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暗黒騎士、その実像

「……ここが禁断区域か…」

レヴィンは、肌にまとわりつく異様な気配に足を止めた。


レヴィンたちは森を抜け、徐々に空気が変わるのを感じた。

木々の枝はねじれ、闇に吸い込まれるように互いに絡み合っている。風はなく、かすかなざわめきだけが耳に届く。遠くから獣のうなり声がかすかに聞こえ、地面には黒ずんだ霧が足首まで漂っていた。


土の匂いは湿っていて腐敗臭にも似ている。時折、地面の影が生き物のように揺れ、まるで森そのものが意志を持っているかのようだ。魔獣や異能者の潜伏の噂は、決して誇張ではない――この空気そのものが、危険を告げている。


フェルナンドは足取りを乱さず、冷静に歩く。しかし、彼の付き人は少し肩をすくめる。手足の震えが隠せないのが見えた。


レヴィン(くっ…くせえええええー!どうにかならんのかこの臭さ…)

心の中で毒づきながらも、顔にはできるだけ平静を装す。


「ハリス様…やはり、私では役不足のようですね…」

付き人が申し訳なさそうに告げる。


「ひっ....」

遠くから獣の遠吠えが響く。

フェルナンドは小さく肩をすくめ、付き人の手をそっと握った。


付き人も少し怯え、足元を確かめるように歩く。

黒ずんだ霧の中、足音ひとつで影が揺れるのを見て、二人の表情にわずかな緊張が走った。


ぺと……っっ!!


レヴィンの顔に、吸い付くように何かが張り付いた。


「うわあああああ!?」


フェルナンドと付き人が同時に声を上げる。

反射的に身構え、後ずさる二人とは対照的に、レヴィンは一瞬だけ目を細めた。


顔に伝わるのは、温かくて、柔らかい感触。

そして――


「……きゅるる…」


間の抜けた、小さな鳴き声。


レヴィンはそっと手を伸ばし、顔に張り付いたそれを剥がす。

指の間に現れたのは、以前この森で世話をした、あの小さなドラゴンだった。


「……お前か...どっから着いて来ちゃったんだ...?」


安堵と呆れが混じった声で呟く。


(……ってか、成長早すぎだろ……)



(何そのドラゴン!?)

ハリスが心話で慌てたように語りかけて来る。

(俺が可愛がってるドラゴン...可愛いだろ?)

(かわ....)

そのドラゴンは子供なんだろうけど...1、5mはある...。


フェルナンドと付き人は、まだ完全に動揺中。

「ハリス様...大丈夫ですか...?」


すると子供ドラゴンは火をふうーっと吹いた!!!


「あ!!こら」

レヴィンがそう注意したのも遅く木が燃えていく。


「あちゃー」

(あちゃーじゃないよー消さないと!!)


呑気なレヴィンに大騒ぎになるフェルナンドと付き人プラスハリス。



レヴィン「こら!ダメだろ!!すぐ火を消すんだ!!」

ドラゴンはきゅうっと可愛い声をあげ今度は氷の息を吐いた。


びゅおおおー〜〜!!!


火のついた付近はカチコチに凍ってしまった。


「さささ寒い!!!」

「フェルナンド様あー私の上着を」

「大丈夫だ...お前が着ていろ」


レヴィン「よくやったなー!?偉いぞー」

当のレヴィンは子供ドラゴンを褒めて頭を撫でていた。


「こらあ!?依頼主が寒がってるじゃないかあ!?」

たまらず出てきてしまったハリス。


「あ...」レヴィンとドラゴンは同じ様に目をぱちくりさせていた。


付き人は丁寧にフェルナンドの肩に上着を掛ける。


フェルナンド「あなたは...?」

ハリス「あ…ええっと…この暗黒騎士様だけでは、ものすごく不安でしたので…サポート係を務めさせていただきます…」


レヴィンは思わず一歩踏み出し、声を張る。

「おい!? それ今ここで言う!? ひでえじゃんそれえ!!そんな正直に言っちゃっていいのかよお!?」


ぷ...っっとフェルナンドは吹き出した。こらえきれなかった、というように。


「え...?」

「申し訳ない...噂の暗黒騎士様とはかなりイメージが違ったもので...」


「は、はは…なんか暗黒騎士なんて呼ばれちゃって、参っちゃいますよー!?」

レヴィンは少し照れくさそうに肩をすくめた。


「本当だよ…」

ハリスも小さく笑いを漏らす。


「はは…」

フェルナンドも思わず口元を緩めた。


さっきまでの張り詰めた空気が、ふっと解けた瞬間だった。



子供ドラゴンはレヴィンの背中にぺたりと張り付き、尻尾まで絡めて離れようとしない。


「だからー今度また行くからさー」

駄々をこねる子供のようにいやいやする。


付き人「随分懐かれてますねえ...」


ハリス「なんか親ドラゴン死んじゃったみたいだよ」

ハリスがそう付け加える。


「そうなのかあ…」

一瞬だけ視線を伏せてから、レヴィンは苦笑する。

「……しょうがねえなあ。今だけだからな?」


きゅうきゅう、と喉を鳴らすように小さく火を吹き、ドラゴンは背中でくるんと丸まった。



霧の奥から、背丈を軽く越す巨大な蛇がにゅるりと姿を現す。

黒紫の鱗が薄暗い光を反射し、口元からは毒の霧がゆらりと漂った。


「......っっっっぎゃあああああああーっ!!」

誰よりも大きな悲鳴を上げたのは、まさかのレヴィン。


「ちょ…レン!?」ハリスがびっくりし、フェルナンドと付き人も後ずさる。




子供ドラゴンは目をキッと吊り上げた!!

背中から小さく「ふうーっ!!」と火を吹き、大蛇に直撃させる!!

巨大蛇は半身を焦がされ、思わず「シャアアッ!」と悲鳴を上げ、森の奥へと姿を消した。


「……はぁ、はぁ……」

レヴィンは剣を握り締めながら、胸を大きく上下させて息を整える。


「た...助かった...」


「あの…暗黒騎士様…」

フェルナンドが恐る恐る口を開く。付き人も肩を震わせており、腰をついてへたり込むレンを見下ろす3人に、冷や汗が流れる。


レヴィンは「アハハハ!?」と、なんとか場を誤魔化そうと笑ってみせた。

だがハリスがキッと鋭い目で睨みつける。


「……ごめん…」

レヴィンは小さく、しゅんと頭を下げる。



レヴィンは大きく深呼吸し、冷たい視線を背中に浴びながら先頭を歩く。


子供ドラゴンを手で撫でてやると、どこか誇らしげな表情を浮かべている。


その様子を眺めるフェルナンドと付き人の頭には、ふと疑念がよぎった。

(もしかして…この“暗黒騎士”と呼ばれている男、弱いのでは…?)


付き人は小さく肩をすくめ、フェルナンドも眉を寄せる。


ハリス(小声で)

「しっかりしてよ…!? 弱いのかって思われてるよ」


レヴィン

「ご、ご心配なく…蛇が苦手だっただけです…」


一瞬の沈黙....


ハリス(正直すぎる!! もおー、誤魔化すの下手なんだから!!)



その後、一行は無言のまま歩き出した。


背中の子供ドラゴンは機嫌よく喉を鳴らしているが、

その様子を横目に見るフェルナンドと付き人の表情は、どこか硬い。


(……本当に、この人で大丈夫なのだろうか)


誰も口には出さない。

だが同じ疑念が、静かに共有されていた。


レヴィンはその空気に気づきつつも、何も言わず前を歩く。

少しだけ、歩幅が早くなった。


気まずさを抱えたまま、一行は禁断区域の森を進んでいった。






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