迷宮と本物④
「迷宮が、呼吸をするように脈動した。」
レヴィンの宣言の余韻は、まだ空気に残っていた。
だがその静寂を裂くように、黒い影がゆっくりと姿を現す。
──暗黒騎士。
その名を馳せる存在、“ゼロ”として。
その頃──
タイオンとノアは城へと戻り、団長の元へと駆け込んでいた。
団長「どうした…!?」
アーサー「ぬ…!? お前らだけか…」
ノア「た、大変です!! レヴィンが…!!」
タイオン「迷宮の主に閉じ込められてしまって…!!」
団長「な……」
「なああにいいいいいい!?」
団長の言葉を遮るように、アーサーが大音量で叫んだ。
次の瞬間、返事を待つこともなく──城を飛び出す。
団長「あ…アーサー…!!!」
廊下に響く足音が、みるみる遠ざかっていく。
アーサー
「あの時の二の舞にはせんぞ…!!
今行くぞ…レヴィン、待っておれ!!!」
そして彼は、迷いなく駆け抜けていった──!!
アーサーは、あの時を思い返していた。
そう、あれはレヴィンがまだ聖騎士になりたての頃。
前団長とともに任務へ向かっていたはずが、気づけば──
見知らぬ迷宮の中に迷い込んでいた。
「ここどこ?? 迷路??」
団長とはぐれたレヴィンは、軽い調子で周囲を見回しながら1人で歩いていた。
そこは不思議な場所だった。
噴水があり、花が咲き、まるで誰かの庭園のような空間。
「すげー……雰囲気あるなー。こういう場所好きだなー!!!」
感心しながら歩いていると──
「ここ、いいでしょ?」
背後から声がした。
レヴィンが振り向く。
そこに立っていたのは、息を呑むほどに美しい一人の女性だった。
「え、作った本人!?」
レヴィンは素直に目を輝かせた。
「うん、そうだよ」
ラビは満足そうに笑う。
「すげーなー!!! 中どうなってんの!?」
「うふふ!! じゃあ案内してあげるねー。行こ!!!」
嬉しそうに、ラビは軽やかに先頭を進む。
レヴィンはその後を追い、迷宮の中を歩き始めた。
周囲はまるで本物の庭園のように穏やかで、
レヴィンは興味深そうにきょろきょろと見回す。
ラビはその様子を、嬉しそうに見守っていた。
奇妙なほど、穏やかで賑やかな時間だった。
──だが、その均衡は唐突に崩れる。
レヴィンの前に、空気が“重く沈む”ような殺気が流れ込んだ。
迷宮の奥から現れたのは、ボロボロの前団長と聖騎士たちだった。
「まだ生きてたんだー!」
ラビの声は明るい。
だがその奥に、冷たく乾いたものが混じる。
レヴィン
「えっ……? 悪者だったの!?」
ラビ
「ラビはいい子だよ。邪魔してるのはそっち」
──認識が、噛み合わない。
前団長は、レヴィンを強く引き寄せる。
「騙されるな!! こいつは迷宮の主、大悪党のラビだ!!」
レヴィン
「ええええ!? この子が!?」
ラビ
「今はデートしてただけなんだけど……」
どこか不満そうに、唇を尖らせる。
レヴィン
「デートだったの!?」
──二重の驚きだった。
やがて、衝突が始まる。
前団長は叫ぶ。
「この女は100人以上を幽閉している犯罪者だ!!」
レヴィン
「え……?」
ラビ
「出したらまた入ってくるから、殺しにくるでしょ???
だから出さないだけ」
その理屈は、レヴィンには理解できなかった。
「レヴィン!! こちらへ来い!!」
「待ってください……話せば……!!」
だが戦場は、待たない。
団長の刃が、ラビへと振り下ろされる──!!
ラビ
「きゃあーー!! やだぁああ!!」
その瞬間。
迷宮が悲鳴を上げるように崩壊し、光が走った。
ラビの能力が暴走し、空間がねじれていく。
そして──すべてが崩れ去ったあと。
そこに残っていたのは、白骨化した遺体の山と、息絶え絶えの生存者の断片だった。
レヴィン
「は……?」
腰が抜け、体が震える。
目の前の現実から、目を背けたくなるほどだった。
さらに奥には──団長と聖騎士たちの亡骸が広がっていた。
レヴィン
「だ……団長ーーー!!
皆……なんで……なんで……!!」
ラビ
「殺されるなら、殺した方がいいじゃない?」
その言葉は、あまりにも当然のように響いた。
レヴィン
「なん……何言ってんだ……お前……」
ラビ
「私、レヴィンは好き!!」
その一言で、何かが切れた。
レヴィン
「ふざけんな!! 俺はお前のやり方が大っ嫌いだ!!!」
ラビ
「嫌い……?」
ラビの声が、一瞬だけ揺れる。
「嫌いって言った……?」
その瞬間──
レヴィンの背筋に冷たいものが走った。
ラビ
「許さないーーー!!」
レヴィン
「!!!」
空気が、一変する。
ラビの力が解き放たれ、周囲に残っていた生存者たちが次々と崩れ落ちていく。
レヴィン
「やめ……やめろおおおお!!」
叫びは届かない。
レヴィンは、その衝撃のまま意識を手放した。
⸻
──次に目を覚ましたのは、アーサーの声だった。
「おい……起きろ、レヴィン」
ゆっくりと視界が戻る。
だがそこに広がっていたのは、静寂ではなかった。
犠牲になった者たちの家族、仲間たちが、絶望のただ中に立ち尽くしている光景。
視線の先には、無惨な亡骸。
さっきまで“人”だったものの残骸だった。
レヴィンは震える手でアーサーの服を掴む。
レヴィン
「俺……俺、また生き残っ……」
アーサー
「違う……違う……」
その意味を理解するより先に。
「お前だな……なんで助けてくれなかった!!」
一斉に詰め寄る声。
レヴィンは青ざめたまま、その場に崩れ落ちる。
これが現実だと、どうしても認められなかった。




