迷宮と本物 ⑤
装備を一新するために、アーサーと共に買い物に来るレヴィン。
人通りの多い武具店通り。鎧やマントが並び、金属の音が響く。
レヴィン
「目立たないように……黒い装備……あと顔も隠さないと……」
アーサー
「ふむ……おぬしは目立つゆえ、慎重になるのも分かるのう」
アーサーがいくつかの装備を見比べながら手に取る。
アーサー
「これなど良いのではないかのう。動きやすく、隠密にも向いておる」
レヴィン
「はい……これなら……大丈夫そうです……」
王様はその姿を見て眉をひそめた。
「なんだその装備は……」
レヴィン
「目立たないように黒で統一しました。顔も仮面で隠します」
(……むしろ暗黒騎士に寄せてないか?)
王様はしばし黙り、ため息をつく。
「……規律違反ではないが、なぜそこまで“闇寄り”に寄せる必要がある」
レヴィン
「アーサーさんと選んで、かっこいいのにしました」
アーサー
「うむ、悪くないと思うがのう」
王様
「……まあ黒が禁止という規律はないが……少しセンスがな……」
レヴィン
「えへへ……これが一番落ち着くので」
王様
「……なんなんだこの二人は」
ーーー回想終了ーーー
アーサー
「くうっ……わしのセンスが悪党寄りなせいで、レヴィンをさらに暗黒騎士化させてしもうたか……!」
強く拳を握りしめる。
「今すぐ助けに行くぞ、レヴィン!!」
レヴィンは名刀「月霞」を構えた。
その向かいで、ゼロもまた無言のまま剣を抜く。
互いの距離は一定。
だが視線だけが鋭く絡み合い、空気が一段深く沈む。
⸻
ラビ
「きゃー、楽しみぃー♡」
螺旋階段をたたっと軽やかに駆け上がり、二階の手すりに頬杖をつく。
まるで舞台観客のように、嬉しそうに二人を見下ろしていた。
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剣を構えたまま、二人は微動だにしない。
ただ風が通り抜ける音だけが、やけに大きく響く。
レヴィン
(絶対に強い……この人)
攻める隙はあるはずなのに、ゼロから放たれる圧に思わず呼吸が浅くなる。
ラビ
「殺しちゃダメだからねえ……レヴィンはラビのお気に入りなんだから♡」
ゼロ
「承知しました、ラビ様」
⸻
その言葉と同時に。
剣先が、ほんのわずかだけ揺れた。
次の瞬間――
目にも止まらぬ速さで、ゼロの突きが襲いかかる。
レヴィン
「うえっ!?」
(何だこの速さ……!?)
反応が間に合わず一瞬遅れる。
その刹那。
月霞が“意思を持つように”レヴィンの前へと飛び出し、突きを受け止めた。
レヴィン
「カスミ……!」
ラビ
「わあ……すごおい……あの子」
ゼロ
「呪い……か」
レヴィンは呼吸を整え直し、剣を横薙ぎに振る。
だがゼロは最小限の動きで、それを涼しい顔で当然のように避ける。
続けて斬撃、突き、連撃。
しかし――すべてが“読まれていた。
まるで、最初から軌道が決まっているかのように。
レヴィン
「く……っ!!」
(読まれてる……!)
(それに速すぎる……!)
一手出せば、二手も三手も先を取られている感覚。
レヴィン
「こんのやろ……!!」
衝撃波を放つ。
その瞬間――
ゼロの表情が、わずかに歪む。
レヴィンはその“ほんの一瞬”を逃さなかった。
懐へ踏み込み、一気に距離を詰める。
レヴィン
「こんのおおおおお!!」
月霞を渾身の力を持って振り抜く――!!
....だが。
刃が届く直前、見えない“何か”に弾かれるように、身体ごと吹き飛ばされた。
レヴィン
「うあ……!?」
壁に激しく叩きつけられる。
鈍い衝撃。
頭が揺れ、視界の端が赤く滲む。
レヴィン
「い、いってえ……」
ラビ
「大丈夫ー?レヴィン♡」
ゼロ
「そんな衝撃波……初歩中の初歩だな」
ラビ
「…レヴィンと似た技、ゼロも使えるんだあ♡」
「だから買ったの~」
レヴィン
「んだよ……それぇ」
思わず情けない声が漏れる。
(くそ……これじゃ歯が全く立たねえじゃねえか……)
心の奥で弱気がよぎる。
それでも、剣を握る手だけは離さない。
⸻
ゼロの剣が光を裂く。
⸻
レヴィン
「ぐっ……!!」
間一髪で月霞がそれを弾き、軌道を逸らす。
しかしゼロは止まらない。
流れるように、連続の突きが襲いかかる。
⸻
ゼロ
「行くぞ」
⸻
その宣言と同時に、斬撃が連鎖する。
レヴィンは防ぎ、かわし、受け止める。
だが一撃ごとに衝撃が蓄積し、腕が重くなっていく。
⸻
レヴィン
(くそ……速すぎる……!!)
(でも……俺は……負けられねえ!!)
⸻
わずかな“間”を見つける。
レヴィンは踏み込むように間合いを詰めた。
衝撃波で軌道を崩し、肩口へ剣を振り上げる。
⸻
だが。
ゼロはそれを当然のように回避し、反撃の一閃。
⸻
レヴィン
「うっ……!!」
⸻
肩をかすめる刃。
鋭い痛み。血が滲む。
それでも――レヴィンは止まらない。
ゼロ
「いい度胸だ……だが、まだ甘い!!」
剣が縦に振り下ろされる。
レヴィンはとっさに身体を捻り、それを避けた。
――が。
避けきれなかった余波が横から叩きつけるように走り、レヴィンの体を吹き飛ばす。
レヴィン
「くっ……!! いってえなあああ!! もおお!!」
背中から壁に激突した。
石の冷たさが、衝撃ごと骨に響いた。
息が乱れ...指先が痺れ、血で剣の柄が滑りそうになる。
それでも――容赦なくゼロの手は止まらない。
レヴィンに逃げるという選択肢は、とうに消えていた。
ゼロの剣が再び振り下ろされる。
その瞬間。
レヴィンは月霞を強引に振り抜き、半ばやけくそで衝撃波を重ねる。
ゼロ
「……ようやくだな」
だが次の瞬間――
視界がぶれる。
気づけばレヴィンは、再び壁に叩きつけられていた。
レヴィン
「いっつ……」
額に走る裂けるような痛み。
呼吸のたびに胸が焼けるように痛む。
レヴィン
(くそ……やっぱり強すぎる……)
(こんなん勝てんのか……)
必死に立ち上がり、再び月霞を構える。
全身が悲鳴を上げていた。
何度も叩きつけられた衝撃が、確実に蓄積している。
打撲、痺れ、鈍い痛み。
腕も足も、思うように動かない。
レヴィン
「……っっっ!!」
壁にぶつかるたびに、内側から響くような痛み。
骨が軋み、身体の奥がきしむ。
それでも、剣だけはまだ落とさない。




