上円下方(パーティション)の最深部へ
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三枝堂を出た二人が目にしたのは、もはや「距離」という概念が崩壊した府中の街だった。
普段なら徒歩で十分ほどの熊野神社古墳への道が、ある時は無限に伸びる廊下のように見え、ある時は一歩踏み出しただけで数メートル先へ「ワープ」する。
「クソ、空間のレンダリングが追いついてねえ……!」
拓海は目を細めるが、やはり「花びら」は見えない。見えるのは、通行不能な空間を示す黒いノイズの壁だけだ。
「……拓海、私の声を聴いて。三時の方角、不協和音が途切れる場所がある。そこだけが、まだ上書きされてへん『正しい道』や!」
栞は拓海の腕を掴み、彼の耳元で囁く。拓海はその声を頼りに、ノイズの隙間を縫うように走り出した。拓海の鼻には、正成のエージェントが放ったであろう「追跡コード」の、焦げ付いたような薬品臭が届いている。
「……三時だな。……行くぜ、栞!」
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ようやく辿り着いた「武蔵府中熊野神社古墳」。
そこは、周囲の住宅街がノイズに呑まれる中で、不気味なほど毅然と鎮座していた。上が丸く、下が四角いその特殊な形状が、今は巨大な「暗号化された外部ストレージ」に見える。
古墳の周囲には、正成の組織が展開したと思われる青い防衛プログラムが、幾何学的な結界となって渦巻いていた。
「……あいつら、もうここまで手を回してんのか」
「……大丈夫や。拓海、あの時拾った『石板』出して!」
拓海がポケットから、多摩川で拾った黒い石板の欠片を取り出す。それを結界にかざすと、欠片が共鳴するように発光し、古墳の表面にデジタルなアクセスポートが浮かび上がった。石板は、この巨大サーバーの「物理鍵」だったのだ。
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石室の扉が、重厚な油圧システムの作動音を響かせて開く。
内部は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。壁一面に整然と並ぶのは、古代の石材を模した超高性能なサーバーラックの森。そこには、三枝が遺した膨大な「Legacy Nodes」が眠っていた。
栞は、震える指でコンソールを引き出す。
「……頼むで、三枝。……『KUMANO_042』、エンター!」
パスワードを打ち込んだ瞬間、古墳全体が地響きのような唸りを上げた。
冷徹な青い光に支配されていた空間に、内側から黄金色のパッチが噴出し、栞と拓海を優しく包み込む。それは、世界の書き換えに対抗するために三枝が用意した、唯一の「修正プログラム」の起動だった。
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黄金の光が二人の意識を透過し、乱れていた五感を「再同期」していく。
拓海がふと目を開けると、モノクロームだった視界に、鮮やかな色が戻っていた。
「……あ」
拓海の声に、栞が顔を上げる。
「……見えた。栞、お前のすぐ後ろに……一枚だけ」
暗い石室の中、栞の肩に、かつてないほど輝く「黄金の花びら」が舞い降りた。
それは、このバグだらけの世界で二人が勝ち取った、最初の「正解」だった。
「……ここからが、私らの本当のリベンジや。……知らんけど!」




