、やり取りを終わりにした。
――やり取りと言っても、前半は亮がひたすら送っていただけであるが・・そして、入学式の日のことを直接口にしにくかった亮は、こうして伝えることができて、ホッとしていた。
入学式後の亮の謎行動の裏側?でした。
期末テストが終わると・・終わる頃は7月。




