週明け月曜日
朱里は、休みのうちに、気持ちと頭を切り替えて、学校に向かった。教室に入ると、いつものように、
「朱里、おはよう」
亮が挨拶してくる。
「お・・」
おはようと口を開きかけ、”お”で止めることに成功した朱里は、深呼吸をしたあと、会釈して自分の席についた。亮も朱里の席のところまで来る。
「なぁ、朱里、今度また、話す時間取ってくれない?」
その言葉に対し、朱里は首を横に振った。数日前話したばかりなのに、何をそんなに話すことがあるというのだと思う。
亮が口を開こうとしかけたところで、教室の前方から、
「えぇー、どういうことー!?」
「見ただけだから、私にも分かんないよ」
騒ぐ声が教室内に響きわたった。あれは、亮の取り巻き達ではないだろうか? 嫌な予感が朱里を襲う。既に、彼女たちに教室中の視線が集まっていた。その中心にいる、朝霧が取り巻き達を引き連れて、朱里のほうへとぞろぞろと移動してくる。
朱里の右側に亮がいて、左側に朝霧は来ると、
「佐伯さん、ちょっといい?」
朱里はうなずく。
「この間の土曜日、隣町の駅前で、亮くんと手繋いで、歩いてるのを見たって人がいるんだけど、本当なの?」
あれを見られてたのか・・どう答えるべきかと朱里が考えていると、
「あぁ、オレたちだな」
亮が肯定した。教室内は既に朱里の周囲に注目状態で、更に教室前方のドアから、亮を観に来ている人たちもいて、その言葉にざわめく。
「ど・・どういうこと? 付き合いが始まったとかなの?」
GWの時は付き合ってないと言っていたので、そうなったのかと朝霧は更に聞いてくる。
「うーん・・だったらいいんだけどねぇ」
前回は否定したのに、今回亮は肩をすくめて希望を口にした。朱里は何言ってるのよと、亮を睨む。
「それって・・」
朱里が口を出す前に、朝霧が更に突っ込んで尋ねる。その言葉に、亮は自分を睨んでいる朱里と目を合わせ、
「オレは朱里のことが好きだから、付き合いたいと思ってる」
真剣な眼差しで、はっきりと朱里に向けて告げたあと、顔を上げ、朝霧を見た。朱里はその様子を見たあと、ようやく何を言われたか理解したかのように顔を赤らめ、うつむいた。
亮の告白は、ざわめく教室内でもしっかりと響き渡り、一瞬教室が静まり、そして、
「「「えぇーーっっ!!」」」
「「「キャーーッ!!」」」
「「「うそーいやーっ」」」
「「「おぉぉぉーーーっ」」」
様々な声が爆発のように起こり、それは当然教室の外でも響き渡り、
「何事だ!?」
というかんじで、朝練から戻ってきた怜や莉奈たちが、教室内に飛び込んできた。
教室内はかなりパニック状態であるが、朱里の心もパニックだった。既に亮の視線は朱里を見ているが、朱里は視線を合わせないよう、うつむいている。教室内が騒めいている中で、亮は少し屈み、朱里に聞こえるよう耳元で、
「突然ゴメンね。でも本気だから。返事は急がないけど、オレは諦める気はないから」
恐らく周囲には聞こえていないだろう、抑えた声で伝えてきた。周囲の様子をチラッと窺うと、周りに居る亮の取り巻きたちの中には、泣いている人もいる。朝霧も混乱している様子だったが、少し落ち着いたのか、
「佐伯さん・・は? 返事・・」
朱里に聞いてくるが、
「オレ、返事は急ぐつもりはないから。まぁオレたちが無事付き合えるよう、上手くいくことを、みんなには応援してほしいな」
亮がクラスを見渡しながら答えた。
クラスの中、主に男子たちからは「がんばれよー」というかんじで応援されたり、一部からは拍手もおきていたが、取り巻き含め、多くの女子、そしてドアの外から見ている亮のファンたちは、納得いかない表情をしている人が多そうだった。
「何、騒いでいるの! チャイム鳴りましたよ、早く席につきなさい!」
担任が叫びながら教室に入ってきた。廊下からも他の先生の声が聞こえる。騒ぎの間にチャイムが鳴っていたらしい。
若干落ち着きのない中で、朝のホームルームが終わり、1時間目開始まで少し時間があるが、周囲は先ほどのことを、まだ飲み込みきれていないのか、更に莉奈や怜たち、朝練参加組は、何があったのかと教室に居たメンバーと話していたりしていたので、朱里や亮に話しかけてくることはなかった。
朱里は、亮が自分に好意があるかもしれないとは思っていたものの、まさかあのタイミングで、しかも教室で告白されるとは思っていなかったため、授業が始まっても頭の中は混乱したままだった。
1時間目が終わると、
「朱里、おはよう」
莉奈が声をかけてきた。そういえば、今日はまだ顔を合わせてなかったと、朱里は思い出し、
「おはよう」
挨拶をかわす。
「少しは落ち着い・・てないみたいだね」
莉奈は、朱里の机に広げられたノートが白紙だったのを見て、まだ混乱中と判断し、
「次、移動教室だよ、行こっ」
そう言って、朱里の机の上を片付けはじめた。
「ホラ、教科書出してっ・・行くよ」
朱里の反応が鈍いため、莉奈は世話をやく姉のように、細かく声をかけ、動くように言う。
クラスメイトたちは、ひとまず落ち着いたのか、様子見というかんじのようで、遠巻きに朱里と亮を見ていた。
教室を出て、理科室へ向かっていると、
「ねぇ、あの子でしょ」
「あの子が亮くんの?」
朝のことがすでに校内に知れ渡っているようで、遠巻きに朱里を見ては、コソコソ話している声が聞こえてくる。
「あの子って、幼馴染の彼と付き合ってるんじゃ」
という声まで聞こえ、周囲にはそう思われていたことに、今更ながら気づく朱里だった。
「さっさと亮とくっついて、そんな噂は消してほしいものだな」
同じように理科室へ向かう怜が、いつの間にか背後にいて、さっきの噂話について語ってきた。機嫌が悪そうに見える。隣には亮もいて、ニコニコしながら朱里を見ていた。亮がいることに気づき、朱里は歩く速度を速め、距離をとった。
その様子を、朝霧をはじめ、亮の取り巻きたちが見ていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「起立」
「礼」
朱里にとって、長かった1日が終わった。
「朱里、また明日ね!」
亮が朱里の机の横にきて、挨拶してきた。朱里はそれに視線も送らず、無反応でいると、
「ちょっ・・」
机の上に置いていた手に、亮は手を重ねてきたため、朱里は亮に視線を送ると目が合う。すぐにそらしたが、満足した亮は、ニコリと笑って、
「またね♪」
そう言って、重ねていた手を軽く握ってから、名残惜しそうにゆっくり離れ、待っていた怜と共に教室から出ていった。残された朱里は、横目でその様子を見ながら、亮が握った手にもう片方の手を重ね、手に残る感触に、ズギリと胸が痛むのであった。
(心臓が痛いよぉ)
深呼吸をして、朱里も部活に向かうべく、教室を後にした。
それから数日は大変だった。それというのも、返事は急がないと言ったくせに、
「朱里、好きだ! オレと付き合ってほしい」
亮が、毎朝挨拶が終わると言ってくるようになった。最初はその言葉に固まって、何も反応できなかった朱里だが、翌日には、またかと、断るように首を横に振っていた。
初日こそ、教室内は静まり返り、様子を窺っていたクラスメイトたちも、数日続けば、「また言ってる」と思うだけになり、いつ朱里がOKするのか、見守るような雰囲気に変わっていっていた。一部を除いて・・・
そして事件がおきた―――――
補足メモ:亮と怜の所属している陸上部は、朝練自由参加な設定です。部活必須の学校で、大会とか頑張りたい人が自主練するかんじ。一応、亮も朝練出たことあったけど、端から見る女子たちが騒ぎすぎてー・・みたいな裏設定もありました。




