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研ぎ師との縁①

レヴィンは馴染みの研師の元へ向かった。


「ディオンさーん!」


店に入ると、研師のディオンは女性を口説いている最中だった。


ディオンは手をしっしっと振り、レヴィンを追い払うように合図する。

「邪魔だ」と言わんばかりだ。


女性が振り向くと、そこには暗黒騎士の装いをしたレヴィンが立っている。


「ひっ……」


小さく悲鳴を上げ、女性はそそくさと店を出ていった。


無情にも閉まる扉に、ディオンは手を伸ばすが、すでに遅い。


ディオンは「けっ」と舌打ちし、やる気を失ったように新聞を広げてそっぽを向いた。


レヴィン

「ディオンさーん、仕事サボってばかりいないで剣、研いでくださいよー」


ディオン

「フンッ!俺は今、気分を害した」


一瞬、沈黙が落ちる。



しかしレヴィンは、軽く奥の手を炸裂させた。


「アディオに言っちゃおうかなー。

父親がアルデラ王国で研師してるって」


その一言で、ディオンの体がビクッと跳ねる。


ディオン

「いらっしゃいませ……お客様ぁ〜」


貼り付けたような笑顔。


(くそがぁ……!なんで聖騎士が、よりによって息子の親友なんだ!

家族から逃げるようにして、こんな王国で店を開いたのに……!)


レヴィンは仮面の下でニヤッと笑い、鞘から剣を抜いた。


ズ…ズズ…ズズッ……


古びた、やけに重い剣。


ぽん、とディオンの手のひらに置かれる。


その瞬間――


ウネウネとした邪気が立ち上がり、ディオンを包み込んだ。


ディオン

「な、なんじゃこりゃあああ!?」


レヴィン

「それ!呪われてるんですけど!

俺の剣にしたいんで、お願いしますね!!」


ディオン

「そんな剣を持つ奴がどこにいるんだあああ!?」


邪気が顔にまとわりつき、視界まで歪む。


レヴィン

「多分!うねってるだけなんで大丈夫ですよぉー!

ディオンさん、日頃の行いが悪いから過剰に警戒されてるんじゃないですかね!?」


ディオン

「お前、とんでもない発言する奴だな!!」


確かにウネウネしているが、実害はない。


ディオンは一瞬だけ思考を逸らす。


(若い女の子に纏わりつかれてると思えば……)


――その瞬間。


生気がごっそり抜け、顔色が一気に土色になる。


ディオン

「うっ……」


レヴィン

「うわあああ!?ディオンさんがミイラみてえに!!ダメだ!やめろ!!」


次の瞬間。


剣がぴたりと静まり返る。


まるで何かを諦めたように、邪気が逆再生のように収まっていく。


ディオンの顔色も元に戻る。


レヴィン

「お前、話通じるのかー!」


剣を手に取り、得意げに褒める。


ディオン

「そんな物騒なもん、絶対に見たくないし、触りたくもないし、関わりたくもない!」


レヴィン

「なんですかあ……そんなんだから、愛想尽かされた家族に謝罪一つもできないんですよぉ〜」


その一言が、ディオンの胸に強烈に突き刺さる!!!


ディオン

「お前な……俺はデリケートなんだ……。

研師として軌道に乗ったら行こうかと……」


ごにょごにょと視線を逸らす。


レヴィン

「じゃあ!仕事してくださいね!」


――再び沈黙。


レヴィン

「アディオに、ディオンさんのこと嘘も混ぜて褒めておきますから!」


ディオン

「お前……よくあのアディオと友達でいられるな。普通、喧嘩になるだろ」


レヴィン

「ならないっす!アディオとは喧嘩したことないんですよ。俺が何しても怒らないし、会うたびに何か持ってくるし……そんな気を遣わなくてもいいんですけどね!?」


ディオン

「……そうか、クソガキも少しはマシになったみてえだな」


ディオンは結局、剣を手に取り、研ぎに入る。


レヴィン

「まあ、二重人格だし、女癖は悪いし、口から毒も吐くし、いっつもイライラしてるけど……いい奴なんです!」


ディオン

「……今の話のどこに“いい部分”があるんだ?」


ディオン

「ふん……まあ、よろしく頼むわ。あんなガキ、友達なんて碌にできなそうだしな」


レヴィン

「よくそこまで言えますね!?」


ディオン

「お前にだけは言われたくねえわ!!」



しばらくの間、金属を研ぐ音だけが工房に響いていた。



ディオンは黙ったまま剣を研ぎながら、ふと視線を落とす。


(あいつらを傷つけ続けた過去は、何一つ変わらねえ)


(妻にも、息子にも……暴言を吐いて、手も上げた)


(今さら会いに行く資格なんてねえ)


(許されるとも思っちゃいねえ)


それでも。


研ぎ師としての腕を立て直せば、

少しはこの罪が赦されるんじゃねえか。


そんな仄かな期待を、まだ捨てきれずにいる自分がいた。


聖騎士は嫌いだ。


知り合ってまだ一年程度だというのに、息子以上にズケズケ物を言いやがる。

暗黒騎士だとかで顔を隠しているが、似合わねえ格好だといつも思う。



だが――


こいつとアディオが並んで歩いているのを見た瞬間、心臓が跳ね上がった。


(アディオが送り込んだのか……?

まさか、俺に復讐を……?)


だがすぐに違うと気付く。



今、その聖騎士は仮面を外し、勝手に部屋に上がり込み、

テレビを見ながら煎餅を食い、爆笑していた。


正直、復讐とかそういうタイプじゃない。

悪い意味で。


レヴィン

「わははは!ディオンさん、飯でもどっか行きませんかー?」


ディオン

「なんだその馴れ馴れしさは……」


レヴィン

「なんかディオンさんち、落ち着くなー!

部屋の感じもアディオと似てるからかなー」


ディオン

「ふん……」


こいつは、やたらとアディオの話を挟んでくる。


レヴィン

「ディオンさんー!まけてくださいね!」


ディオン

「けっ……聖騎士なんだから稼いでるだろ。お前は期待されてる騎士様なんだろうしよ」


レヴィン

「いやあ、親父が通帳管理してるから使える金少なくて……」


ディオン

「ガキか!てめえはっっ!!」


レヴィン

「俺……いくらもらってんだろう」


真剣な顔で考え始める。


ディオン

「明細、もらうだろ」


レヴィン

「そーいや、見ずに捨ててました!」


ディオン

「バカかああああ!!」


……俺はアディオがまだ小さい頃、酒代にするために妻から金を引ったくったりしたな……


ディオン

「お前の親父さんは……優しいか……?」


レヴィン

「俺の父親ですかー!!

顔は凶悪ですけど家庭的ですよ!!!

子守りと掃除が得意です!!」


ディオン

「……?」


(凶悪な顔で子守りと掃除……?)


想像してみる。


筋骨隆々の男が、無表情で子供をあやしながら部屋を掃除している姿。


いや、どう考えても絵面がシュールすぎる。


ディオン

「まあでも金の管理を今でもしてくれるなんて、いい親父さんだな……」


少し間を置いて、続ける。


ディオン

「俺だったら多分、ギャンブルか酒代に消えてる」

「お前を見るに、いい親父なんだろうよ」


レヴィンはぽかんとしたあと、首をかしげる。


「えー、でも俺的には普通ですよ?」


「その“普通”が一番遠いんだよ……」


ディオンはふと視線を落とした。


(俺はあの頃、金も家庭も、ガキの扱いも……全部雑にしてた....今さら“親父”なんて言える立場じゃねえ)


それでも。


目の前の聖騎士は、なんの悪意も無いような顔をしてズケズケと痛い部分を突ついてくる。


その無神経さに背中を押されてる自分もいる。


そんな迷いを胸に秘めつつ、ディオンは一心不乱に呪いの剣を研いだ。


金属音だけが、静かに工房へ響いていく。

この前コンビニのアイスコーヒーを飲んでいて、氷をガリガリしようとしたら、なぜか氷が一気に顔面に降ってきて大惨事になりました笑

人生、たまに理不尽です。


そんな中で本編では、アディオと父・ディオンの関係も少しずつ描いていきます。いつか向き合える日が来るといいですね。

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