海に並ぶ背中②
もぐもぐと口いっぱいに頬張るレヴィンを見て、アディオは目を細めた。
柔らかな笑みが、ふっとこぼれる。
チェイズ「ぶはっ!! お前のそんな顔、ひっさびさに見たぜ!レンに会えて良かったなーアディオ」
アディオ「ふ…っ!! レンは俺の命のバロメーターだ!! 仕事で疲れた体がみるみる回復していくぞ!!」
そう言って、アディオは立ち上がり、両腕を太陽に突き上げた。
チェイズ「おいおい…重いっつーの…」
レヴィン「あはは!! 大袈裟だなー!アディオは!!」
チェイズ「ったく相変わらずだなーお前ら」
チェイズはがさごそと食材を広げ始める。
レヴィンはキラキラした目でそれを覗き込んだ。
アディオ「ダメだ!」
チェイズ「ん?どした?」
アディオ「レンが食いすぎて動けなくなる前に遊ぶぞ」
チェイズ「た、確かに…」
レヴィン「俺そんな食わねえよ!」
食うだろ!!
二人の声が綺麗にハモった。
レヴィン「ええ!?」
チェイズ「よーし!まずは水上バイクやろうぜー!!」
レヴィン「おお!! 俺、水上バイク乗りたかったんだよな!!」
アディオ「面白そうだな…ちょうど空いてそうだし借りに行くか」
レヴィン「俺借りに行ってくる!!!」
その言葉と同時に、レヴィンは駆け出した。
砂を蹴り、全力で走る。
そのスピードは、もはや人間離れしていた。
チェイズ「お…おーい…危ねえぞ…人多いし!」
レヴィン「平気平気ー!」
波打ち際、人混み、そのすべてを縫うように駆け抜ける。
舞い上がる砂が太陽に反射して、きらきらと光った。
こういう時に限って、必ず何かをやらかす。
それがレンという男だ。
チェイズ「……あいつ絶対なんかやるぞ」
アディオ「ああ」
長い付き合いで培われた勘が、二人の中で嫌な音を立てていた。
「レーーン!!」
チェイズがレヴィンを呼び戻そうとした時——
その時、雲に隠れていた太陽がカッと顔を出した。
強い光が、砂浜の一点に反射する。
——砂に埋もれ、頭だけを出しているハゲの頭だった。
ピカッ。
レヴィンの視界が一瞬、白く弾ける。
「うっ!!」
だが、勢いは止まらない。
つるっ……!!
「やべ…!!」
汗で光るその頭に、足を取られる。
レヴィンはとっさに体勢を立て直そうと空中で回転を試みる——が、高さが足りない!
迫る砂浜。
「まずい…!!」
次の瞬間、レヴィンの体は宙を舞った。
どさっ!!
砂煙が大きく舞い上がる。
ビーチにいた人々の視線が、一斉に集まった。
ざわ……と、ざわめきが広がる。
アディオ「チェイズ!!! 頼む!!!」
小柄な俺よりも、大柄なお前の方が手足が長い!!
レンを……レンを頼んだぞ…!
チェイズは地面を蹴り、滑り込むように手を伸ばした!!
チェイズ「うおおおおおおお!!」
観客も息を呑み、目が離せなくなる。
レヴィン「うわああああ!!」
チェイズ「届けえええ!!」
次の瞬間——
大きな腕が、レヴィンの体をがしっと捉えた。
そのまま抱き上げ、ギリギリで墜落を回避!!
砂煙が舞い上がる。
「おおおおっ!!」
観衆から歓声が上がった。
レヴィンはチェイズの胸に抱かれたまま、驚いた顔をして——
やがて、くすっと笑い出す。
レヴィン「サンキューチェイズ」
チェイズ「あたぼーよ」
そこへアディオも駆け寄り、肩を揺らして笑った。
アディオ「チェイズ……やったな…」
チェイズ「おうよ…」
ぱちぱち、と拍手が広がっていく——。
チェイズ「ったく…危ねえだろ?レン」
レヴィン「いやあ…ハゲ頭に太陽が反射して目が眩んじゃってさ…宙返りしようとしたんだけど高さが足りなかった」
アディオ「何ィ!? おいそこのタコ頭!! お前なんでそんなハゲ頭だけ出してやがる!! レンが滑っただろうが!!」
完全に理不尽な言いがかりだった。
だが何故か——
「そうだそうだ!!」
「砂浜と同化してるぞ!!」
観衆までもが同調する。
ハゲ「……なんだとぉ?」
ハゲは、パラパラと砂を払い落とし——
埋まっていた胴体をゆっくりと露わにした。
その姿は——
まるで、ボディビルダー。
黒光りする筋肉。
無駄のない、完成された肉体。
場の空気が一瞬で凍りつく。
「うわああああ!? 皆逃げろおおおお!!」
なぜか一番恐れおののいたレヴィンの声に、
観衆たちは一斉に逃げ出した——。
ハゲ「……すいません...ハゲてたせいで....」
ぺこぺこと申し訳無さそうに頭を下げるハゲ。
そのあまりの低姿勢に——
チェイズ「あ……いや、こっちこそ……」
思わず、ぺこり。
アディオ「……すまん。言い過ぎた」
こちらも、ぺこり。
気付けば三人そろって、ぺこぺこと頭を下げていた。
ドドドドド……
どんどん増えていく人数。
レヴィンは、ふと我に返った。
「あれ……?なんで逃げてんの?」
観衆「知らないよ!! お前が逃げろって言うからついて来たんだよ!!」
レヴィン「え……誰!?」
観衆「お前こそ誰だよっっ!!」
そのまま、わあわあと騒ぎながら人の波は散っていった——。
しばらくして。
レヴィンはとぼとぼと元の場所へ戻ってきた。
そして、ムキムキのハゲのおっさんの前に立つ。
レヴィン「……すいませんでした」
手には、フランクフルト。
差し出す。
ハゲ「問題ない!! 怪我は無いか!?」
レヴィン「おっちゃん……!! いい人だ……!!」
ハゲはフランクフルトを受け取ると、
パリッ!!
小気味いい音を立ててかぶりついた。
その頭には——
レヴィンが滑った足跡が、くっきりと残っていた。
「もうちょっと人の歩かない場所に移動するよ!! ははは!!」
レヴィン「……すいません…」
アディオとチェイズも見かねて、一緒に頭を下げた。
レヴィン「あんなに俺の足跡残っちまった…」
アディオ「お前のなら国宝級の価値があるさ」
レヴィン「えぇ…?」
謎の励ましだった。
「元気出せよー!ハゲてるから見えなかったんだよー!」
「わかるわかる!あの場所じゃ俺もコケてたかも!」
さらに、なぜか群衆からも励ましの声が飛ぶ。
レヴィンは一瞬きょとんとしたあと——
「……ありがと!!」
ぱあっと顔を明るくした。
——なお、そこは人通りの多いど真ん中であった。
だが、その事実に誰も触れなかった。
チェイズ「よ…よし、じゃあ水上バイク借りに行くぞ」
——この展開についていけてねえの、俺だけか…?
なんだこの状況…。
水上バイクを借りに行く道が、すっと開く。
観衆は、まるでここがゴールだと言わんばかりに——
自然と花道を作っていた。
レヴィンは水上バイクを手にし、目を輝かせる!!
ぱちぱち……。
どこからともなく、拍手が起こった。
アディオも、なぜか和やかな顔でそれに混ざる。
チェイズ「よ…よし…海に行って乗ろうぜ…」
どこか気まずさを感じながら、
チェイズは水上バイクを引きずって海へ向かった。
気づいたら、こんな話を書いていました…笑
こんなふざけた内容に最後までお付き合い頂いた皆さまには、感謝しかありません。
レンの暴走、スキンヘッドマッチョさんの光線、群衆の大移動…
自分でも何を書いてるのか分からなくなりつつも、書いててめちゃくちゃ楽しかったです!
次回もこんな調子かもしれませんが、どうぞよろしくお願いします(´▽`)




