デバッグされない「予兆」と、日常の断片(フラグメント)
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府中本町の高架下や、多摩川の広大な河川敷。そこには毎日、どこからともなく「魔導ジャンク」が流れ着く。当然、それを狙うハイエナのようなハンターは他にも大勢いるが、拓海の稼ぎは常に安定していた。
「……あいつら、見た目の派手さだけで拾いやがるから効率が悪いんだ」
拓海は、一見するとただの錆びた鉄屑に鼻を近づける。酸っぱい臭いがしなければ、それは「まだ生きている」証拠だ。さらに意識を集中すれば、視界の端に小さな花びらが舞う。
彼が拾い上げるのは、他人が見向きもしないような「ゴミの中のゴミ」。だが、その中には『幸運のパケット』が奇跡的に残留した超希少なコアが眠っている。
この鋭い嗅覚と視覚による「目利き」こそが、拓海がフリーランスのハンターとして食っていける唯一無二の、そして特別なスキルだった。
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ル・シーニュの通路を、重い収穫物を持って歩いていると、昨日抽選会場にいた店員に捕まった。
「あ、拓海くん! 昨日のお嬢さんと、よみうりランド楽しそうだったじゃない。お似合いだよ」
「……! い、いや、あれは不運の連鎖っていうか……事故みたいなもんで」
耳まで真っ赤にして三枝堂に逃げ込むと、店内で待っていた栞が、拓海が持ち込んだ「鉄屑」を一瞥して鼻で笑った。
「……またこんな汚いもん拾って。でも、音は悪くないな」
栞のスキルは、単なる修理ではない。絡まり合った複雑な魔導回路を解きほぐし、無駄なコードを削ぎ落として、現代のインフラでも動くように『リファクタリング(再構築)』することだ。
拓海が拾ってきた「奇跡のコア」を安全に抽出できるエンジニアは、今の府中には彼女しかいない。
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「……よし、抽出完了や。あんたが拾ったこのコア、見た目はボロいけど、中身は純度100%の幸運パケットやわ。これなら高値で売れる」
「だろ? 栞なら、このノイズだらけの回路からでも綺麗に抜いてくれると思ってたよ」
お互いのプロとしての腕を認め合う、静かな時間。
そこへ、近所のおばちゃんが勝手口から顔を出し、トドメの一撃を放つ。
「あら、今日も二人で仲良くお仕事? よみうりランドでデートしてたって噂、商店街中に広まってるわよ。もう、籍を入れる日は決まったの?」
「……だ、誰がそんなこと! 籍なんて仕様外もええとこやわ! 知らんけど!」
「おばちゃん、茶化すなよ……仕事中なんだから」
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嵐のようなおばちゃんが去り、再び静寂が戻る。
二人は気まずそうに、けれど先ほどまでよりも少しだけ「阿吽の呼吸」で作業を再開した。
拓海が「当たり」を拾い、栞がそれを「形」にする。
三枝という偉大な設計図を失っても、二人は自分たちのスキルを繋ぎ合わせることで、新しい日常をビルド(構築)し始めていた。
(……仕事上のパートナーや。それ以上でも以下でもない……はずやのに)
引き出しに隠した宿泊券が、微かな熱を持っているような気がして。
栞の耳には、仕事の作業音に混じって、拓海への信頼とそれ以上の感情が混ざり合った、甘い和音が鳴り止まなかった。




