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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
迫る悪意

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姉としての自覚

 あの事件から一ヵ月と少しが経った頃、遂にグランベルク王国に本格的な寒冷期、冬がやってきた。

 凍てつく寒さに氷柱つららが屋根の端から垂れ下がり、本日のように雪が降った翌日などは街が雪化粧をして真っ白に染まっている。


 そんな寒さの中、クエストを終えたシエラ達のパーティ、アステールの4人はギルドの前で別れ、それぞれ帰路に着いた。

 リグスとナースリーは商業区方面の自宅へ、シエラとマリネスは反対側の住宅街方面の自宅へと向かって歩き出す。


「今日は一段と寒いねえ」


「ん。今日は寒い」


 足の裏、というよりは足と地面の間に魔力を集め、滑らないように歩く2人。

 普段着に軽装を好むシエラも流石の寒さに長袖シャツにジャケット、ニーハイソックスにいつもの短パンと厚着である。これでもシエラにとっては厚着なのである。


 マリネスも普段クエスト用に装備するローブの下はいつもより厚着で、若干着膨れしている。


 そんな2人が今日のクエストの話を振り返ったり、晩御飯の予想をしていると、何かを思い出したようにマリネスが「あっ」と口元を抑えて声を上げた。


「どうしたの?」


「今日は実家に顔を出すって言ってて忘れちゃってた」


「そういえば出掛けにパパに言ってたね。どうするの? 今日は止めとく?」


「ううん。お父様とお母様が心配するかもだから、今日は実家に帰るよ」


「そっか。分かった」


 街の北に広がる貴族街への交差点で手を振りマリネスと別れ、シエラはすっかり白く染まった石畳の道を白い息を吐きながら歩いていく。

 完全に雪で道が覆われていないのは朝早く雪掻きをしてくれた住人達や、クエストで雪掻きをした冒険者達のおかげだ。

 かく言うシエラ達も今日は雪掻きをして本日のクエストは終了とした。


 それ故にまだ日は高く、その日の光が真っ白な雪に反射してキラキラ光り、宝石のように輝いている。

 

 リチャードに拾われる以前、捨て子として路地裏やスラムで暮らしていた頃のシエラにとって寒冷期は最悪な季節だった。

 しかし、今はそんな寒冷期の季節ですらがシエラには輝いて見えている。

 

 それもこれもリチャードに拾われてから全てが変わったからに他ならない。


 家に帰れば大好きな父親と母親、そして妹が待ってくれている。

 それがどんなに幸せな事か。

 浮き足立ち、走って帰りたい気持ちを抑え、滑って転ばないように魔力を足元に巡らせ、シエラはしばらく街の景色を楽しみながら帰宅した。


 玄関の扉を開き「ただいまー」と言える事が嬉しくてニヤけそうになりながら、シエラが服に着いた雪を落としていると、リビングの扉が開く音が聞こえ、リチャードが玄関に姿を現した。


「お帰り。シエラ、ちょっとこっちおいで」


「何? 何かあったの?」


 シエラは玄関に護身用として装備していた魔銃剣を納めたベルトを外してポールハンガーに引っ掛けると、何故か嬉しそうな父親に続き、リビングへと向かう。

 

 リビングに入ると、暖炉の前の絨毯の上で座る母アイリスとその母に抱っこされているセレネ、セレネを覗き込むよう見ているロジナがいた。


 リチャードに続き、暖炉の前に近付くシエラにアイリスは「お帰りなさい」と振り向いて言うと、シエラに手招きする。

 

「なになに?」


 と、手招きされたシエラは早足でアイリスの元へ行くとロジナの横に腰を下ろして女の子座りをした。


「セレネを見ててね?」


「セレネを?」


 言われた通り、可愛い妹の顔を覗き込むシエラ、そこにリチャードも加わって家族で暖炉の前に集まる。

 するとシエラやアイリス、リチャードの顔を見たセレネが笑顔を浮かべ「あ〜あ〜」と言ったり「う〜あ〜」と言葉ではないが、泣き声以外の声を確かに出した。


「おー。セレネが喋った」


「そうなんだよ、今日は機嫌が良いのか良く声を出してね。パパって言ってるように聞こえるだろ?」


 シエラの言葉に、リチャードが嬉しいやら自慢したいやらで頬を緩めてセレネの頬を人差し指の背で撫でながら言う。

 セレネが生まれて約二ヶ月、もちろん新生児のセレネが喋っている訳ではない。

 クーイングといって、口腔こうくう内が発達したことで出るようになる柔らかい母音の発声が行われているだけだ。


「言ってなくない?」


「そうよお姉ちゃん、パパに言ってやって。セレネはまだ喋ってるわけじゃないよって」


 母、アイリスに"お姉ちゃん"と言われ、シエラはセレネに視線を落とし自分は、いや、自分がセレネの姉なのだと改めて実感していく。

 シエラの顔を見て何を思うか、セレネは機嫌良さそうに笑うと再び「あ〜あ〜」と声を発した。


「言ってると思うんだがなあ、パパって」

 

 ふとこの時、シエラはある事を思い付いた。

 思い付いたというよりは、そうしたいと思ったと言うべきか。

 なんにせよ。お姉ちゃんとしての自覚が芽生えてきたのかシエラはリチャードに「案外パパって言ってるのかもね。お父さん」と微笑んで見せた。


「お、どうした急に。パパで良いんだぞ?」


「ううん。その呼び方はセレネにあげるの。だって私は、お姉ちゃんだから」


 シエラの言葉に目頭が熱くなり、リチャードは指先でその目頭を抑え込む。

 そんなリチャードを見て、アイリスが笑った。


「ふふふ。お父さんは泣き虫さんねえ」


「いや、ホントに涙脆くなってしまったものだよ。ああ全く、すまない、ちょっと顔洗ってくる」


 外は寒い寒冷期。

 しかしながらエドラの街の一角に建つシュタイナー家の家はポカポカと暖かい空気に包まれていた。

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