隼人との夕食
週末・・・
最近週末土日のどちらかに、良く亮が家に来る。それは、兄に会いに来ているようだが、今週は来なかったようだ。
それにホッともするが、少しモヤモヤした気分を感じてから、朱里はふと亮のことを考えていたことに気づき、ブンブンと考えを振り払うように頭を横に振った。
「朱里? どうかしたか?」
いつの間にか、ダイニングに入ってきた隼人に、声をかけられた。これから久しぶりに二人で夕食だったので、嬉しくて頬が緩む。隼人は、帰宅時間が不規則で、週末も出かけることが多く、食事の時間が合わないことが多い。両親は今、父の海外公演に、母も付いて行っているので、不在中だ。
「何でもない」
隼人にそう返したにも関わらず、
「そう?」
朱里の前に座ると、勘繰るような視線を向けてきた。
隼人が座ったところで、沙織さんが残りの食事を運んできたので、二人は食事を始めた。食べはじめて、少しすると、隼人が口を開いた。
「この土日、亮くんは、芸能事務所に行ってたそうだよ。最近作った曲、プロデューサーから良くなったって、褒められたってさ」
「・・ふーん」
何を話すのかと思えば、隼人は亮の話をしてきた。ずいぶん二人は仲良くなったようだ。朱里が興味なさげに返すと、
「なんか反応薄くない? お前、作詞のアドバイスしてあげたんだろ?」
そう問われるが、朱里としてはアドバイスをしたつもりはないので、
「感想言っただけだし、活かしたのは向こうでしょ」
「だとしても、気になるだろ?」
「別に」
朱里は、気にしていないというかんじで黙々と食べていると、何故か隼人は驚いて、不思議そうに聞いてくる。
「別にって・・この土日、亮くんが来ないこと、朱里、気にしてただろ?」
「・・・してないけど」
一瞬夕食前に考えていたことが頭に浮かび、若干間をおいて答えてしまう。
「そうかなぁ?」
隼人の納得いかなそうな様子に、
「お兄こそ、なんでそんなにあの人のこと・・私のことは全然考えてくれないんだね」
朱里がふてくされたように、つぶやくと、
「あの人ってお前は・・ちゃんと考えてるにきまってるだろ?」
その言葉に、朱里は首を横に振る。
亮のことは、苦手だし関わりたくないと言ったはずなのに、GWのライブの時は、「妹に手を出すな」というくらい、兄バカだったのに、作詞のことにしても、この間は二人で出かけることを薦めるとか、わざわざ関わるような話をしてくる。とても妹のことを、考えてくれているとは思えなかった。
「お兄ちゃんは、亮くんのこと、気に入ったし、朱里にとっても良いと思って提案してきたんだが」
「全然良くない」
「そうか? 少なくとも、この間の作詞は、朱里のためになったと思うよ。お兄ちゃん以外に書くとまた違っただろ? それに、この前くれた詩、亮くんに書いたあとに書いただろ? なんかテイストが今までと違ってたし」
「ダメだった?」
「いや、良かったよ。なんつーか、雰囲気が変わって、お兄ちゃんたちも、曲作り楽しめたし」
「・・そう」
思わず顔がほころぶ。兄に褒められるのは、嬉しくてたまらない。あれは確かにいい経験だった。別の人に詩を書くことが、こんなにいつもと違うとは思わなかった。
「それに、朱里は亮くんが好きなんだろ? お兄ちゃん、彼ならいいと思うぞ」
(なっっ)
詩のことを喜んでいると、隼人がそんなことを言ってきた。
「好きじゃないっ!」
思わず立ち上がって、叫んでしまう。
「朱里、食事中。行儀悪い」
これには、さすがにピシャリと怒られる。マナーには厳しい兄だ。
「ごめんなさい」
座りながら謝れば、隼人は頷くと、仕切り直しとばかり、一度目を伏せる。
そして、再び朱里を見据えると、
「じゃあ、朱里は結局、亮くんのこと、どう思ってるんだ?」
直球で聞いてきた。GWの時は、関わりたくないと説明していたわけだが、あれから1か月経ち、告白もされて、変化があるのかを聞きたいのだろう。朱里は、兄から聞かれれば、はぐらかしても無駄なため、話さないわけにはいかないと思うが、
「誰にも言わない?」
まだ誰にも話しておらず、亮を気に入っている隼人から、伝わるのは避けたい。確認すると、隼人は首肯した。
「最近は・・気になってきてるし好感もある。けど、まだ本当に好きじゃないから。好きになりたくないから、関わりたくないと思ってる」
「なんでそう思うの?」
隼人に優しく尋ねられ、朱里は、今まで心に重く抱えていたことを一気に話す。
「あの人は、これから歌手としてデビューすることになるから。仮に今、付き合うことができたとしても、デビューが決まったら、どの道別れなきゃならなくなる。そんな、付き合う前から、いずれ一緒にいられなくなることが分かってる相手と、付き合うなんて出来ないよ。だったら最初から好きにならないほうがいい」
「なるほどな・・・でも、それくらいは、彼も考えてるんじゃないか?」
朱里の話を聞いて、納得したあと、間をおいて隼人は言う。言われてみれば、自分本位で自分の望みを叶える為なら全力で、策を講じそうな亮のことを考えると、何かしら考えているかもしれないとは思う。でも、
「・・かもしれないけど、無理だよ」
そのことで亮の歌手への道が、遠のいたりしてしまうのではないだろうか。朱里が彼の邪魔をするわけにはいかないと思う。
「うーん・・相変わらず頑固だなぁ。もっとポジティブに考えればいいのに」
「そうは言っても、あの人の学校での人気も考えれば、関わらないのが一番だよ」
「そこはまあ、彼に頑張ってもらうしかないかな」
隼人が苦笑いをし、思い返すような仕草をするので、何かあるのかと目で訴えれば、
「先週、ちょっと相談されただけだよ。お兄ちゃんも高校では人気者だったからな」
「・・そう」
先週、亮が来ていたのは、そういうことだったのかと、朱里は理解した。
隼人が先に食事を終える。
「ごちそうさま」
沙織さんに声をかけ、いつもどおり、ミネラルウォーターのペットボトルを受け取ると、立ち上がり、朱里の横に立つ。
「朱里の考えは分かったけど、あれこれ考えすぎずにさ、自分の想いに素直になったほうがいいと思うな。お兄ちゃんとしては、今そんな、辛そうな顔の朱里を見ていたくないかな」
そう言うと、朱里の頭を優しく撫でる。朱里は、表情に出ていたのかと思ったが、兄に撫でられ、頬がゆるむ。
「まあ、無理にとは言わないけど、いつまでもはぐらかしてないで、亮くんにはちゃんと伝えることだな」
「・・分かってるよ。お兄、絶対言わないでよね」
再度口止めする。
「言わないよ。これは朱里から話すべきことだからな」
「うん」
朱里の返事を聞いて、隼人は満足し、ダイニングから出て行った。
いつかは、ちゃんと結論出さないといけないということは、朱里にも分かってはいたが、はっきりさせることに、まだ戸惑いがあった。すぐには無理だけど、これからは、少しずつちゃんと向き合っていく必要があるかもしれない・・とはいえ、まだあまり関わりたくはないけど。そう思う朱里だった。
色々あやふや?落とし物? ぼんやりさせていたことの回収回でした。
誰を聞き役にするか悩んだ結果、お兄ちゃんにお願いしました。




