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明るさの裏側 ②

レヴィンは視線を落としたまま、ぽつりとこぼす。


レヴィン「俺……ずっと、死ぬつもりで生きてきた……」


言葉が、途中で喉に引っかかる。


レヴィン「ずっと……ずっと……

リュウさんと俺が器になって、一緒に倒すんだって……それしか、考えてなかった……」


ハリスは、遮らない。

ただ、静かに聞いていた。


ハリス「……知ってるよ」


レヴィン「親父には……

ハンターになりたいからって言って、家出同然で出てきて……支部に入って……」


一息、息を吸う。


レヴィン「アグニが接近してきて……

俺は、強くなることしか頭になかった……」


ハリス「……そうだったよね」


レヴィン「だから……

その先の未来なんか、思い描いてなくて……」


拳を握り、ほどく。


レヴィン「タイオンとか、ノアとかと……

普通に笑って、飯食って……

なんでもない時間が……」


声が、わずかに揺れる。


レヴィン「……泣きそうになるんだ……」


ハリス「……」


ハリスはすぐには言葉を返さなかった。

沈黙が、否定ではなく許可としてそこにあった。


レヴィン「ずっと……ずっと……

俺は、生き残ってしまったことに引け目を感じてて……」


視線を落とし、ぽつりと続ける。


レヴィン「……でも、

残される側の気持ちなんか、考えてやしなかった……」


小さく、息を吸う。


レヴィン「……特に、アディオ……」


ハリスは目を伏せたまま、静かに言う。


ハリス「……アディオはね……

君が思っている以上に、君のことを大切にしてる」


レヴィン「……」


ハリス「だから、もし君がいなくなったら……

きっと、今みたいには笑えなくなる」


ハリス「僕には分からないけど...

でも……壊れてしまうかもしれない」


レヴィンは、ぎゅっと拳を握った。


ハリス「君はさ……

自分が死ぬことで、誰かを救えると思ってたんだろうけど……」


少しだけ、声を柔らかくする。


ハリス「君が生きてることで、

“生きていられる人間”も、確かにいるんだよ……」


沈黙。


レヴィンの喉が、小さく鳴る。


ハリス「レンはさ……

多くの人の心を、救いすぎてるよ……」


少しだけ、苦笑する。


ハリス「……僕も、そうだけどね」


視線を上げ、まっすぐレヴィンを見る。


ハリス「そんな人がさ……

“死のう”なんて考えてたら……」


一拍、間を置く。


ハリス「真っ先に

『身代わりになろう』って思うのが……

君を本当に大切に思ってる人間だよ……」


レヴィンの胸に、ずしりと落ちる言葉。


ハリス「君は……

自分が救った数だけ、

自分を失ったら壊れる人間を作ってしまってる……」


レヴィン「……」


言葉は、出てこなかった。

胸の奥に溜まったものが重すぎて、呼吸だけが静かに上下する。


ハリスは、それ以上踏み込まない。


ハリス「……今日は、ここまでにしよっか……」


立ち上がりながら、いつもの柔らかい声に戻す。


ハリス「もう十分、向き合ったよ。

無理に答えを出す話じゃない」


ドアに手をかけ、振り返る。


ハリス「……生きる理由は、見つけるもの...じゃなくて……残ってしまうものだと僕は思うよ...」


レヴィンは、まだ俯いたまま。


レヴィン「……」


レヴィンは、まだ椅子から動こうとしない。

視線は床に落ちたまま、指先だけがわずかに動いている。


(……あれ……ちょっと、詰めすぎたかな……)


ハリスは一瞬だけ迷ってから、声のトーンをぐっと落とす。


ハリス「……レン……?」


呼びかけは、問いかけというより確認に近かった。


レヴィンの肩が、ぴくりと揺れる。


レヴィン「……ごめん……」


掠れた声だった。


ハリス「謝らなくていいよ」


ハリスは椅子に腰掛け直し、視線の高さを合わせる。

“向き合う”でも“見下ろす”でもない位置。


ハリス「僕の前では、元気な振りは通用しないもんね……」


レヴィン「……ん……」


小さく、喉の奥で鳴る返事。

肯定でも否定でもない、逃げ場を探す音。


ハリス「……今度、休み合わせてハンターの支部行ってみない?」


レヴィンは、ゆっくり顔を上げる。


ハリス「結構新人も入ってさ。

メンバー、だいぶ変わったよ……」


レヴィン「……そう……なんだ……」


声が、少しだけ現実に戻る。


レヴィンの脳裏に浮かぶのは、

騒がしくて、血と汗と笑いが混じった、あの支部の風景。


レヴィン「……楽しい事ばっかだったな……」


ぽつりと零れたその言葉は、

過去を美化する響きではなく、

失った時間をそっと撫でるようだった。


ハリス「うん……」

少し間を置いてから、静かに続ける。


ハリス「キミは……いっつも楽しそうだったよ……」


レヴィン「……」


ハリス「辛い時ほどさ、無理に笑ってた、とかじゃなくて」

ハリスは首を振る。


ハリス「本当に……その場にいる時間を、全力で楽しんでた」


レヴィンは、ゆっくり息を吐く。


レヴィン「……それしか、できなかったんだと思う……」

レヴィン「楽しくしてないと……

止まったら……終わりそうで……」


ハリスは何も言わず、ただ隣にいる。


ハリス「まあ……見てて無理してるなーとか、

生き急いでて危なっかしいなーとか、

正直、散々思ったけどね」


少しだけ、怒気を含んだ声だった。


レヴィン「……」


ハリス「止めたくなることもあったし、

叱りたくなることも、何度もあった」


一拍置いて、声が静かに和らぐ。


ハリス「でも……」


ハリス「……あの笑顔は、皆を照らしてたよ……」


責める言葉ではなかった。

怒りでもなかった。

それは、守れなかったことへの悔しさに近い響きだった。


レヴィンは、視線を落としたまま、何も言えない。


レヴィン「あの頃は……本当に迷惑かけたよな……」


ハリス「……ようやくわかった?」


レヴィン「……ようやく、わかった……」


ハリス「遅いよ!!」


そう言って、ハリスはわざとらしく眉をつり上げる。

次の瞬間、二人同時に吹き出した。


レヴィン「はは……」


ハリス「まったく……」


少し間が空く。


レヴィン「……こんな時間も、いいよな……」


ハリスは何も言わず、続きを待つ。


レヴィン「俺さ……ハリスにしか、弱音吐けないんだ……」


冗談めかした声なのに、どこか震えていた。


ハリスは否定もしない。

励ましもしない。

ただ、静かに受け止めるように微笑った。


ハリス「知ってるよ……そんなの」


レヴィン「さすが精神異能者!」


ハリス「当たり前でしょ」


レヴィンは、ニカッと――

いつもの、皆が知っているあの笑顔を向けた。


レヴィン「支部には……一人で行ってくるよ。

向こうには、アディオもチェイズもいるし……」


ハリス「……ん。わかった」


それ以上、何も言わない。

引き止めもしない。

背中を押す言葉も、選ばない。


ハリスは、レヴィンが「自分で歩く」ことを選んだのを、

ちゃんと分かっていた。

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