レヴィン、懐かしきハンター支部へ ①
レヴィンは休日を利用して、久しぶりに前職であるハンター協会支部を訪れていた。
アディオやチェイズも、今もここで働いている。
建物を見上げたレヴィンは、どこか懐かしそうに微笑んだ。
「久しぶりだな……。あの頃と変わってない」
無機質な白い外壁に、重厚なバリケード。
一般人が立ち入れないよう厳重に管理されているが、今日はアディオから事前に借りていた特別なキーカードがある。
慣れた手つきでカードをスライドさせると、扉は静かにロックを解除した。
レヴィンはゆっくりと中へ足を踏み入れる。
鼻をくすぐる懐かしい匂い。
木材やゴムの香りに、どこか香ばしい匂いが混ざっている。
「あぁ……懐かしいな」
思わず小さく笑みがこぼれた、その時だった。
建物の奥から賑やかな声と、慌ただしく走り回る足音が響いてくる。
バタバタと忙しそうな空気の中、一人の見知らぬ男性がレヴィンに気づき、勢いよく駆け寄ってきた。
「おっ! 君で最後かな!?」
「あ、いや、俺――」
言い終わる前に腕をつかまれ、そのまま強引に引っ張られていく。
「うえっ!?」
抵抗する間もなく、レヴィンは慌ただしい空間へ連れ込まれ、そのまま更衣室へ押し込まれた。
「はい、急いで! 隊服に着替えて!」
「え? いや、俺は……」
説明しようとしても、誰も聞いていない。
スタッフらしき人物がレヴィンを一瞥すると、
「キミならこのサイズかな」
そう言って隊服を押し付け、慌ただしく去っていった。
レヴィンは隊服を抱えたまま、状況が飲み込めず周囲を見渡す。
更衣室には、同年代か少し年下くらいの若いハンターたちが次々と着替えており、皆どこか緊張した面持ちで準備を進めていた。
レヴィンは状況が飲み込めないまま隊列に並んだ。
(もしかして新人……? 今日が初日とかかなぁ……)
そんなことを考えているうちに、あれよあれよという間に外へ連れ出され、「列に並べ!」と指示される。
大人しく従っていると、隣に並んだ若い青年が小声で話しかけてきた。
「あれ? 君みたいな人、入校式にいたっけ……?」
レヴィンは苦笑いを浮かべた。
「あ……いや……」
どう説明すればいいのか迷っていると――
ピピーッ!
鋭い笛の音が響き渡る。
「私語は禁止だ!」
厳しい声が飛び、一同は慌てて前を向いた。
その直後、数人のいかつい男たちが現れる。
「今日からビシバシ行くからな! 覚悟しとけよ!!!」
先頭に立つ熱血漢らしい男が、力強く声を張り上げた。
新人たちは一斉に身を縮こまらせる。
(ひえぇ……)
そんな空気の中、レヴィンだけは別のことを考えていた。
(あ……よく見たら本部の人だ。こっちに異動してきたのかな)
新人指導のため、本部から応援に来ているのだろう。
それだけ、この支部の教育レベルも以前より格段に上がったということかもしれない。
「ランニング開始!」
号令とともに、新人たちは一斉に走り出した。
レヴィンも何となく流れに乗り、列へ加わる。
周囲を見渡せば、同年代くらいの新人たちが必死の形相で走っている。
熱血指揮官は後方から大声で励まし、ペースが落ちた者には容赦なく喝を飛ばしていた。
レヴィンは一定のペースで走りながら、心の中で小さく息をついた。
(ふう……やっぱり、これが新人って感じか……)
懐かしい匂い、張り詰めた空気、そして少しだけ入り混じるワクワク感。
心の奥で、久しぶりに「ハンターだった頃の自分」が目を覚ますような気がした。
その時だった。
レヴィン「あ……」
懐かしさのあまり、気づけば自然と先頭へ出てしまっていた。
指揮官は満足そうに頷く。
「いいぞ!! いい走りだ!!」
褒められたこともあり、レヴィンは笑みを浮かべる。
そのまま軽い足取りで、先頭をニコニコしながら走り続けた。
周囲の景色が目に入る。
(あぁ……懐かしいなぁ。)
(あそこのベンチでよく寝落ちしたっけ。)
(あの木陰、夏は涼しかったんだよなぁ。)
昔を思い出しながら景色を眺めているうちに、いつの間にか後ろの新人たちを大きく引き離してしまっていた。
ランニング終了。
新人たちは肩で息をしながら次々とゴールへたどり着く。
そんな中、レヴィンだけは息一つ乱さず、何事もなかったかのように立っていた。
それを見た指揮官が眉をひそめる。
「お前……どっかで見た顔だな……?」
レヴィン「はあ……」
(俺はこの人のこと覚えてるけど……。)
(“性格悪かったなぁ”って印象しかないけど……。)
指揮官はレヴィンをじっと見つめる。
「……お前、随分足が速いな!! 陸上か何かやってたのか!?」
「まあ、そんな感じです!!」
レヴィンは元気いっぱいに答えた。
「なるほど!! 期待の新人だな!!!」
指揮官は満足そうに大きく頷く。
レヴィンは褒められたことが嬉しかったので、満足げにニコニコと笑みを浮かべた。
指揮官「次は腕立て伏せー! 始めー!!」
新人たちは一斉に腕立て伏せを始める。
レヴィンも隣の新人にならい、何気なく腕立て伏せを開始した。
呼吸を乱すことなく、一定のリズムで淡々とこなしていく。
一方、周囲の新人たちはすでに苦しそうな表情を浮かべ、汗をぬぐいながら必死に回数を数えていた。
指揮官「おい、そこのお前! まだ余裕か!? もっと腰を落とせー!」
新人「う、うわぁ……きつい……!」
レヴィンはわずかに表情を動かすだけで、最後まで正しいフォームを崩さない。
汗一つ見せず、一定のペースで腕立て伏せを続けていた。
指揮官は思わず感心したように声を上げる。
「おお……お前、いいフォームだな!! 基礎鍛錬がしっかりできているっていうのは、こういうやつだ!! 皆、見習え!!」
新人たちが息を切らせながら苦戦する中、レヴィンは「また褒められた」と素直に嬉しくなった。
指揮官「よし! そのままあと10回キープだ!! 皆も負けるなよ!!」
その時だった。
腕立て伏せを続けながら何気なく顔を上げたレヴィンは、周囲のざわめきと自分に向けられる視線に気付く。
レヴィン(なんか……目立ってるな……!?)
その時だった。
一人の女性が、どこか面倒くさそうな表情で連れて来られていた。
レヴィンの目がぱっと輝く。
(アイリさんだ!!)
(うわっ、めっちゃ久しぶり!!)
(髪切ってる!!)
アイリはレヴィンが新人だった頃の教育係であり、チェイズの恋人でもある。
(よかったぁ……!!)
(アイリさんなら絶対気付いてくれる!!)
レヴィンは期待に満ちたキラキラした目で、アイリへ視線を送った!!
目が合った。
アイリは明らかにレヴィンに気付いていた。
レヴィンは「助かった!」と言わんばかりの期待の眼差しを向ける。
だが――
アイリは一瞬だけ渋い顔を見せると、腕を腰に当て、そのままふいっと視線を逸らした。
その澄ました横顔の口元だけが、わずかにニヤリと緩んでいる。
レヴィン(うげぇ!?)
(絶対気付いてる!!)
(しかも面白がってる!!)
(止めてくれるかと思ったのに!?)




