第13章
ユージンとアンジェラの間では、とても激しい喧嘩が続いていた。アンジェラはそうでない時を見計らって、この上なく巧妙な手段で、彼の昔の愛情とまではいかなくても、彼の正義感と公平な対応に訴えようとしていた。古い計算手法が完全に通用しなくなり、それを失ったことで、実は取るべき常套手段がなくなっていた。ユージンは明らかにこれまでずっとアンジェラの怒りを恐れていたが、今ではそれを全然気にしなかった。既婚者ならよくおわかりの、あの魅力的な甘い言葉に彼は昔ある程度従っていたが、それは灰も同然だった。アンジェラの魅力はユージンには全然通じなかった。生まれてくる子供を考えればユージンは動くと期待したが、そんなことはなく、どうやら無駄だった。彼から去らないので彼女には今やスザンヌが怪物に見え、ユージンに至ってはほとんど手のつけられない狂人に見えた。それでも彼女は、このすべてがどれほど人間的で自然であるかを理解できた。ユージンは催眠術にかかって何かに取りつかれていた。スザンヌ、スザンヌとひとつのことしか考えなくなって、そのためならいつでもアンジェラと戦うつもりだった。彼が彼女にそう言ったのだ。アンジェラがスザンヌに宛てた手紙のことと、それを読んで破棄したことまで話した。手紙は彼女の主張をまったく後押してくれなかった。アンジェラは自分がユージンを公然と非難してしまったことを思い知った。ユージンはスザンヌの決断を待ちながら自分の立場を崩さなかった。スザンヌには頻繁に会って、自分が完全に勝利したことと、二人の願いがかなうのは今や彼女次第であることを告げた。
すでに述べたように、スザンヌに情熱がないわけではなかった。ユージンとの付き合いが長くなればなるほど、彼女は彼の言葉や表情や感情が示すあの楽しい充足をますます熱望するようになった。冷酷この上ない無鉄砲な行為でしか実現できない幻想を、彼女は愚かな少女じみたやり方で作り上げていた。これはそう簡単に、そう手っ取り早く、解決できる問題ではなかったから、母親に話して議論や反抗で打ち勝つという彼女の意見は、実は空論だった。この最初の会話で母親が彼女に懇願したせいで、スザンヌはてっきり自分が勝ったと思った。母親は彼女の言いなりで、議論で彼女を打ち負かすことができなかった。後者を理由に、スザンヌは自分の勝利を確信した。そのうえ、母親のユージンに寄せる信頼と娘に向ける深い愛情をかなり当てにしていた。これまで母親はスザンヌの頼みを断ったことがなかった。
ユージンがこの時点ですぐにスザンヌを手に入れなかったのは……結婚抜きで企てられた二人の結びつきから必然的に生じる問題の解決をぎりぎりまで先延ばしにしたのは……ユージンが見かけほど無鉄砲でも勇敢でもないからだった。彼は彼女のことが欲しかったが、スザンヌ自身を少し恐れていた。彼女は疑いを抱いて、先に延ばしたがり、物事を自分のやり方で計画したがった。ユージンはこれまで本当は冷酷ではなく、気さくで、のんきだった。決してずる賢い策士や立案家ではなく、むしろのんきな性格の人であり、状況のあらゆる潮流と順風や逆風に翻弄されてあちこちを漂った。彼はこの地球上の特定の何かを、お金や名声や愛情を熱望すれば、冷酷になったかもしれないが、心の底では自分が思うほど本当は大して気にかけていなかった。もしそれを手に入れなくてはならなかったら、どんなものでも戦う価値はあったが、それがなくてもやっていけるのであれば、最後まで戦う価値はなかった。それどころか、もしそうせざるをえなかったら、それなしてやれないことは本当は何もなかった。ものすごく欲しくても、彼は乗り越えることができた。これまでの人生では、他の何よりもこの欲望にのめり込んだが、進んで非情や貪欲になることはなかった。
一方、スザンヌは、連れ去られる気はあったが、迫られるか強いられる必要があった。彼女は時間をかけて自分なりに調整したいと漠然とは思ったが、ユージンが先延ばししていたために、ただ夢を見て、先延ばしにしていた。もしユージンがすぐに強引に出ていたら、スザンヌは幸せだっただろうが、残念ながら彼には、行動が先で考えが後になるあの無鉄砲な行動力が欠けていた。彼はハムレットのようにじっくり考えるのが大好きで、あまり無茶でない方法を探そうと心配しすぎて、そうこうしているうちに、これまでに獲得していた物質的利益のすべてを進んで放棄してでも欲しかったあの理想の至福を危険にさらしていた。
数日のうちにデイル夫人がさり気なく、秋から冬にかけてニューヨークを離れて、夫人とスザンヌとキンロイとで、まずはイギリス、次に南フランス、それからエジプトに行こうと提案し始めたとき、スザンヌはすぐに、これは何かのもくろみか、さもなければどうせ自分の幸せをぶち壊そうとする運命のとても意地の悪い計画だと察知した。彼女は、母親が自分とスザンヌのためにニューヨークの外で約束することが珍しくない遠距離で長期間の予定をどうすれば一時的に回避できるかを考えはしたが、系統立てて策定したわけではなかった。デイル夫人はとても人気があって非常に好かれていた。かなり自信を持って、まるでちょうどおあつらえ向きであるかのように、母親に出されたこの気楽な提案は、スザンヌを脅かして、それから苛立たせた。どうして彼女の母親はちょうどこの時期にこんなことを思いつかなければならないのだろう?
「私はヨーロッパなんか行きたくないわ」スザンヌは警戒して言った。「たった三年前に行ったばかりでしょ。この冬はこっちにいて、ニューヨークの様子を見ていたいわ」
「でも、この旅行はとても楽しいものになるわよ、スザンヌ」母親は食い下がった。「キャメロンさんのご家族が秋の間スコットランドのカレンダーにいるそうよ。あちらに別荘を構えたんですって。火曜日にルイーズから手紙をもらったのよ。向こうに行って、みなさんにお会いして、それからワイト島に行くのがいいと思ったのよ」
「私は気が進まないわ、お母さん」スザンヌはきっぱりと答えた。「私たちはここで快適に暮らしているのに、どうしてお母さんはいつもどこかに逃げ出したくなるのかしら?」
「まあ、逃げ出すわけじゃないわ……どうしてそんな言い方をするの、スザンヌ! 以前ならどこへ出かけるにしても、あなたがそんなに反対するのを聞いたことがなかったのにね。エジプトやリビエラはあなたの関心をかき立てると思うわ。どちらにも行ったことがないでしょ」
「どちらも名所なのは知ってるわ。でもこの秋に行きたくはないわね。むしろここにいたいわ。どうして急に一年も出かけようって決めたの?」
「急に決めたわけじゃないわ」母親は言い張った。「しばらく考えていたことよ、あなたも知ってるでしょ。近いうちにヨーロッパでひと冬過ごそうって、お母さん言ってなかったかしら? 前回この話をしたとき、あなたは大乗り気だったでしょ」
「ええ、知ってるわ、お母さん、でもそれは一年近く前のことよ。今は行きたくないわ。むしろここにいたいのよ」
「どうしてかしら? あなたのお友だちだってみんなここにいないで出かけちゃうでしょ。この冬はとりわけ大勢のお友だちが出かけると思うわ」
「あはははは!」スザンヌは笑った。「とりわけ大勢ですって。自分が何かをしたいときって、どれだけ大げさなのかしら、お母さんは。いつも私を楽しませてくれるわ。今がとりわけ大勢なのは、お母さんが行きたいからでしょ」スザンヌはまた笑った。
スザンヌの反抗は母親を苛立たせた。どうして急にここに留まりたいと言い出したのだろう? これは彼女が一緒にいる女の子グループのせいに違いないが、スザンヌには親しい女友だちがあまりいないようだった。アルマーディング家は冬中ずっと町にいるつもりはなかった。別荘で火事があったから今はここにいるが、これはほんのいっときだけのことだろう。テネック家もそうだった。スザンヌが誰か男性に関心をもっているということはありえなかった。彼女がとても気にかけていた唯一の人物はユージン・ウィトラだった。彼は既婚者であり、兄弟のような、保護者のような形でしかつき合いがなかった。
「さあ、スザンヌ」デイル夫人はきっぱりと言った。「くだらない話はその辺にしておきなさい。始まってしまえば、この旅行はあなたにとって楽しいものになるんだから。行きたくないなどと馬鹿なこと言って邪魔しても無駄ですよ。あなたは旅行をするのにちょうどいい時期にいるわ。さあ、私たちは出かけるんだから、あなたも自分の準備を始めた方がいいわ」
「いやよ、私は行かないわ、お母さん」スザンヌは言った。「まるで私がとても小さな女の子であるかのように話をするわね。私はこの秋に行きたくないし、行くこともないわ。行きたければ、お母さんが行けばいいでしょ。でも私は行きません」
「まあ、スザンヌ・デイル!」母親は叫んだ。「あなたったら一体どうしちゃったの? もちろん、あなたも行くんです。もしお母さんが行ってしまったら、あなたはどこにいるつもり? お母さんがあなたを置いて出歩くと思うの? これまでにそんなことがあったかしら?」
「私が寄宿学校にいたときは、そうだったでしょ」スザンヌが口を挟んだ。
「それは別の問題よ。あのときはあなたにちゃんとした監督がついてましたからね。ヒル夫人が私に代わって責任を持ってあなたの面倒を見てくれたわ。ここではあなたひとりになるのよ。私がどうすると思うの?」
「ほらまた始まった、お母さん。まるで私が小さな女の子であるかのように話してるわ。私はもうすぐ十九歳なんだってことを覚えておいてくれないかしら? 自分の面倒の見方くらいわかってるわよ。それどころか、その気になれば、一緒にいてもいい人はたくさんいるわ」
「スザンヌ・デイル、まるで取りつかれた人のように話すわね。こんな話に耳を貸すつもりはありません。あなたは私の娘なのよ。従って私の保護下にあります。いったい何を考えているの? どんな本を読んでいたの? このすべての根底には何か馬鹿げたものがあるわね。私はあなたを置いて出かけるつもりはありません。あなたは私と一緒に行くんです。私は長年尽くしてきたんだから、あなたが私の気持ちを汲んでくれると考えてもいいでしょ。どうすればそんなところに突っ立って、こんなふうにこの私と議論ができるのよ?」
「議論しているの、お母さん?」スザンヌは高飛車に尋ねた。「私は議論なんかしてないわ。私はただ行かないってだけのことよ。行きたくない理由がいろいろあるから、私は行かない、それだけのことよ! お母さんが行きたいのなら、行けばいいでしょ」
デイル夫人はスザンヌの目をのぞき込み、初めてそこに本物の反抗の光を確認した。何がこれをもたらしたのだろう? どうして娘はこんなに頑固に……突然、こんなに強情で頑なになったのだろう? 恐怖と怒りと驚きが彼女の感情の中で等しく混ざり合った。
「あなたの言ういろいろな理由って何なの?」母親は問いただした。「あなたにどんないろいろな理由があるっていうの?」
「とってもいい理由が一つあるのよ」スザンヌは理由を一つに集約して静かに言った。
「じゃあ、それは何なのよ、お願いだから言ってごらん?」
スザンヌは素早く考えたが、頭の中はまだ少し漠然としていた。彼女は、哲学的な議論がもっと長引いて、母親が道徳や知性を振りかざしたくなる立場に陥ることを期待していた。そうすれば母親はそこから引くに引けなくなって、それがもとで彼女が欲しがる許可を出さなければならなくなるだろう。彼女はこれとその前の会話のいろいろな発言から、母親の頭の中は、娘を自分の哲学的な演算に組み入れるときに従う理論がまったく整っていないことに気がついた。彼女は世の中のありとあらゆる理論や結論に賛同するかもしれないが、それをスザンヌに適用することはなかった。したがって残された道は、逆らうか逃げ出すかだったが、スザンヌは逃げ出したくなかった。彼女は大人だった。自分のことは自分でできた。お金を持っていた。彼女の精神的なものの見方は母親と同じくらい善良で正常だった。現に、スザンヌの最近の経験や感じ方に照らしても、母親の態度は弱くて取るに足らないものに見えた。母親は人生について彼女以上に何を知っているのだろう? 二人ともこの世界にいた。そしてスザンヌは二人のうちでは自分の方が、強い……正しい、と感じた。今、話して反抗したらどうだろう。自分が勝つ。勝つに違いない。自分なら母親を支配できるかもしれない。今が実行する時だった。
「愛する人のそばにいたいからよ」ようやくスザンヌは静かに打ち明けた。
話に合わせて動かすのにちょうどいい体の前の位置にあげられていたデイル夫人の手が、無意識のうちにだらんと横にたれた。口がほんの少し開いた。驚きと苦悩とやや間の抜けた様子で彼女はじっと見つめた。
「愛する人ですって、スザンヌ?」デイル夫人は尋ねた。停泊地から完全に流されて、果てしない海で行き場を失った心境だった。「相手は誰なの?」
「ウィトラさんよ、お母さん……ユージンよ。私は彼を愛してるの。そして彼も私を愛してるわ。じろじろ見ないでよ、お母さん。ウィトラ夫人だって知ってるわ。私たちが一緒になることを認めているのよ。私たちは愛し合ってるの。私は彼のそばにいられるここにいるつもりよ。彼が私を必要としているんですもの」
「ユージン・ウィトラですって!」母親は叫んだ。息ができなくなり、目が恐怖でゆがみ、緊張した両手は恐怖で冷たくなった。「ユージン・ウィトラを愛してるですって? 結婚してる人なのよ! 彼があなたを愛してる! 私に話しかけているのはあなたなの? ユージン・ウィトラ! あなたが彼を愛してる! こんなこと信じられないわ。私が正気じゃないんだわ。スザンヌ・デイル、そんなところに突っ立ってる場合じゃないわ! そんなふうに私を見るのはおよし! あなたはこの私に、自分の母親に向かって言っているのかい? 違うとおっしゃい! 私を狂わせる前に違うと言っておくれ! ああ、神さま、何が私に起こっているの? 私は何をしてしまったの? よりによってユージン・ウィトラとは! ああ、神さま、ああ、神さま、ああ、神さま!」
「どうしてそんなに取り乱すのよ、お母さん?」スザンヌは冷静に尋ねた。彼女はこういう場面を予想していた……これほど激しくも、ヒステリックでもなかったが、似たようなものを。そして一応それに備えていた。自分本位の愛は、彼女の原動力、支配的衝動だった……それは自分を静める愛でもあった。そして、全世界とそのルールを何もないかのように脇に押しのけた。スザンヌは自分のしていることを本当はわかっていなかった。自分の恋人を完璧と感じることと、二人の愛の美しさに酔いしれていた。スザンヌの心に存在するのは、現実的な事実ではなく、夏の美しさや、涼しい風の感触、空や太陽の光や月の光のすばらしさだった。彼女を抱きしめるユージンの腕や、彼女の唇に触れる彼の唇は、身近な全世界よりも重要だった。「私は彼を愛してるわ。本当に愛してるのよ。これの何がそんなにおかしいのよ?」
「何がおかしいかですって? あなた、気は確かなの? ああ、私のかわいそうな大切な小さな娘が! 私のスザンヌが! ああ、あの悪党め! あのろくでなしめ! 私の家に入り込んで、あなたに、私の大切な子供に愛を囁くなんて! どうすればあなたはわかってくれるのかしら? どうすれば私はあなたが理解してくれると思えるのかしら? ああ、スザンヌ! どうか、お願いだから、黙んなさい! 二度とこれを口にしないで! 二度とこんな恐ろしいことをこの私に言わないでちょうだい! ああ、困ったわ! まったく! 本当に困ったことになった! こんな目に遭うために生きるだなんて! 私の子供が! 私のスザンヌが! 私のいとしい、美しいスザンヌが! これをとめられなければ、私は死ぬわ! 死ぬ! 死んでやるわ!」
スザンヌは、自分が母親を放り込んでしまったこの激しい感情にすっかり驚いて、相手を見つめた。かわいい目がぱっちりと開き、眉が上がって、唇が愛くるしく開いた。彼女は強烈な古典的美人の絵のようだった。彫りが深く、穏やかで、落ち着きがあった。額は大理石のように滑らかで、唇は喜び以外の感情を知らないかのように弧を描いた。表情はからかうような、少し面白がったところがあるが、傲慢な特徴はなく、これが彼女をこれまでにないほど印象的にした。
「ねえ、お母さん! お母さんは私を子供だと思ってるんでしょ? 私がお母さんに言ったことはすべて本当よ。私はユージンを愛してます。彼も私を愛してます。静かに準備ができ次第、私は彼と一緒に暮らします。こそこそやりたくないから言っておくけど、そうするつもりだから。私を赤ん坊扱いしないでほしいわ、お母さん。私は自分が何をしているのかわかっています。私はこのすべてをずっと考えてきたんですから」
「すべてをずっと考えてきたですって!」デイル夫人は考え込んだ。「準備ができたら一緒に暮らすですって! 結婚式も挙げないで男性と一緒に暮らそうって言っているのかい? しかもすでに結婚している男性と! この子は完全に狂ってるのかしら? 何かでおつむが変になったのね。きっと何かのせいよ。これは私のスザンヌじゃない……私の大切な、いとしい、人を魅了するスザンヌじゃない」
デイル夫人はスザンヌに向かって声を荒らげた。
「あなたはこんなのと、まあ、あえて名前は言わないけど、こんなのと一緒に暮らすって言うの。この問題を解決しないなら、私は死ぬわ。結婚式も挙げずに、しかも相手は離婚していないのに暮らすのかい? 私は自分の目が覚めていることが信じられないわ。信じられない! 信じられないわ!」
「もちろん、私は覚めてるわ」スザンヌは答えた。「これは私たちの間ですべて話がついてるの。ウィトラ夫人だって知ってるわ。同意したのよ。もし私にここにいてほしいのなら、お母さんも同意してほしいわ」
「同意しろですって! 神さまお尋ねします! 私は生きているでしょうか? これは私の娘が私に話しかけているのでしょうか? 私はここ、この部屋で、あなたと一緒におりますでしょうか? 私は」デイル夫人は口を大きく開けたまま話すのをやめた。「こんな痛ましい悲劇でなかったら笑ってしまうわね。笑うわよ! 笑いがとまらなくなるわ! 今、私の頭は車輪のように回っているわ。スザンヌ・デイル、あなたはまともじゃない。あなたは狂ったように、馬鹿みたいに、まともじゃない。もし黙って、この恐ろしい無駄話をやめないなら、あなたを閉じ込めるわ。あなたが正気かどうか検査をしましょう。これは、これまで母親に提案されたものの中でも、最も無謀で、最も恐ろしくて、最も想像できないものだわ。あなたをこの腕に抱き、この乳で育て、十八年も一緒に暮らしたのに、その挙句があなたをここに立たせて、妻として今も暮らしている善良で誠実な女性がいる男性のもとへ行って正式に承認されない生活を一緒に送る、と言わせることになるなんて。こんなに驚く話は聞いたことがないわ。こんなの信じられない。あなたはそんなことしません。飛ぶことができないのと同じで、やれることじゃありません。私があいつを殺してやる! あなたもろとも殺してやる! そんなところに立ってよくこの私にこんなことが言えたものだ、と思うくらいなら、あなたがこの瞬間にこの足元で死ぬのを見た方がましよ。こんなことがあってたまるもんですか! あってはならないわ! まずはあなたに毒を飲ませるわ。私はどんなことだってやるわ、何だってやるわ。でもあなたがこの男に会うことは二度とありません。もしあいつがこの家の敷居をまたぐことがあれば、その瞬間に殺してやるわ。私はあなたを愛してるのよ。私はあなたをすばらしい娘だと思ってるけど、こんなことは絶対にごめんだわ。それとね、私を説き伏せようとするのはおやめなさい。言っておくけど、この手で殺してあげるわ。あなたが死ぬのを千回見る方がましだもの。考えなさい! 考えるの! 考えるんです! ああ、あのけだものめ! あの悪党め! あの良心の欠片もない野良犬め! 私があれだけ礼節を重んじてあいつに接したのに、あいつときたら私の家に入り込んで、私にこんなことをするなんて。待って! あいつは地位もあれば名誉もあるわね。私があいつをニューヨークから追い出してやる。破滅させてやる。まともな人たちに顔向けできないようにしてやる。今に見てらっしゃい!」
デイル夫人の顔は真っ青で、両手は握りしめられ、歯は食いしばられていた。メスの虎が牙をむいた時のような鋭い野生の美しさがあった。目つきが険しく、残忍で、ぎらぎらしていた。母親がこれほど怒りを爆発させることができるとスザンヌは想像したことがなかった。
「ねえ、お母さん」スザンヌは冷静に、まったく動じることなく言った。「まるでお母さんが私の人生を完全に支配しているかのような口ぶりね。お母さんは、私が自分で選択したことをやる勇気がないって私に思わせたいんでしょうけど、私はやるわよ、お母さん。私の人生は私のものであって、お母さんのものじゃない。私を怖がらせることはできないわ。この問題で私が何をするかは決定済みなの。私はそれを実行します。お母さんに私をとめることはできません。やるだけ無駄よ。今しなくてもいずれしますから。私はユージンを愛してるの。彼と一緒に暮らすつもりよ。お母さんが許さないなら、私は出て行きます。でも彼とは一緒に暮らすつもりよ。私を脅そうとするのはもうやめた方がいいわ、お母さんにはできないんだから」
「脅す! 脅すですって! スザンヌ・デイル、あなたは自分が何を言っているのか、私が何をしようとしているのか、これっぽっちも、ちっとも、わかってないわ。もしこれがほんのわずか……あなたの目論見がほんの少しでも広まったら、あなたは社会から追放されるのよ。この世の中に一人の友人も残らなくなるってことを、今あなたの知る親交があるすべての人たちが、あなたを避けるために通りを渡って向こうに行ってしまうってことを、あなたはわかってないの? 独立した財産がなかったら、普通の店に就職さえできないのよ。それでもあいつと暮らすっていうの? まずあなたが死ぬことになるわ、ここで私の手にかかって、この私の腕の中でね。あなたを愛しているからこそ、あなたを殺さないわけにはいかないわ。いっそあなたと一緒に死ぬ方が千倍ましだもの。もうあなたがあの男に会うことはありません。二度とありません。もしあの男がここにのこのこ顔を出しに来れば、私がこの手で殺してやるから。伝えたわ。私は本気よ。もしあなたが決行すれば、私に行動をとらせるのはあなたですからね」
スザンヌはただ微笑むだけだった。「何言ってんの、お母さん。笑わせてくれるわね」
デイル夫人はじっと見つめた。
「ああ、スザンヌ! スザンヌ!」と突然叫んだ。「手遅れになる前に、私があなたを憎むようになる前に、あなたが私の心を傷つける前に、私の腕の中に来て謝るのよ……すべて終わったと……すべて恥ずべき、邪悪な、忌まわしい夢だと言っておくれ。ああ、私のスザンヌ! 私のスザンヌ!」
「嫌よ、お母さん、お断りよ。近寄らないで、私に触れないで」スザンヌは後ずさりしながら言った。「お母さんこそ、自分が何の話をしているのか、私が何者なのか、私が何をするつもりなのか、を全然わかってないわ。私を理解していない。一度も理解したことがなかったのよ、お母さん。まるで自分は多くのことを知っていて私がほんの少ししかわかってないかのように、いつもどこか高いところから私を見下ろしてきたんだわ。それは大間違いよ。真実はそうじゃないわ。私は自分が何をしようとしているのかわかってるわ。自分が何をしているのかもわかってます。私はウィトラさんを愛しているんです。彼と一緒に暮らすつもりです。ウィトラ夫人は理解しているし、状況を把握してます。お母さんも知ることになるわ。私は人が何を考えるかなんてまったく気にしないし、上流社会の友人が何をするかも気にしないわ。彼らが私の人生を作っているわけじゃないし、どうせ彼らはみんなどこまでも狭量で自分勝手だもの。愛ってそういうものじゃないわ。お母さんは私を理解していないのよ。私はユージンを愛しているんです。そして彼は私を手に入れるつもりだし、私は彼を手に入れるつもりでいるわ。もしお母さんが私と彼の人生を壊したければ、そうすればいいわ。でもそんなことしたって何も変わらないわよ。どうせ私は彼を手に入れるんだから。これについての話をするのはもうやめた方がいいわ」
「これについての話をするのをやめる? これについての話をするのをやめるですって? それどころか、こっちはまだ話を始めてさえいないわ。私はただ気持ちを落ち着けようとしているだけよ、それだけだわ。娘は狂ってわめきちらしていますけどね。こんなことがあってたまるもんですか。絶対にあってはならないことだわ。あなたはただの、かわいそうな、たぶらかされた小娘よ。これは私の監督不行き届きね。もし神さまが私をお許しくださるなら、これから私はあなたに対する義務を果たします。あなたには私が必要なのよ。ああ、どれほど私を必要としてるのかしら。かわいそうなスザンヌ!」
「ねえ、静かにしてよ、お母さん! 興奮しないでよ」スザンヌが口を挟んだ。
「コルファックスさんに連絡するわ。ウィンフィールドさんにも連絡するわ。あいつを解雇してもらいます。新聞に暴露してやる。あのろくでなし、悪党、盗人め! ああ、こんな日を迎えるために生きてきたとは。こんな日を迎えるために生きてきたとは!」
「いいわ、お母さん」スザンヌはうんざりした様子で言った。「続けましょう。お母さんは口先だけなのよ。私はそれを知ってるわ。お母さんに私を変えることはできません。話すだけ無駄よ。こうやってわめき散らすのは愚かだと思うわ。どうして静かにやろうとしないのかしら? 私たちは話せばいいのよ、叫ぶ必要はないわ」
デイル夫人は両手をこめかみに当てた。頭脳が回転しているようだった。
「構わないで」夫人は言った。「構わないでちょうだい。私は考える時間を持たなくてはならないの。でもね、あなたが考えていることは絶対に実現しないわよ。絶対にしません。ああ! ああ!」夫人は泣きながら窓の方を向いた。
スザンヌはただじっと見ていた。人間の感情とは……人間の道徳についての感情とは……何と奇妙なのだろう。ここに母親がいて泣いていた。彼女は自分の母親が泣いている対象を、最も重要で、楽しい、魅力的なものとして見ていた。確かに、この最近、人生は急速にスザンヌにその正体を明らかにしていた。彼女は本当にユージンのことをそんなに愛していただろうか? 愛していた、愛していた、愛していた、確かに。千回だって肯定できた。これはスザンヌにとって泣くような感情ではなく、大きくて、圧倒的な、是が非でも受け入れたい喜びだった。




