禁忌の気配を宿す剣 ②
レヴィンは静かに息を吸い込み、剣の柄に手をかけた。
――ずるり。
禍々しいオーラをまとった剣が、地面から引き抜かれる。
「……うわ……」
思わず声が漏れる。
黒い靄が生き物のようにうねり、手首へと絡みついてきた。
冷たく、粘つくような感触。
普通なら、反射的に手を放していただろう。
「……またこれか」
小さく息を吐くような呟き。
なぜか昔から、こういう剣に縁がある。
呪われた剣、忌まわしい力を宿す刃。
避けてきたつもりでも、気づけば手の中にある。
黒い邪気は蛇のように蠢きながら、抵抗するような気配もなく、ゆっくりと剣へと吸い込まれていった。
――とりあえず、抜けた。
邪気は今のところ、表に出てきていない。
だが油断はできないだろう。
(持ち帰って、団長に見せるか……)
そう判断し、レヴィンは剣を収めて廃墟の外へ出た。
⸻
「お兄ちゃん!」
「だいじょうぶ!?」
「いたい?」
待ち構えていた子供たちが、一斉に駆け寄ってくる。
レヴィンは一瞬きょとんとして、それからにっと笑った。
「俺はこの通り!」
両腕をぐっと広げ、くるりと一回転。
元気そのもの、怪我ひとつない姿を見せる。
「ほら見ろ、ピンピンしてるだろ?」
あはは、と子供たちが声を上げて笑う。
「黒い聖騎士のお兄ちゃん、おかしいー!」
「いつも元気すぎ!」
「な、なんだよそれ」
レヴィンは少し照れたように頭をかいた。
「元気すぎるってのは、褒めてんのか?」
レヴィンは子供たちに大きく手を振る。
「また来るからなー!」
わあっと声を上げる子供たちを背に、スラムを後にした。
その手には――
先ほどまで禍々しい邪気をまとっていた剣。
じっと眺めるが、今は不気味な気配は微塵も感じられない。
(……静かだな)
――アルデラ王国。
王城の広間に、慌ただしい足音が響く。
聖騎士たち、そして王までもが集められ、
レヴィンはテーブルの上に剣を置いた。
コトリ。
その瞬間――
ぶわり、と空気が歪む。
黒い邪気が剣から溢れ出し、蛇のようにうねり始めた。
「うわあああああ!?」
反射的に聖騎士たちが王の前へ飛び出す。
「陛下をお守りしろ!!」
「近づくな! 呪われている!!」
「……あれ?」
騒然とする中、レヴィンだけが首を傾げる。
「さっきまで、何にも出てなかったんだけど」
「バカ!!」
団長の怒声が飛ぶ。
「触るな、レヴィン!!」
だが――
考えるより先に、体が動いた。
レヴィンは剣を掴む。
その瞬間、暴れていた邪気がぴたりと止まる。
まるで主を見つけたかのように――
シュルシュルと、剣へ、そしてレヴィンの手元へと吸い込まれていく。
沈黙。
さっきまでの禍々しさが、嘘のように消え去った。
「…………」
「………………」
広間にいた誰もが、言葉を失う。
「は、はああああ!?」
ベテランの聖騎士が、思わず声を漏らした。
「ありえん……」
「そんな話、聞いたことがない……!」
若手の聖騎士たちは、怯えたように一歩引く。
――呪われた剣を、“鎮めた”。
それも、意図せず、当たり前のように。
レヴィンはきょとんとしたまま、剣を見下ろす。
レヴィン
「……あれ? 俺、なんか変なことしました?」
一瞬の静寂のあと――
王
「規格外じゃ!!」
玉座から身を乗り出し、王の声が広間に響いた。
「呪われた剣が人に従うなど聞いたこともない!
ましてや触れただけで鎮まるなど……!!」
アーサー
「わっはっはっは!!」
豪快な笑い声が空気を割る。
「レヴィンの前の剣も、確か呪われた代物じゃったからのう!
どうやらこやつ、呪われた剣に好かれる体質らしいわ!」
腹を抱え、肩を揺らして笑うアーサー。
「剣の方から“こいつならいい”と言っておるようじゃ!」
若手の聖騎士たちは、青ざめた顔で互いを見合わせる。
若手聖騎士
「……うわ、こわ」
「こっちくんな」
レヴィン
「ひどくね?」
すごい言われようだ……。
周囲が一歩、また一歩と距離を取る中。
タイオン
「……でもさ」
ぽつりと、空気を切るように声が落ちる。
「レヴィンが持ってる間は、害は出てない」
視線を剣に向け、そしてレヴィンへ。
レヴィン
「えー?
じゃあさ、こいつ俺の剣にしていいって意味!?」
そう言って、レヴィンは呪われた剣をひょいっと掲げた。
王
「そうは言っとらん!!」
即座に怒鳴り声が飛ぶ。
「何でもかんでも城に持ち帰ってくるでない!」
「この前も変な石を拾ってきおってな!」
指をビシッと突きつける。
「鑑定したら――爆破する石じゃったではないか!」
「城で爆発してたらどうするつもりじゃ!」
レヴィン
「あれ綺麗だったから、王様喜ぶかなって」
王
「綺麗で済むか!!わしが綺麗に吹っ飛ぶわい!!」
アーサー
「わっはっは!
王城が吹き飛ばなくてよかったのう!」
団長
「笑い事ではありません……」
額に手を当て、深いため息をつく。
団長
「とにかく鑑定してもらう……当然レヴィン、お前もだ」
団長の背後からゴゴゴ……と、怒りの炎が見えるようだった。
レヴィン
「どこまで行くんですかあ!?」
だが本人だけは、団長の“怒りの圧”に気づいていなかった。
翌日。
団長とレヴィンは、西にある街へ向かっていた。
そこには、凄腕と名高い鑑定士がいるという。
呪具、魔剣、古代遺物――
「手に負えない」と言われた代物でも、必ず正体を暴くと噂の人物だ。
王都からの道のりは、およそ二時間。
王都の空は、どこまでも静かだった。
その静けさの奥で、まだ誰も知らない“異変”だけが、確かに息を潜めていた。




