パンケーキ屋さんでの会話
パンケーキ屋で、朱里と亮は、2つのケーキを半分ずつ分け合って、食べた。
「美味しかったー来て良かったな」
「うん」
亮の言葉に、朱里は自然に返事をする。2人は食べ終わり、ケーキセットについているアイスティーをそれぞれ飲んでいた。ケーキ効果か、朱里の、亮に対する壁が少し薄くなった気がした。それに気づいた亮は、チャンスとばかり話しかける。
「今日は一緒に来てくれて、ありがとう。ここに来るのは思い付きだったんだけど、来れて良かったよ。朱里、予定とか大丈夫だった?」
「・・別に。あの後はピアノ弾こうと思ってたくらいで、帰ってからでもいいし」
今更の問いかけであるが、ポツポツと言葉を紡ぐように朱里は答える。
「なら良かった。実は今日、隼人さんに朱里とのこと話したら、昼食に誘ってくれてね。話する機会を作ってもらえたんだ」
そう思っていた朱里は、先ほどまで浮かべていた笑顔を消し、視線をそらす。
黙った朱里に、なんと言おうか悩んだ亮は、
「うーん・・朱里。オレは、朱里に認められたいと思ってる」
亮は隼人と話した時に感じていたことを話した。少しトーンを抑えた言葉は、朱里の予想外だったので、
「どういうこと?」
目線は亮のほうへ向け、ただ目を合わすことはないが、尋ねる。
「朱里が、オレの作った歌に今、感じていることを教えてほしい」
「それがどう繋がるの?」
亮が真剣な声で問うため、行き詰っている事を聞いている朱里としても、無下にはできず聞き返す。
「この間作詞のアドバイス欲しいって言っただろ? 無理だって言われたから、なんつーか、方向性を変えてみたというか・・」
認めることに、どう繋がるか相変わらず分からないが、聞きたいのであれば答えようと朱里は思う。
「はっきり言っていいの?」
「・・お手柔らかに?」
チラッと亮の顔を見て問うと、苦笑いで言われた。朱里は「ふぅー」と息を一度吐き、
「曲は悪くないと思う。というより、私的には好み。だけど、詩はそれに合ってないというか何を言いたいのか私には分からない。歌声もいいし音程も取れてて歌は上手いし、顔もいいから、それで売れるとは思うけど、それだけだと思う。アイドルとしてなら良いと思うけど・・キミは歌手として、シンガーソングライターとして勝負したい・・のよね?」
再びチラリと亮の顔を見ると、目を見開いて固まっていた。
(しまった・・言い過ぎた?)
そう思い朱里が口を開こうとすると、
「スゴイな!」
突然亮は前のめりになって興奮した声を上げた。テーブルが揺れ、カチャと食器がこすれる音が鳴る。周囲の客が何事?というかんじにこちらを見てくる。それに亮は気づいて、「すいません」というかんじに会釈して、姿勢を戻し、朱里を見て話しだす。
「プロデューサーに言われたこととほぼ一緒だよ。スゴイな朱里」
声のボリュームは下がったが、興奮のまま亮は話す。そんな風に喜んでいて良いのだろうか?と疑問に思う。
「・・別に思ったこと言っただけだし」
「うん、まあ・・で、そういう評価が朱里にあるから、朱里はオレと距離を取ろうとするのかな?と考えたんだ」
……なるほど。
私のこの人に対する評価があがれば、実力を認めれば、私の態度が変わると、この人はそう思ったのか・・と、朱里は理解した。でも実際、朱里が亮と関わりたくないのは、それだけが理由ではないわけなのだが。
朱里が納得の表情をしたことに気づいた亮は、
「それで、朱里に作詞の相談に乗ってもらいたいと思って、この間お願いしたわけだけど・・どうだろうか?」
この間は速攻無理と言ったが、順序立てて説明され、どう答えるのが妥当か、朱里はしばし考え答える。
「私は好き勝手に作詞してるだけだから、アドバイスするとか、そんなの事できるとは思えない」
ちゃんと朱里が考えてから答えたことで、亮も気軽に答えることはせず、
「そうか・・なら、この間オレの曲に作詞した時は、どんな風に作ったの?」
自分についてではなく、朱里の手順を聞くことで参考にしようと考え、代替え案を出してきた。亮が作詞に悩んでいて、彼にとっては今後の将来の話だと、朱里も分かっているので、そんな風に聞かれれば答えるしかないと思い、
「お兄のバンドと違って、キミが一人で歌う曲だから、キミの雰囲気と歌声をイメージして、作曲された曲からテーマを決めて作ってったかな」
「テーマか・・オレも決めてるなぁ」
朱里の説明に亮はつぶやく。やはりあまりアドバイスになっていないようだ。その様子を見て、
「あの、さ、今まで話してきて思ったんだけど・・」
朱里からの発言に、亮は「聞かせてくれ」というかんじに朱里を見る。
「キミは頭の回転も速いし、頭もいいんだと思う。だからなのか、その分、1つの詩の中に色々詰め込んじゃうというか、どんどん展開させすぎて、結局まとまんなくなっちゃってるんじゃないかな・・と。もっとシンプルでいいんじゃないの?」
その言葉に、再び亮は目を見開いて固まってしまった。
「あっ、ご・・ごめん。私、思ってること溜まると、まとめて一気に言っちゃうところがあって・・」
固まった亮を見て、朱里はやっちゃった・・と思い謝る。ここ1か月くらい、亮が関わってきたが、朱里としてはなるべく話さないようにして、溜め込んできていた。そして今日、ここまで思っていることを話していたこともあって、その流れで話してしまったことに朱里は気づき、言い過ぎたと思い、あわあわしてしまう。
「れ、怜にも気をつけろって・・あぁ、もう・・うぅー」
「ぷっ・・クスクス・・」
朱里がうめいていたら、目の前から笑い声が漏れ聞こえ、逆に朱里が亮を見たまま固まる。
「なんか、朱里の意外な面見たな。いつも冷静なのに・・あははは」
つぼにはまったのか、亮は大笑いする。そんなに笑わなくてもと朱里が思っていると、
「そういう朱里もいいと思うよ。あと作詞に関しても、ありがとう。考えすぎずに頑張ってみるよ」
笑いながら、亮に言われ、朱里は戸惑いながらも参考になったなら良かったと思っていた。
少しして笑いがおさまり、落ち着くと、
「話ができて良かったよ、そろそろ帰ろうか」
残っていた、少し薄まったアイスティーを飲み、二人は会計を済ませ店を出た。




