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不機嫌な産声

ーーーバルトラ国


そこにある教会で、祈りを捧げるシスターがいた。


腰まで伸びた美しい髪が、静かに揺れる。

清楚な顔立ちは、祈りの場にふさわしい穏やかさを湛えていた。

その姿は、見る者に優しげな印象を与える。


ルナだ。


祈りを終えたルナは、後ろに座っている人物へ視線を送る。

――やはり、いた。アディオだ。


後方の長椅子に、足を組んで座る男がいる。

背もたれに寄りかかり、片腕を無造作にかけているその姿は、一見だらしなく見える。

だが――この場の空気に従う気がないことだけは、はっきりと伝わってきた。


だがそんな反抗的な態度から一変会話が始まるとやわらかさを醸し出す。


アディオ「レンな、大はしゃぎだったぞ。子供助けてな...?その母親にも、えらく感謝されてた」


アディオは、海での出来事をどこか楽しげに語る。


「そ……っか、そんなことが……」

ルナは少し俯き――それから、ほんの少しだけ微笑んだ。


「良かったね」


アディオ

「まあ……あいつが先に来てるなんて珍しかったからな。少し驚いたが」


ふと、思い出すように目を細める。


フードを浅く被り、腕を組んで立つその姿。

誰も近寄れないような空気をまとい、ただ静かにそこにいた。


アディオ

「……お前は、もう会いに行かないのか?」

「もう一戦、交えに――な?」


少しだけ意地の悪い視線をルナへ向ける。


二人の間に、しばしの静寂が落ちた。


ルナ

「レン……強くなってたな……」


アディオ

「……レン相手に、いい勝負できるのはお前くらいだぞ。ルナ」


最近まで知らなかったルナの実力。

本気で剣と向き合っていた彼女は、いつの間にか――

並の剣士では太刀打ちできない領域に立っていた。


これほどの女剣士は、見たことがない。


ルナ

「私の真似しただけの剣技よりも……レンの方が鋭くて」

「圧がすごくて……一瞬の油断もできない」

「ピリッとしたあの感じ……嫌いじゃないなあ……」


アディオ

「……あいつ、今はそんな戦い方してるのか」


小さく息を吐く。


――暗黒騎士、か。


ルナ

「ねえ……レン……海で女の子にモテてなかった……?」

「ねえ……ねええ!!」


アディオの襟を掴み、ぐわんぐわんと揺さぶるルナ。


アディオ

「海でな、女どもがギラギラした目で狙ってたぞ」


わざとらしく、声を大にして言い放つ。


その一言に――ルナは目を見開いた。


ルナ

「ひえっ……!!」


脳裏に浮かぶのは――

海辺で、スタイル抜群の美女たちに囲まれるレンの姿。


ギラギラとした視線。

逃げ場のない包囲。


(……私じゃ、立ち向かえる気がしない……!!)



ルナ

「はあ……そんな……またかっこよくなっちゃったのかあ……」

「はあーーーーーーーあ……」

「どちくしょう……いいよね、アディくんは……すぐ会いに行けて……けっ」


長いため息とともに、すっかりやさぐれてしまうルナ。


アディオ

「……そんなに好きなら、素直に会いに行けばいいだろ」


ルナ

「私からは……会いに行けないよ……」


アディオ

「……なんでだ?」


ルナ

「私が今行けば、あの子……責任感じちゃうから」

「『幸せにするよ』なんて言ったって……レンが幸せになるわけじゃないし……」


アディオ

「……まあな」


ルナ

「でしょう!?」

「リュウ兄とさ、思考回路似てるところあるんだよね……血筋? 血筋なのかなあ……」


少し考えて――


「……面倒な血筋だなあ……」


ーーその時、ガタン…!何かが落ちる音が2階から聞こえてきた。


ルナ

「……今の音…!?エミリア!?」


アディオ

「陣痛来たか!?」


一瞬の間。


次の瞬間、ルナが一目散に駆け出した。



エミリアは2階で、大きなお腹を押さえながら苦しんでいた。

そのお腹の中には、亡きリュウとの子どもがいる。


エミリア

「ルナ……っ!!産まれるかも……」


ルナ

「よし来た!!」


アディオがすでに航空機を準備していた。

一行はそのまま、病院へと急ぐ。


ーーその頃、ハリスは仕事を終え、一息ついていた。


そこへルナから連絡が入る。


ルナ

「もうすぐ生まれそうだよおおおおー!!」


感極まった声が、耳に響く。


ハリス

「もうそんな時期か……僕も行くよ」


ルナ

「レンは……?来ないの?」


ハリス

「多分リュウの子供って聞いたら、“俺が育てる”って泣きそうだからね」


想像がついてしまう。


しばらくしてからレヴィンに会わせようと、二人はそう判断した。


ハリスは通信機をそっと置くと、軽く身支度を整え、医務室を出た。


(レンはまだ不安定だ……リュウのことも、まだ完全には乗り越えられていない)


胸の奥に、わずかな痛みが走る。


それでも今は、自分だけで行くべきだと判断した。


ハリスはレヴィンには声をかけず、静かにアルデラ王国を後にした。


ルナから聞いていた病院に、ハリスは到着した。


アルデラ王国を出てから、すでに3時間が経っている。


(もう生まれているだろうか……)


そんな不安を胸に、ハリスは足を止めた。


「ハリス!!」


ルナがこちらへ駆け寄ってくる。


その直後――


「お父様ですか!?さあ、どうぞ中へ!」


看護師に声をかけられ、抵抗する間もなく分娩室へと押し込まれた。


ハリス

「え……? あ、いや、僕は……」


ルナ

「もういいよ、パパで」


訳のわからない一言とともに、背中を強く押される。


抵抗する間もなく、ハリスは産声の響く分娩室へと突入した。


きっと――ずっとエミリアに付き添っていたのだろう。

ルナの息は、どこか乱れていた。


エミリア

「あ……ハリスー」


疲れ切ったエミリアの腕の中には、産まれたばかりの赤ん坊がいた。


エミリア

「抱っこしてあげてー」


またしても誤解を招く言い方だ。


恐る恐る、覗き込む。


その小さな顔は――


リュウに、よく似ていた。


(……これは、レンが見たら泣くな)


早く会わせてやりたい。

――けれど同時に、何かを背負わせてしまいそうでもある。



ハリス

「あの……写真を撮っても?」


看護師

「はい、もちろんです!」


ハリスは赤ん坊の写真を何枚も撮影した。


ハリス

「可愛いなあ……」


ルナ

「だよね、だよねー」


小さな手。赤いほっぺ。

まだ産まれたばかりの、くしゃっとした顔。


その場の空気が、ふっと緩む。


――だが、次の瞬間。


赤ん坊は、ぶすっと不機嫌そうな表情を浮かべた。


眉間に皺を寄せ、口元をきゅっと結ぶ。


ルナとハリスは、思わず吹き出した。


エミリア

「え……?なになにー?」


ルナ

「あはは!!この仏頂面、リュウ兄そっくりー!」


エミリア

「ほんとだ!!」


その小さな命は、確かにここに繋がっていた。

失われたものも、これからの時間も――すべてを抱えながら。


笑い声の中で、

新しい家族が、ひとつ増えた。


お読みいただきありがとうございます。


実はエミリアは、アグニ戦の頃からリュウとの子どもを身ごもっていました。


リュウにも、会わせてあげたかったです。

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