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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
幕間➖魔界にて➖

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魔王と魔王

 リチャードやシエラの暮らすエドラの街が存在するグランベルク王国が本格的な寒冷期を迎えた頃。

 グランベルク王国が存在する北西大陸から遥か南に位置する南西大陸、魔族が多く暮らす通称"魔界"では一つの戦いが終わろうとしていた。


「女王陛下! ここまでです。直ぐそこまで奴が」

 

「近衛もやられたか。デズモンド、おぬしは逃げよ。私と共に散る事は無い」


「アンジェリカ様を置いて逃げるなど、死んでも御免です」


「まったく、貴様という奴は」


 魔界の中央に位置する都市、王都ベルフェアル。

 その王都ベルフェアルは今、火の海に呑み込まれようとしていた。


 王都ベルフェアルの中央。

 魔王アンジェリカの居城の玉座の間にて。

 長い腰までの金髪、ルビーのような紅い目、キメの細かい白い肌の二十代半ば程に見える女性、アンジェリカは玉座に深く腰掛けたまま肩をすくめ、側近の口髭を蓄えた白髪で細身の男性、デズモンドに苦笑いを向ける。


 人類との共存共栄を謳う魔界で最大の国であるベルフェアルは、魔界という大陸の通称とは裏腹に、花は咲き乱れ、清い水が流れ、北西大陸とは植生や大陸に暮らす生物の生態こそ違うが豊かな国だった。

 

 それは何もベルフェアル周辺だけに留まらず、何世代も掛けて改良された魔界は昔とは違い、暮らしやすい土地になっている。


 そんな魔界の中央に位置するベルフェアルは永らく魔界の方針を取り仕切っていた魔界最大の国だが、そんなベルフェアルに反旗を翻した者がいた。

 

 魔界の片隅に国を持つ年若い魔族の青年、レヴェリー・マルディシオン。

 魔界に複数存在する魔王の1人で人類排他主義思想を持つ魔族だ。


「お久しぶりにお目に掛かる。アンジェリカ女王陛下。まったく大した戦力でしたよ。人類との共存共栄、平和主義を謳う腑抜けの軍にしてはね」


「マルディシオンの小童。随分と派手にやってくれたな。答えよ、何故また血を欲する?」


 玉座から立ち上がり、アンジェリカが赤いドレスを翻し、黒い穴を手元に出現させると、黒い穴から先祖代々引き継ぐ魔剣を取り出し、構えもしないでデズモンドと共にレヴェリーに歩み寄っていく。

 

 その様子に前髪は長いが、白髪で、短めのストレートヘアのレヴェリーは大凡(おおよそ)戦闘が得意で無さそうな細い手でアンジェリカと同じく黒い穴から剣を取り出すと、黒いコートを翻し、アンジェリカへと近付いていった。


「良い加減目を覚ませよ女王様。いつまで人間と仲良しこよしのお友達ごっこをしてるつもりだ? アイツらは劣等種の分際で我々上位種と同等だと思ってる。正直気に食わないんだよ、短い寿命しか持たないくせに一端に増えるだけ増えて、虫かウイルスと同じなんだよアイツらは」


「何が上位種なものか、我々の祖先は結局一度も人類に勝利できなかったではないか。いつの時代も魔族は人類に敗れるのだぞ。いい加減賢くなれと言ってきた筈だがな、小僧」


 アンジェリカが魔剣をレヴェリーの鼻先に突き付けながら言う。

 その背後でデズモンドも剣を構えるのが気配からアンジェリカにも感じられた。


「ここまで常勝無敗だったそうだが、驕ったな。護衛の一人も付けずにわざわざ私の眼前に現れるなどと。レヴェリー。貴様をここで討ち取り、この内輪揉め、終わりにするぞ」


「出来るものならやってみるが良いアンジェリカ。私がなんの策も無く、わざわざ貴様の前に現れると本当に思っているならな」


「ほざけよ小童」


 アンジェリカが剣を引いて突きを放つ。

 そして、アンジェリカの居城の玉座の間に鮮血が花弁の様に舞った。


「な、なぜだ」


 その鮮血はアンジェリカの胸から噴き出していた。


「裏切るのか、デズモンド」


 レヴェリーは抜いた剣を構えてすらいない。

 アンジェリカを刺したのは、後ろで剣を構えていたアンジェリカの側近であるデズモンドだった。


「申し訳ありませんな女王陛下。私も劣等種とのお友達ごっこには飽き飽きしてましてな。レヴェリー様の創る新生魔王軍にてお世話になろうかと思いまして」


「き、貴様。獅子身中の虫め」


 傷が深い、というよりは毒か何かか、刺し傷から腐食したかのようにどんどん傷口が広がってアンジェリカの胸に穴が広がっていく。

 止まらない血、治らない激痛にアンジェリカは膝を突いた。

 そのアンジェリカの鼻先に、前に回り込んだデズモンドが剣を突き付ける。


「レヴェリー様。新生魔王軍ではこのデズモンド誠心誠意お仕え致します」


「良くやった。褒美は、今やろう」


「と、申しますと?」


 レヴェリーの言葉に振り返ろうとしたデズモンドの首が飛んだ。

 まさに首と胴が泣き別れ。

 アンジェリカの目の前で膝から崩れた死体の首があった部分から血が噴き出す。

 

「主を裏切るような輩はまた裏切る。要らんよ。私の軍に下賤な輩は。さて、残るはお前だけだアンジェリカ。あの世で私が世界を制するさまを指を咥えて見ているが良い」


 白い肌に浴びた返り血が涙のように付着したアンジェリカの顔色が徐々に悪くなっていく。

 放っておいても死ぬだろうが、レヴェリーは剣を逆手に構え、アンジェリカに突き立てる為に腕を振り上げた。


(ここまでか)


 アンジェリカが自らの命を諦め、目を閉じようとしたその時だった。


 鯨の鳴き声のような音が玉座の間、崩れ行くベルフェアルの魔王城、城下町に響き渡ったかと思うとアンジェリカの身体を光の柱が包み込み、アンジェリカの身体を光の粒子へと変換。

 わけもわからないまま、アンジェリカは気を失った。


「予定通りか。随分とのんびりしていたな。まあ良い、さてここからだ」


 無造作に剣を振り、レヴェリーは玉座の間を剣圧で吹き飛ばし、アンジェリカの城に大穴を開ける。

 そんなレヴェリーの頭上に広がる青空にはいつかリチャードとシエラが神隠しに遭った時に見られた彩雲が漂っていた。

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