第14章
その夜は午前一時、二時、三時までの数時間、翌日は五時、六時、七時から正午までと夜、さらにその翌日、四日目、五日目と、嵐は続いた。それは恐ろしい、長い苦しみの時間で、胸がむしゃくしゃし、心臓は張り裂けんばかりで、頭は割れるようだった。デイル夫人は一気に体重を減らした。頬は血色を失い、目は憔悴しきっていた。恐怖と混乱に陥り、スザンヌの反抗と急に恐ろしい成長を遂げた意志に打ち勝つ手立てを求めて、極限まで追い詰められた。この静かで、気立ての優しい、内向的な少女が行動に移ると、これほど積極的に、自信たっぷりに、頑固になれるとは、誰も夢にも思わなかっただろう。まるで極めて硬い物質になった流動体のようだった。彼女は鉄でできた生き物、石の心を持つ少女であり、彼女を動かすものは何もなかった……母親の涙も、社会から追放され、最終的に破滅し、ユージンもあなたも肉体と精神が破滅するという脅しも、新聞で世間に暴露する、精神病院へ収容させるという脅しも効かなかった。スザンヌは長い間母親を観察して、母は気軽な、哲学的な、時には尊大な態度で、堂々と話すのが大好きだったが、実際には母親の話に中身はほとんどないと結論づけていた。彼女は母親が本物の勇気を持っているとは信じなかった……毒を盛ったり殺したりするのはもちろん、娘を施設に収容したり、ユージンの正体を暴いて自分自身の不利になる危険を冒すとは思わなかった。彼女の母親は彼女のことを愛していた。この調子でしばらく激怒して、どうせ折れるだろう。母親を疲弊させるのが、母親が疲れ果ててその重圧で折れるまで自分の立場を守り抜くのが、スザンヌの計画だった。それから、彼女がユージンのことを少し話し始めて、たくさんの議論と怒鳴り合いがあって最終的に母親は歩み寄るだろう。ユージンは再び家族会議への参加が認められるようになる。彼とスザンヌは母親の前で一緒になってこの問題のすべてを議論する。おそらくはお互い意見が違うことを密かに認めて終わりかもしれない。しかし、彼女はユージンを手に入れ、ユージンは彼女を手に入れる。ああ、そんなハッピーエンドならすばらしいのに。それが今、目の前にあった。ちょっと勇敢に戦えばすべてが手に入るのだ。彼女は戦うつもりだった。母親が折れるまで戦うつもりだった。そうすれば……ああ、ユージン、ユージン!
デイル夫人は、スザンヌが想像したように、そう簡単に打ち負かされることはなかった。やつれて憔悴してはいたが、降参にはほど遠かった。スザンヌが口論の最中に、ユージンを電話で呼び出して、来てもらい、この議論の決着に協力してもらうと決めたときに、二人の間で実際に物理的な衝突があった。デイル夫人は、そうするべきではないと決心した。使用人たちは邸内で聞いていて、最初は状況の流れをつかめなかったが、絶望的な議論が続いていることをほぼ直感で察知していた。スザンヌは電話のある書斎へ行くことにした。デイル夫人は娘をドアまで押し戻してやめさせようとした。スザンヌはドアを引っぱって開けようとした。母親は必死で手をどかしたが、スザンヌの力があまりにも強かったのでとても大変だった。
「恥を知りなさい」母親は言った。「恥を! 実の母親と争うなんて。ああ、世も末ね」……その間も母親は奮闘努力していた。最後に、怒りと激情の涙が思わず母親の頬を流れ落ちると、ようやくスザンヌは動揺した。母親が本当につらくて心を痛めていることがこれで明らかになった。髪は片側が振り乱した状態で、袖は破れていた。
「あら、まあ、何てことを! 何てことかしら!」デイル夫人は椅子に体を投げ出して激しくすすり泣くうちに、最後は息を切らした。「私は二度とまともに顔を上げられなくなるわ。私は二度とまともに顔を上げられなくなるわ」
スザンヌは何だか悲しくなって母親を見た。「ごめんなさいね、お母さん」スザンヌは言った。「でも、これはすべてお母さんのせいなのよ。別に今、彼に電話する必要はないわ。どうせ向こうからかかってくるし、そしたら私が出るわよ。すべては、お母さんがお母さんのやり方で私を支配しようとしていることからきてるのよ。お母さんには、私がお母さんと同じように一人の人間だということがわからないのよ。私にだって生きていく自分の人生があるわ。これは、私が好きなようにできる私のものなのよ。長い目で見れば、お母さんは私をとめられないわ。もう私と争うのはやめた方がいいわよ。私はお母さんと喧嘩なんてしたくないの。議論だってしたくないわ、だって私は大人の女性なのよ、お母さん。どうしてお母さんは道理に耳を貸さないの? 私がこれについてどう感じているのかを、どうして私に説明させてくれないの? 愛し合っている二人には、一緒にいる権利があるのよ。これは他の誰にも関係ないことだわ」
「他の誰にも関係ない! 他の誰にも関係ないですって!」母親は乱暴に答えた。「何て馬鹿げたことを。何という愚かな恋愛ぼけのたわ言かしら。もしあなたが、人生や、世の中の仕組みってものを、ちゃんとわかっていたら、自分のことを笑ってしまうわよ。今から十年もすれば、一年後でさえ、自分がやろうとしていることが、どんなひどい間違いなのか、わかるようになるわ。あなたは、今自分がやっていることや、言っていることを、やれたことや言えたことが到底信じられなくなるわ。他の誰にも関係ないだなんて! ああ、慈悲深い神さま! あなたがやろうとしていることが、野蛮で、愚かで、無謀だってことを、あなたの頭に思いつかせてくれるものさえ何もないのかしら?」
「でも私は彼を愛しているんです、お母さん」スザンヌは言った。
「愛ね! 愛ですって! あなたが愛を語るとはね」母親は辛辣に、ひどく興奮して言った。「あなたがそれについて何を知ってるのよ? ここに来てあなたを善良な家庭と高潔な社会環境から連れ出して、あなたの人生を台無しにし、あなたばかりかあなたの人生と私の人生とあなたの妹たちと弟の人生までも永遠に泥沼に引きずり込みたがっている男が、あなたを愛し続けることができるって思うの? そんな男が愛について何を知っているんだい? あなたはどうなの? アデール、ニネット、キンロイのことを考えなさい。あの子たちのことはどうでもいいの? 私や家族の者に対するあなたの愛はどこにあるんだい? ああ、キンロイがこの話を聞きつけやしないか、心配でならないわ。あの子のことだからあいつを殺しに行くわ。あの子ならやりかねないもの。私じゃそれを防げないわ。ああ、恥辱とスキャンダルと破滅が、寄ってたかって私たち全員を巻き込んでしまうわ。あなたには良心ってものがないのかい、スザンヌ、心がないのかい?」
スザンヌは冷静に自分の前を見つめた。キンロイのことを考えると少し動揺した。キンロイならユージンを殺すかもしれない……スザンヌにわかるはずがなかった……彼は勇敢な青年だった。しかし、母親さえ大人しくしてくれれば、殺人も、暴露も、いかなる種類の騒ぎも必要なかった。自分が何をするかが、母親や、キンロイや、どこかの誰かに、どんな影響を与えるのだろう? 自分がやりたいのに、どうしてできないのだろう? リスクを負うのは彼女だった。しかも積極的に負おうとしていた。それがどんな累を及ぼすのか、スザンヌにはわからなかった。
一度この考えを母親に伝えたが、母親は彼女に現実を見なさいと切々と訴えた。「あなたがなりたがっているそういう種類や性質の悪い女がどれくらいいるか、あなたは知ってるの? どれくらいいるか知りたいかい? 立派な社会にどれくらいいるとあなたは思ってるの? この状況をウィトラ夫人の視点から見てみなさい。あなたが彼女の立場だったらどうだろうね? 私の立場だったらどうだろうね? あなたがウィトラ夫人で、ウィトラ夫人が相手の女性だったら。そのときはどうするの?」
「私なら彼を手放すわ」スザンヌは言った。
「ええ、ええ、そうね! あなたなら彼を手放すんでしょうね。あなたはそうするかもしれないわね、でも、どう感じるかしら? みんなはどう感じるかしら? こういうことの恥ずかしさが、不名誉が、あなたにはわからないの? あなたには理解力ってものがまったくないのかい? 何も感じないのかい?」
「まあ、よくしゃべるわね、お母さん。何て馬鹿げたこと言うのかしら。お母さんは事実関係を知らないのよ。ウィトラ夫人はもう彼を愛していないわ。彼女が私にそう言ったんだから。彼女が私にそう書いてよこしたのよ。私は手紙をもらったわ。ユージンに返しちゃったけど。ユージンは彼女を気にかけてないわ。彼女はそれを知ってるの。ユージンが私に気があることだって知ってるのよ。もし彼女がユージンを愛してなければ、どうなのかしら。ユージンだって誰かを愛する権利があるわ。今は私が彼を愛してるの。私が彼を求め、彼が私を求めてるのよ。どうして私たちがお互いを自分のものにしてはいけないのかしら?」
デイル夫人はあれだけ脅したにもかかわらず、自分が公然と動けば、おそらくではなく確実にすぐ巻き込まれる事態についてさらに踏み込んで考えないわけにはいかなかった。ユージンは有名人だった。これは本当は彼女の考えとかなり隔たりがあったが、彼を殺すことは、よほど秘密裏にやらない限り、とんでもない騒ぎを引き起こし、際限のない調査や議論を伴って、世間を賑わすことになるだろう。コルファックスかウィンフィールドにユージンの正体をあばけば、実際にスザンヌまで二人と、おそらくは彼女自身の社交グループのメンバーにもさらすことになる。何しろ二人はそのメンバーで、口外するかもしれないからだ。ユージンが辞めれば憶測を呼ぶだろう。彼が立ち去れば、スザンヌは彼と駆け落ちするかもしれない……するとどうなる? これについて少しでも話し合ったり、誰かに囁いたりすれば、最悪の悲惨な結果を生むかもしれない、という考えがデイル夫人にはあった。いわゆる「ゴシップ」紙は、こういう話でどのくらいの利益を稼ぎ出すだろう。さぞかしいい気分で詳細をながめることだろう。これは恐ろしい、危険な状況だった。早急に何かがなされなければならないことは明白だった。どうすればいいだろう?
この危機の中で彼女は、スザンヌが活動しないことを約束してそのまま活動しないでいる時間を少し稼げるだけで、取り返しのつかない結果を招く大きな危険を冒さずに、いくつかのことができるかもしれないと考えた。十日か五日何もしないと彼女に言わせることができれば、すべてがうまくいくかもしれなかった。必要なら、アンジェラに、ユージンに、コルファックスに、会いに行けばいい。いろいろな用事を済ませるためにスザンヌを残して出かけるには、期限が来るまではどんな行動しないという、これなら絶対に尊重できるとわかる、スザンヌの言質を取らなくてはならなかった。デイル夫人は、スザンヌには考える時間が必要である、時間をかけるべきである、を口実にして何度も頼み込み、スザンヌは、自分がユージンに電話をかけて状況を説明することを認めてもらうのを条件にして最終的に同意した。喧嘩が始まって二日目にユージンがスザンヌに電話をすると、デイル夫人に言い含められた執事に、スザンヌは外出していると告げられた。二日目に電話しても、同じ答えが返ってきた。スザンヌに手紙を書いてもデイル夫人が手紙を隠してしまった。しかし四日目にスザンヌがユージンに電話をして説明した。スザンヌが説明した瞬間に、母親に話すとは随分早まったことをしてくれたとユージンはひどく悔やんだが、今は自分の立場を死守するしかなかった。心から欲しいものを手に入れる以上、やるからには、吉と出ようが凶と出ようが厳しい態度で臨む覚悟だった。
「僕が行ってきみが説得するのを手伝おうか?」ユージンは尋ねた。
「だめよ、五日間は手出し無用よ。約束したんだから」
「会いに行こうか?」
「だめなのよ、五日間はね、ユージン」
「きみに電話をするのもだめなのかな?」
「だめよ、五日間は。その後ならいいけど」
「わかったよ、フラワーフェイス……神の火。従うよ。僕はきみの言いなりなんだから。それにしても、ああ、待ち遠しいな」
「わかってるわ。でも時間なんてすぐ経っちゃうわよ」
「きみは変わらないよね?」
「変わらないわ」
「まわりが影響するんじゃない?」
「いえ、しないわ、知ってるでしょ、あなた。どうして聞くのよ?」
「ああ、少し怖くて仕方がないからだよ、スザンヌ。きみはとても若いし、あまり恋愛に慣れていないからね」
「私は変わったりしないわ。私が変わることはありません。誓うまでもないわ。私は変わりませんから」
「それなら結構だ、満開のギンバイカさん」
スザンヌは受話器を戻した。デイル夫人は今、最大の苦闘が目の前にあることを知った。
デイル夫人が考えたいくつかの行動は、まずスザンヌとユージンに知られないようにウィトラ夫人に会いに行き、彼女が現状について何を知っているかと、どんなアドバイスをしてくれるかを知ることだった。
新たにアンジェラの怒りと悲しみを煽ったことと、ユージンを攻撃する追加の材料をデイル夫人に与えたことが利点と言えるのでなければ、これは本当に無駄だった。アンジェラは、彼がやろうとしていた罪深い行為の重大さを彼に気づかせるためにあれこれ考えて努力しながら、このときずっとユージンに説得と懇願を続けてきたが、ほとんど絶望していた。アンジェラは再び、彼女がかなりすさんだことがある段階まできていた。そしてユージンもそうだった。アンジェラの状態にもかかわらず、彼女が何を言おうとものともせず、ユージンは冷たく辛辣だった。古い秩序は終わったと執拗に言い張ったので彼女を怒らせてしまった。そうした方がよかったのかもしれないが、時間が彼の態度を変えるか彼を完全に手放すことの賢さを教えてくれるだろう、と信じながらユージンと別れる代わりに、彼女は彼にしがみつく方を選んだ。というのは、まだ愛情が残っていたからだ。彼女は彼に慣れてしまった。たとえその子が歓迎されなくても、ユージンは生まれてくる子供の父親だった。彼は、彼女の社会的地位と世の中での彼女の立場を象徴するものだった。どうして彼女が彼と別れなければならないのだろう? それに、結果も恐ろしかった。これは子供と同じように彼女を襲うものだった。彼女は死ぬかもしれない。子供はどうなるのだろう?
「デイルさん」アンジェラは一点だけははっきりと言った。「私はスザンヌにまったく罪がないとは思いません。もっと分別があってもいい大人ですもの。社会に出て随分経っているんですから、結婚している男性は他の女性の神聖な財産であることを知ってるはずです」
「重々承知しています」デイル夫人は腹立たしかったが慎重に答えた。「でもスザンヌはまだ若いんです。あの娘がどんなに子供っぽいか、あなたは本当に知らないでしょうけど、あの娘にはこういう愚かで、理想主義的で、感情的なところがあるんです。その辺が何となく気にはなっていたんですけど、これほど強いとは知りませんでした。そんなものをどこで身につけたのか、私にはさっぱりわかりません。父親はとても現実的な人でした。でも、娘はあなたのご主人が吹き込むまではちゃんとしてたんです」
「すべてそのとおりかもしれませんが」アンジェラは続けた。「彼女に非がないわけではありません。私はユージンを知っています。彼は弱い人ですが、誘導されなければ、ついて行きませんし、その気がなければ女の子は誘惑されません」
「スザンヌはまだ若いんです」デイル夫人は改めて弁護した。
「まあ、もし彼女が主人の過去を正確に知っていたら」アンジェラは愚かにも続けた。「彼女は彼を欲しがらなかったでしょうね。私は彼女に手紙を書いたんです。彼女は知るべきですから。このことでわかるように、彼は正直ではないし、モラルが欠けています。もしこれが初めて他の女を好きになったのであれば、私は彼を許せたかもしれませんが、そうではないんです。六、七年前にもまったく同じ過ちをしました。そのわずか二年前にも別の女がいました。もしスザンヌを手に入れたとしても、彼はスザンヌに誠実ではないでしょう。これはしばらく燃えるような愛情の一例になって、そのうちに彼が飽きて彼女を放り出すことになるんです。現に、このとおり、スザンヌのために別居させろ、そのことで何も言うな、と言い出すわけだから、この時点で彼がどんな男性なのかあなたでもおわかりでしょ。そんなことを考える人なんです!」
デイル夫人は大きく舌打ちした。こんなことを言うアンジェラを愚かだと思ったが、今さらどうしようもなかった。おそらくユージンがこの女と結婚したのが間違いだったのだ。だからといって、彼が提示した条件でスザンヌを引き取りたいと言っても、デイル夫人としては許せなかった。もしユージンが独身だったら、これはまったく別の問題になっただろう。彼の地位、考え方、態度は生まれながらのものではなかったが、反対する理由にはならなかった。
デイル夫人は見聞きしたことにひどく困惑して夕方近くなって立ち去ったが、この状況からいい結果は何も出ないと確信した。アンジェラは絶対にユージンと離婚しないだろう。いずれにせよ、ユージンは道徳的に彼女の娘にふさわしい相手ではなかった。彼女の愛する娘が取り返しのつかない汚名を着ることになる大きなスキャンダルがここで露見しようとしていた。デイル夫人は絶望の中で、もし他に何もできることがなかったら、離婚できるまではスザンヌに会わないようユージンを説得し、離婚できた場合はこれ以上悪い事態を避けるために結婚に同意しようと決めたが、これはただの口約束になるだけだった。デイル夫人がやりたかったことはたったひとつだけで、スザンヌにユージンを完全にあきらめさせることだった。スザンヌさえうまく連れ出せるか、ユージンに身を捧げるのを思いとどまらせることができれば、それでよかった。それでもデイル夫人はユージンとの話し合いがどうなるかを見届けるつもりだった。
翌朝、ユージンがオフィスに座って、彼が絶えず注意する必要があったのに今ではかなり明らかに無視されている、膨大な細かい仕事に頭を集中しようと努力していたのはもちろんだが、五日先延ばしにするとどうなるのだろう、スザンヌは何をしているだろう、と考え事をしていると、デイル夫人の名刺がテーブルに置かれた。すぐに秘書が退出させられて、他の誰も入ってはならないと指示された後、デイル夫人が案内された。
彼女は真っ青で疲れ果てていたが、緑がかった青のシルクを優雅に着こなし、羽根飾りのついた黒い麦わらのピクチャーハットをかぶっていた。かなり若く、美しく見えた。ユージンにとって、彼女は年を取り過ぎてはいなかった。実際、彼女は一度、彼は自分と恋に落ちるかもしれないと想像したことがあった。そのときの自分の考えがどうだったかを、今は思い出す気にはならなかった。というのも、それらは、アンジェラが捨てられるか、離婚するか、死ぬかして、ユージンが自分に情熱的にのぼせ上がるという内容だったからだ。もちろん、このとき、すべてが終わった。興奮と苦悩の中で、ほぼ完全に記憶から抹消された。そのとき彼も同じように感じたり空想していたことや、デイル夫人がいつも心の通った友好的な態度で彼に引かれていたことをユージンは忘れたことがなかった。しかし今朝、彼女は間違いなくどうにもならない使命を帯びてここに来ていた。ユージンは全力で彼女と戦わなくてはならなかった。
彼女が近づいて、これだけでも一苦労だったが、穏やかに微笑んだときに、彼が彼女のかたい表情を見入ったところで会話が始まった。「さて」ユージンはあくまで事務的に言った。「用件は何ですか?」
「この悪党め」デイル夫人は大げさに叫んだ。「娘がすべてを話したわ」
「はい、あなたに伝えたとスザンヌが電話で言ってました」ユージンはなだめるような口調で答えた。
「そうよ」デイル夫人は低い緊張した声で言った。「私はこの場であなたを殺すべきなんだわ。まさかこの私が自分の家の中や自分の大切な無垢の娘の近くに、あなたのような怪物を寄りつかせていただなんて、今では信じられないわ。私には信じられないのよ。あなたがこんなことをするなんて。あなたは家庭に大切な優しい奥さんがいて、それも病気で、しかもああいう状態なのによ。もしあなたが少しでも男らしさってものを持ってたなら、恥ってものの意味を考えるべきね! あの哀れな愛すべき小さな女性のこと、あなたがしてきたこと、あるいはしようとしていることを考えると……もしこれがスキャンダルではなかったら、あなたは生きてこのオフィスを出ることはなかったでしょうね」
「ああ、うるさい! 馬鹿なことを言わないでください、デイルさん」ユージンはいらいらしたが穏やかに言った。夫人の大げさな態度が気に入らなかった。「あなたの言うあの哀れな愛すべき小さな女性は、あなたが思っているほどひどい状態じゃないし、あなたはずいぶん同情しているが、そんな同情だってあまり必要としていないと思いますよ。病気でも彼女は自分の面倒は自分で見られる程度に元気ですから。あなたであれ他の誰であれ、私を殺すというのはそれほど悪い考えじゃない。私は人生にあまり愛着がないんでね。でも、これは五十年前ではなく、十九世紀の話です。しかもここはニューヨークだ。私はスザンヌを愛している。彼女も私を愛している。私たちは必死にお互いを求め合っているんです。今はとにかくあなたの障害にならなくて、私たちのために事態を調整する取り決めができればいいんです。スザンヌはそういう取り決めをしたがっています。これは私の意見であると同じくらいに彼女の意見なんです。どうしてあなたがそんなにひどく動揺しなければならないんですか? あなたは人生についてたくさんのことをご存知なのに」
「どうして私が動揺しなければならないかですって? どうしてかですって? よくあなたは、こんなに大きな公共の仕事を担当する人物でありながら、こんなオフィスに座って、どうして私が動揺しなければならないのかなんてこの私に向かって冷酷に尋ねられるわね? まさに私の娘の人生がかかっているからよ。どうして私が動揺しなければならないのか、私の娘はほんの少し前にショートドレスを卒業したばかりでほとんど世間知らずだからよ。娘の意見だなんてよくもこの私に言えるわね! ああ、あなたは心の通わない悪党よ! 私だって人を見誤ることはあったんだって思うべきね。あなたは人当たりの良い態度で幸せな家庭生活について矛盾した話をしていたのに。でも、あなたがよく奥さんを連れずにいるのを見た時点でわかっていたのかもしれないわ。知っていたはずなのに。私は知っていた、神さまが助けてくれたのに、私はそれを踏まえて行動しなかった。あなたの人当たりの良い紳士的な態度に騙されたのよ。私はかわいそうな大切で小さなスザンヌを責めないわ。私が責めるのあなた、あなたみたいな完全に相手を騙している悪党とこんなに愚かだったこの自分自身よ。でも、こうなっているのは自業自得だわ」
ユージンはただ相手を見て、指で机を叩いていた。
「しかし私はあなたとお喋りしにここに来たわけじゃありません」デイル夫人は続けた。「私はあなたに、もう二度と私の娘に会っても、娘について話をしても、娘のいそうなところに姿を現してもいけない、と言いに来たんです。でも、もし私の思い通りに行けば、あなたが現れそうなところに娘はいませんけど。だって、あなたがまともな社会のどこにも姿を現す機会を持てくなるのも、そう長い先のことではありませんから。今ここであなたがもう二度と娘に会ったり連絡をとったりしないと約束しなければ、私はコルファックスさんのところへ行ってこの件をすべて彼に話します。あなたもお気づきでしょうけど、私は彼を個人的に知っているんです。あなたの過去について私が今知っていることや、あなたが私の娘にしようとしていたことや、あなたの奥さんの状態を考えれば、あの方がそう長くあなたを必要としないのは確実だわ。ウィンフィールドさんのところにも行って、この件を伝えるわ。あの方も古い友だちなのよ。あなたは密かに社交界から追放されるでしょうけど、私の娘には何の害も及ばないわ。事実関係が知られても娘はまだとても若いんです。この件で悪評を買うのはあなただけよ。きのう、あなたの奥さんがあなたの情けない過去を教えてくれたわ。あなたは私のスザンヌを四番目か五番目の女にしたいんでしょうけど、まあ、そうはいかないわ。あなたが今まで知らなかったことを私が教えてあげます。あなたは必死の母親を相手にしているのよ。やれるものなら、かかってらっしゃい。今ここでスザンヌに別れの手紙を書いてください。私がそれを娘に渡します」
ユージンは皮肉に微笑んだ。デイル夫人にアンジェラのことを言われて、しゃくにさわった。彼女はあそこに行ったのだ。そしてアンジェラは彼のことを……彼の過去を……彼女に話したのだ。何て卑劣なことをするのだろう。結局、アンジェラは彼の妻だった。ついさっきの朝も、アンジェラは愛してるといいながら彼に訴えていたのに、デイル夫人が来たことは言わなかった。愛! 愛! これは一体どういう愛だろう? たとえ彼女がそうしたくなくても、こういう危機に彼女が寛大になれるだけのことを彼はしていたのだ。
「あなた宛てにスザンヌを手放すと一筆書けと?」ユージンは口を歪めて言った……「馬鹿馬鹿しい。絶対に書きませんよ。あなたがコルファックスさんに言いに行くという脅しも以前家内から聞いたことがあります。ドアならそこですよ。彼のオフィスは十二階です。何でしたら、若いのを呼んで案内させますよ。あなたはせいぜい年を取らないうちに、コルファックスさんに話をして、これがどれくらい遠くまで伝わるかを見ればいい。ウィンフィールドさんのところにもお行きなさい。私は彼もコルファックスさんもどうでもいいですから。もしあなたがこれについて盛大な興味をそそる議論をしたければ、さっさと始めればいい。話がどんどん広がることを私があなたに保証しますよ。私はあなたのお嬢さんを愛しています。彼女のことで必死なんです。文字通り夢中なんです」……ユージンは立ち上がった……「彼女も私を愛しています。愛してくれていると私は思っています。いずれにせよ、私はこの考えにすべてを賭けています。愛情の点から見ると、私の人生は失敗でした。私はこれまで本当に恋をしたことがありませんでしたが、スザンヌ・デイルには夢中なんです。彼女のことになると居ても立ってもいられないんです。もしあなたが、まだ一度も女性に満足したことがない、不幸で、思いやりのある、多感な人に同情するなら、私にお嬢さんをくれてもいいでしょう。私は彼女を愛しています。愛してるんです。神にかけて!」……ユージンは拳で机を叩いた……「私は彼女のためなら何だってしますよ。もし彼女が私のところへ来てくれるなら、コルファックスが地位を、ウィンフィールドがブルーシー社を手に入れればいい。もし彼女がそうしたければ、彼女のお金はあなたが受け取ればいい。私は絵を描けば海外で生計を立てられるし、そうするつもりです。私の前にも他のアメリカ人がこれをやってますからね。私は彼女を愛しているんです! 愛しています! 聞いてますか? 私は彼女を愛してる。だから手に入れます! あなたは私をとめられませんよ。あなたにはお嬢さんに太刀打ちするほどの頭脳も、力も、才覚もない。彼女の方があなたよりも聡明ですよ。彼女の方が力だって強いし、すばらしいですよ。彼女の方が、社会や人生について現在受け入れられているすべての概念よりもすばらしいですよ。彼女は私を愛していて、自発的に、自由に、喜んで私に自分を捧げたがっているんですからね。あなたができるというなら、あなたの小さな社交界でそれに対抗してごらんなさい。社交界か! あなたはそこから私を追い出すって言うんでしょ? 私はあなたの社交界なんかどうでもいいんです。売文家、頭の軽い奴、金の亡者、ギャンブラー、泥棒、寄生虫……立派なもんですね! あなたがそんなところに座って偉そうな態度で私に話しかけるのを見ると笑ってしまいますよ。私はあなたなんかどうだっていい。私はあなたに会ったとき、別のタイプの女性を考えていたんです。了見が狭い、型にはまった馬鹿ではない女性をね。私はあなたの中にそういう女性を見たと思いました。見たんですよね……違いましたか? あなたは他の連中と同じで、流行を追って慣習にしばられているだけの、了見の狭い、ちっぽけな奴隷と同じですよ。では」ユージンは相手の顔の前で指を鳴らした。「せいぜい悪あがきを続けてください。最終的には私がスザンヌを手に入れるんです。彼女は私のところに来ます。彼女はあなたのことだって支配するでしょう。さっさとコルファックスのところに行きなさい! ウィンフィールドのところに行きなさい! どうせ私は彼女を手に入れるんです。彼女は私のものだ。私のものなんです。彼女は私にぴったりの大物だ。神さまが私に彼女をくれたんだ。あなたやあなたの家庭やこの私や私に関わる他の全員をぶちこわさなくてはならなくても私は彼女を手に入れる。手に入れますよ! 手に入れてやる! 彼女は私のものだ! 私のものなんだ!」ユージンは緊張した手を上げた。「さあ、あなたは何なりと自分のやりたいことをやりに行けばいい。ありがたいことに、私は生き方と愛し方を知っている女性を見つけました。彼女は私のものです!」
デイル夫人は驚いてユージンを見つめた。自分の耳が信じられなかった。彼は狂っているのだろうか? 本当にそんなに愛しているのだろうか? スザンヌがユージンの頭をおかしくしたのだろうか? 何とも驚くべきことだった。デイル夫人はユージンのこんな姿を一度も見たことがなかった……こんなことができる人だと想像したこともなかった。彼はいつも静かで、にこにこしていて、人当たりがよく、機知に富んだ人だった。ここにいるユージンは、大げさで、情熱的で、気が荒く、貪欲だった。目に恐ろしい光を宿していて必死だった。彼は恋をしているに違いなかった。
「ああ、どうしてあなたは私にこんなことをするの?」夫人は急に泣き声になった。彼の雰囲気の恐ろしさがこのとき彼女に伝わり、彼女がこれまでに感じたことのない同情をかき立てた。「どうしてあなたは私の家に入り込んで家庭をぶち壊そうとするの? あなたを愛してくれる女性はたくさんいるでしょ。スザンヌよりもあなたの年齢や気質に合う人はいくらでもいるでしょ。あの娘はあなたを理解していないわ。自分のことだって理解してませんから。ただ若くて、愚かで、催眠術にかかっているだけなのよ。あなたがあの娘に術をかけたんでしょ。ああ、どうしてあなたは私にこんなことをするのかしら? あなたはあの娘よりずっと年上で、人生についてだってもっと多くのことを学んだでしょ。どうしてあきらめてくれないの? 私だってコルファックスさんのところには行きたくはないわ。ウィンフィールドさんにだって話したくないわ。もしそうしなければならないなら、そうするけど、やりたくはないわ。私はいつだってあなたには一目置いてきたわ。あなたが普通の人でないことを知ってますから。私のあなたへの尊敬と信頼を返してください。私は忘れることはできなくても許すことならできるわ。あなたは幸せな結婚をしなかったのかもしれません。お気の毒だとは思います。私は事を荒立てたいわけじゃないんです。哀れなかよわいスザンヌを救いたいだけなんです。どうかお願いします! お願いです! 私はあの娘を愛してます。私がどういう気持ちでいるのか、あなたにはわからないと思います。あなたは恋をしているのかもしれませんけど、自分から進んで別の人を考えるべきだわ。本当に愛しているのならそうなるでしょ。今、あの娘は頑なで、意固地で、むきになっているけど、あなたが助けてくれれば変わるわよ。あなたが本当に娘を愛しているのなら、私の気持ちを汲んで娘の将来を考えてくれるのなら、計画を断念して娘を解放してくれるでしょ。自分が間違っていたんだと娘に言ってやってください。今すぐ娘に手紙を書いてください。こんなことをして、娘や私や自分を社会的に破滅させられないから断念する、と娘に言ってあげて。もしやるにしても、自分が自由の身になる時が来るまで待つことに決めた、と言ってあげて。そしてあの娘が普通の生活では幸せにならないのかを確かめるチャンスを与えてあげて。あなただってこの年齢であの娘を破滅させたくはないでしょ? 彼女はまだ若くて純真なのよ。ああ、もしあなたに人生に対する判断力が少しでもあるなら、注意力でも考える力でも何でもいいからあるなら、願いだわ。あの娘の母親としてお願いするわ。私はあの娘を愛してるんです。ああ!」涙がまた目に浮かんだ。デイル夫人はハンカチを当てて弱々しく泣いた。
ユージンは相手をじっと見つめた。彼は何をしていたのだろう? どこに行こうとしていたのだろう? 彼はここでそう見えたような本当にひどい人間だっただろうか? 何かに取り憑かれたのだろうか? 彼は本当にそんなに冷酷無情だっただろうか? デイル夫人とアンジェラの深い悲しみと、コルファックスとウィンフィールドの脅威を通じて、彼はこの状況の核心を垣間見た。まるで稲妻がすさまじい閃光を放って黒い景色を照らしたかのようだった。彼は同情しながら、悲しみや、愚かさや、関係する多くのものを見たが、次の瞬間には消えていた。スザンヌの顔がよみがえった。滑らかな、古風な、彫刻のような、完璧に形づくられた、ぴんと張った弓のような美しさが、目が、唇が、髪が、彼女の動作や微笑みの陽気さや快活さがよみがえった。そんな彼女をあきらめろだと! スザンヌを、アトリエの夢を、楽しくていつまでも続くいい関係を、あきらめろというのか? スザンヌは彼にあきらめてほしかっただろうか? 彼女は電話で何と言っていただろう? だめだ! だめだ! だめだ! もうやめだ、彼女は彼にしがみついていた。だめだ! だめだ! だめだ! 絶対にだめだ! 彼はまず戦うつもりだった。負けるまで戦い続けるつもりだった。絶対に! 絶対に! 絶対にだめだ!
頭から湯気が立っていた。
「そんなことはできない」さっきの長い演説のあとでユージンは座っていたので、再び立ち上がりながら言った。「私にそんなことはできない。あなたは絶対にできないことを頼んでいる。こればかりはできない相談だ。神さま、助けてほしい。私は正気じゃないんだ。彼女のことになると居ても立っても居られないんだ。さっさと行って、あなたがやりたいことを何でもやればいい。でも、私は彼女を手に入れなければならない。そして手に入れますよ。彼女は私のものだ! 私のものなんです! 彼女は私のものなんだ!」
ユージンは細い痩せた手を固く握りしめて、歯ぎしりした。
「私のものだ、私のもの、私のものなんだ!」ユージンはつぶやいた。人は彼を安っぽいメロドラマの悪役だと思っただろう。
デイル夫人は首を振った。
「神さま、私たち二人を助けください! あなたには絶対に、絶対に、渡しませんからね。あなたは娘にふさわしくありません。あなたの頭は常軌を逸しています。私はあらゆる手段を使って全力であなたと戦うわ。私は必死ですからね! 金に糸目はつけません。戦い方はわかってますから。娘は渡しません。さあ、どちらが勝つか見てみましょう」デイル夫人は立ち上がって進んだ。ユージンはその後に続いた。
「勝手にやってください」彼は冷静に言った。「でも、最後はあなたが負けるんです。スザンヌは私のところへ来ますから。私にはわかります。それを感じるんです。私は多くのものを失うかもしれませんが、彼女を手に入れます。彼女は私のものです」
「ああ」デイル夫人は半分ユージンを信じて、ドアの方へ向かいながら、ため息をついた。「言いたいことはそれだけかしら?」
「そうです」
「それでは、私は行かなければなりません」
「さようなら」ユージンは厳かに言った。
「さようなら」デイル夫人は青ざめた顔をして、目を見すえて答えた。
夫人が退室すると、ユージンは受話器を取った。しかし、スザンヌが電話はしないで、私に任せて、と警告していたことを思い出し、受話器を戻した。




