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迷宮と本物⑥

防戦一方のレヴィン。


レヴィン

「うわあああっ!!!」


必死に月霞を振り、防ぐも、衝撃が腕を通って肩にまで響く。


息が詰まり、体は重く、思考もぼんやりとしてくる。


レヴィン

(くっ……こんなダメージ……)


(でも……でも……負けるわけには……!!)


血の味が口に広がる。


打撲の痛みで視界が揺れる。


それでもレヴィンは構えを緩めず、僅かでも隙を探す目をゼロへ向けた。


ゼロ

「その程度で……俺に届くと思うか」


次の一撃が迫る。


レヴィンは恐ろしさに顔を歪めながらも、踏ん張り、月霞を握る手に力を込める。


レヴィンの攻撃は悉く無情にも届かない....。


その瞬間――。


ゼロの左手が、にゅっと伸びた。


レヴィン

「え――」


気づいた時には、首を掴まれ、そのまま壁へ叩きつけられていた。


ドゴッ!!!!


左手で首を圧迫され、息ができない。


レヴィン

(く……苦しい……!!)


ラビ

「ああー、レヴィンをいじめないでー♡」


ゼロ

「……はっ」


ラビの声にあっさり手を緩め解放した。


躊躇いがない。


こいつ……殺人鬼の目をしている……。


レヴィンは投げ捨てられるように解放され噎せた。


レヴィン

「ゲホッ……!! ゲホゲホッ……!!」


ゼロは冷たい目でレヴィンを見下ろしていた。


殺意と無感情が入り混じったその瞳は、まるで生きる兵器のようだった。


ゼロ

「弱い……」


「戦う気が失せる……」


レヴィン

「……!!!」


その言葉に、レヴィンはキッと睨み上げた。


レヴィンは必死に抗う様に衝撃波を放ち、剣を振り抜く。

しかし、ゼロの動きは完全にレヴィンを上回っていた。

速く正確で、先の動きですら読んでいるかのようだ。


何度も頭を打ちつけたせいで、血が額を伝い、視界の端が赤く滲む。


レヴィン「ぐ…っ、くそっ…!!」


腕や脚の筋肉は痛みで思うように動かず、息も上がり、汗と血で身体はびしょ濡れだ。

月霞を振るってもゼロは一歩も揺るがず、むしろ余裕すら伺える。


ゼロの一撃が再びレヴィンを吹き飛ばす。

レヴィン「うああああああっ!!!」

壁に激突し、床に膝をつきながら、ようやく自分の限界を悟る。


レヴィン(…ダメだ…全然歯が立たねぇ…!!)


ラビは螺旋階段の上からニコニコと観察している。


ラビ「ふふ…レヴィン頑張ったねえー♡」


ゼロは静かに剣を構え、間合いを詰める。

ゼロ「もう十分だそうだ」


レヴィンは血だらけになりながらも必死で月霞を握るが、その力は完全に届かない。衝撃で膝から崩れ落ち、息も絶え絶えだ。


月霞は影の力でレヴィンを守ろうとするが、攻撃の威力は凄まじく、避け切れない。

レヴィンはボロボロのまま、立ち上がることもできず膝をついたままゼロの前に沈むしかなかった…。


全身に走る痛みと、身体の衰弱に抗えず、ついに膝から力無く崩れ落ちる。


目の前の景色がぼやけ、意識が遠のいていく。


ーーレヴィンは意識を手放し、完敗のまま倒れ込む。



ラビ「きゃー大丈夫!?レヴィン」

気を失ったレヴィンを抱えるラビ。

ゼロ「生きています...ラビ様」

ラビ「ありがとーゼロ♡」

ラビはボロボロのレヴィンを膝に乗せて笑顔を浮かべ優しく血を拭いて行く。


ラビの膝の上で、まだ意識の戻らないレヴィンを愛おしそうに撫でる。


ラビ「ゆっくり眠ってねえ…レヴィン♡」


ゼロは窓際に立ち、外の気配を鋭く見張る。


ゼロ「……誰か来たようです」


ラビは軽く笑って首を傾げる。

「大丈夫ー♡ どうせ中には入れないんだから」



ーーラビの言葉通り、外からはまったく開く様子のない扉の前で、聖騎士率いる団長たちは立ち尽くしていた。


アーサーは必死に扉を叩く。


アーサー「レヴィン!! 中におるのか!?」



ゼロ「どうなさいます?」


ラビ「ほっておこー♡」


ゼロ「はい」


ーー血や泥を拭われ、綺麗になったレヴィンは、ラビの膝の上でぐったりと目を閉じたままだった。


ラビ「んふふ……レヴィン、やっぱかっこいいー♡」


「う……」

ゆっくりと意識を取り戻すレヴィン


目の前には、心配そうに微笑むラビの姿があった。


「大丈夫?」


「うわっ!?」

驚いて慌てて離れようとする。


だが――


全身に走る激痛に、その場で悶絶した。


「〜〜〜っっっ!!」


ラビ「急に動くからよ」


ゼロ「肋骨は折れている」


レヴィン「な……なんだよその言い方……!」


「ク……クッソいてえええ!!」


「お前……ら……俺をこれからどうしようってんだよ……」


体を庇いながら、ラビからじりじりと距離を取るレヴィン。

喋るたびに全身へ鋭い痛みが走った。


ラビ「んー、別に♡」


レヴィン「はあ!? ……いっ……痛え……!!!!」


ラビ「ラビ、レヴィンに会いに来たんだから♡ ダメ?」


レヴィン「ダ……ダメだろ……」


ラビは頬に手を当て、困ったように唇を尖らせる。


「だって……ラビ……本当にレヴィンのこと、好きになっちゃったんだもん……♡」


そっとレヴィンの手を取り、少し恥じらうように微笑む。


レヴィン「……それをここまでボロボロにするか? ふつー」


ラビ「だってえ……ラビ、好きな人のことは……痛めつけるのが趣味だからあ♡」


レヴィン「クッソ、趣味悪い……」


ラビ「ひっどおおおおい!」


レヴィン「俺はお前みたいな女、嫌いだ」


ラビ「うっそおおお…!?」


思わず両手を口元に当て、目をまん丸にして驚くラビ。


レヴィンはぷいっとそっぽを向く。


ラビはそっとレヴィンの顔をこちらへ向けさせた。


「ねえ……ラビ、魅力ない…?」


うるうるとした瞳で見つめられ、不覚にも一瞬ドキッとするレヴィン。


バシバシ!


レヴィン「いて……いてえってば」


背中に、さっきから月霞が小さく抗議するような感覚が走る。



ラビはそっと、レヴィンの唇に自分の唇を重ねた。


レヴィン

「!?!!!!?!?!」


月霞

「!!!!!」


月霞の影が一気に跳ね上がり、天井へ叩きつけられる。


「んな……なにす...んだよ!」


顔を真っ赤にするレヴィン。


それを見て、ラビは満足そうにカラカラと笑った。


「ほらあー、ドキドキしたでしょお?」


レヴィンは視線を逸らしながら、小さく呟く。


「俺はそんなことされても、お前のものにはならない」


「許さないから……お前が迷宮で多くの人の命を奪ったこと」


立ち上がり、強く言い放つ。



「なんでえ?」


ラビは全くピンと来ていない様子で首を傾げる。


「だって……あの人たちはラビを殺そうとした悪者だしーラビは、ただ“自分を守っただけだし?」


「ラビを殺そうとした悪者だよ??」


「ラビはね、自分を守ろうとしただけだし??」


「ね?違う?」


レヴィン「……」


ラビは続けるように、ゆっくりと言葉を重ねる。


「あそこは私の迷宮だよ……?」


「勝手に入ってきたのはあの人たちだよお?」


「ラビが悪いの?」


「私は最初からレヴィンは助けようとしたのに……勝手に死んだんだよお」


その横で、ゼロは静かに頷いた。



ラビ「それに“暗黒騎士”なんて呼ばれ方されてさあ……」


「ラビ、ちょっと怒ってるんだよお……!!」


「ゼロもレヴィンも優しいのにー」


レヴィン「でも……お前なら……あの場で作り替えることはできただろう!!!殺す必要あったのかよ!!」


ラビ「それはできたけどお……」


一瞬だけ間を置いてから、


「でもお……あんな人たち、死んでよかったんだよお」


その言葉で、レヴィンの頭が一気に熱くなる。


「……っ!!!そんなのお前が決めることじゃねえだろ!!!」


「なによお……大きな声出してえ……」


涙を滲ませながら、ラビはレヴィンを見上げる。


胸の奥から怒りが込み上げた。


レヴィン「命を、そんな軽く選別すんな!!!」


ラビ「な....なによお……レヴィンなんか嫌い!!」


「でていってーーーーー!!!」


次の瞬間――


レヴィンの身体は迷宮の外へと弾き飛ばされた。


団長の懐へと飛ばされてきたレヴィン。


団長

「うわっ!?」


レヴィン

「いっつつ……」



ーーラビは最後に、まっすぐレヴィンを見つめる。


「本当に……本当に……」


「ラビはレヴィンが好きなんだからあ」


その言葉を残し、ゼロとともにラビの気配は消えた。


アーサー

「だだ大丈夫かあ!? レヴィン!!」


レヴィン

「……もうボロボロっす……」



団長

「よし……すぐに城へ戻って治療だ……!」


アーサーの背中に担がれながら、レヴィンは荒々しい揺れに耐えていた。


その間も、頭の中では迷宮での出来事が何度も反芻される。



レヴィン

「俺がどうすれば良かったんですかね……アーサーさん……」


「話し合い次第では、あの場で多くの人が助かったのかもしれない……」



アーサーからの返事はない。

だがその沈黙は、確かに重く響いた。



迷宮事件の発端となったラビ。

そして“暗黒騎士”ゼロとの邂逅。


それはレヴィンの心に、痛みと共に深く刻まれる出来事となった。

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