あぁ、フラグが建ってしまった…… いつ回収するのだろう
今回モノローグが多めです。
進むの遅いなぁ……。
「何イチャコラしてんのお前ら?」
「イチャついてなど」
「おりません」
二人で手を取り合って一万尺すれば、フェルトが半目で見てくる。
「そういう態度だ。そういう」
「何かおかしい?」
「ミールィわかんなーい」
「僕も分かんない」
「ねー?」
「ねー」
「こいつら……!」
僕とミールィさんが顔を見合って微笑みを浮かべると、フェルトの顔がぴきりと引きつり目付きが若干鋭くなる。カルシウムが足りないのかな?
しょうがないので、僕のとっておきをあげることにしよう。特別だぞ~?
「お食べぇ」
「……なんだ、これ?」
「兎肉(生)」
「いるか!」
「ラビットミートォ!?」
おお、可哀想に。あ、ミールィさん拾ってくれたの。ありがとう。
「お礼にこのイカスミパスタ味ソフトクリームをあげよう」
「わーい」
両手で大事そうに持つミールィさんに笑顔を誘われる。この人ゲームしてる間は本当に言動が子どものそれである。それで良いのか、21歳。
「お前ら人の話聞けよ……」
「ごめんごめん。で、フェルトどうしたの?」
「はぁ……。マスタードの奴の準備が終わったから呼びに来たんだよ」
「あ、あの人立ち直ったんだ」
「アイアンクローで一発だったぞ?」
あれ、何その当たり前だろ的な顔。フェルトは常識人だと思ってたのに、僕の勘違いだった?くっ、常識があるのは僕だけなのか!
「……なんか滅茶苦茶馬鹿にされてる気がするんだが?」
「気のせい気のせい」
フェルトに着いて行くと、にこっと笑顔のμ蘭と吹っ切れた、もしくは諦めた表情のマスタード君が並んでいた。あれ、ファランは?……いた。ミールィさんの背後霊をしていた。そっと目を逸らす。
なんだろう、この空間って僕を除いてやべー奴しかいない気が……。
「………………」
おや、お前もだろ的な声が聞こえたような。空耳だね。
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あの後、話がようやく通じるようになったマスタード君は存外普通の人だった。なんか、フェルトのアイアンクローで悩むのが馬鹿らしくなったそうな。そんなもんなんだろうか?生憎告白をしたこともされたことも無い僕には、分からない話だ。部外者としては良いことあるさと無責任な応援を送るだけだし。フェルトだってそうだ。ネットゲームという顔も名前も知らない他人であるからこそ、歯に衣着せぬ物言いでマスタード君を叱咤出来たのだろう。
ま、それはともかくとして、マスタード君には僕達の装備を整えて貰うためのお手伝いをしてもらった。迷惑をかけた以上、お詫びとして手伝いたいそうで、やる気を見せていた。……ミールィさんのことをよく見ていたので、また彼女が誑かしたのだろう。無自覚なのがまた怖いけどね、あの人タラシ。あれのお陰で僕が何度苦労する羽目になったか。でもリアルでその性能が発揮されないのは、何故だろう?
閑話休題。
装備の件だ。
僕の装備は、武器としてハンマーと鎖もしくは縄、後は投擲武器なわけだけど、ハンマーつまり槌術対応の武器は例の似非スコップを貰うことにした。あの武器、見た目はアレだけど僕が見た中でもかなり強い武器だ。錯乱して作ったものらしいが、彼の鍛冶の腕は確かということだろう。実際、フェルトからも太鼓判を貰った。呆れた目をしてたけど。普通こんな色物武器を使おうと思わないよなぁと察する。その影響か、在庫処分として格安で売ってくれた。ありがたや。
捕縛術対応の武器については、マスタード君も流石に作っていなかったらしい。だよねぇと期待していなかったので納得しつつ、鎖を作って貰うようにお願いしておいた。投擲武器は、安い投げナイフ的なのがあったので、それを数本購入。
防具に関しては、マスタード君に頼る所はあまり無かった。僕の戦い方の性質上、金属鎧を着けないので、体の一部──肘や膝、靴の表面等をカバーする程度となった。肘や膝は軟らか目の革を体に当て、それを覆うようにして金属のプロテクターを装着することで、使い手に優しく相手に厳しい素敵な物が装備された。きっと嬉しいだろう。靴もまたは良い感じに仕上げてくれた。これもまた武器と同じ初期装備の、薄い革の靴だったので、この度の強化で「蹴り」スキルにますますの磨きがかかることだろう。ジョブについては何も言わないで欲しい。
胴体部分を守る防具については、μ蘭が請け負ってくれた。μ蘭もまた、生産職だったからだ。「裁縫」のスキル持ちで、布だけでなく皮革まで加工できるらしい。彼女のアイテムボックスに入っていた既製品の革鎧を買い取ることにした。……若干ぼられた気がしないでもないけど、今回は気にしないことにした。次に頼む時は、ちょっとふっかけてみよう。そうしよう。
対してミールィさんはというと、μ蘭によって着せ替え人形をさせられていた。おぉ、憐れ。μ蘭もまた、あの裁縫職人達と同類ということだろう。いつ作ったのか、どうやって作ったのか、全くもって謎だけど彼女は馬鹿みたいに大量の衣装を持っていた。ナース服、警官服、CA服、セーラー服、巫女服、着ぐるみパジャマ。呆れを通り越して感心すら覚えるそれらを、これまたミールィさんはノリッノリでキレッキレのポーズをとったりしていた。ノリが良いのである。
彼女の装備については、僕以上に筋力が無いので最初からμ蘭にお願いすることに。ミールィさんが着ていた神官服は、+値の無いネタ装備だったので、STRを要求されることは無かったけど、+値や特殊能力が付与されてる装備になると、装備条件が設定されている物もあるそうだ。例えば、金属鎧ならSTR20・VIT15以上の者のみ装備可、みたいな。ミールィさんの場合は魔法使いなのでINTやMINが一定以上無いと装備不可な物が出てくるだろう。それは、良い。極振りには心配ご無用だ。問題なのは、それ以外──STRやVITなんかのステータスが条件になる場合だ。ミールィさんはレベルアップで上昇するステータスはINTとMINのみ。そして、自由に割り振れるSPを彼女は全てINTに注ぎ込む。火力バカのミールィさんは言って聞かないので、どうしようもない。ないのだけど、不安だ。将来的にミールィさんが使いたくて使いたくてどうしようもない、そんな装備が現れたとして、その装備条件に1でもSTRを要求されたら……。100%面倒なことになる。間違いなく。あぁ、どうかこれがフラグになりませんように。……なったら頑張れ、未来の僕。
またもや閑話休題。
ミールィさんの装備の話だって。話が横道に逸れまくってしまった。暴走運転もいい加減にしよう。
彼女の装備は、神官服のままだった。別にお金が無いわけではないし、装備条件が設定されている物しか無いわけでもない。μ蘭が神官服を新しく作ったからだ。
それは時間にして10分にも満たなかったと思う。μ蘭が取り出した布地は彼女の裁ち鋏によって型を切られ、あっという間にミールィさんサイズの神官服に造られた。所々に意匠の変化が見られはするものの、ミールィさんが着ていたものと酷似していた。むしろ、その些細な変化はダークエルフという種族の特徴をより強調し、映えさせる見事な物だった。芸術に疎い僕にもミールィさんに似合うだろうと分かる。そして、そんな物を嬉しがらないわけもなく、実際に着たミールィさんはマジで天使かよってレベルの笑顔を僕達に見せてくれた。これには僕もμ蘭もフェルトも感嘆した。ファランなんか号泣していたし、マスタード君は「んぉっふ」とか謎の感想詞をこぼしていた。
その後の踊りで台無しだったけど。ミールィさん大歓喜である。ペンドラーペンドラーと踊って何を呼ぶ気か。
「こ、これは……!」
ミールィさんがえっさほいでほほいのほいな浮かれ気分でヒャッハーな感じだったけど、それを尻目に僕は重大なことに気付いてしまった。金が無いのである。ミールィさんの新調した神官服を買うとなると、残金から考えてミールィさんの杖を新調することが出来ない。いや、正確にはあるのだけど、本当にぎりぎりである。残金二桁になるかもしれないレベル。これはマズイ。こういう時はAWOのプレイヤーも食事をしないといけないシステムが面倒臭い。まさかゲームで食費について苦心する羽目になるとは。
うぬぬぅ……と唸る僕に、μ蘭がすすいとにじりよって来た。
「お兄さんお兄さん、お金にお困りですか?それなら良い話がございますヨ?」
「おい」
わざとらしく糸目にしてにひにひと笑う彼女は胡散臭いことこの上無い。わざとやっているのだろうけど、それがまた似合っている。なんだこいつと訝しんでジト目で見るも堪える様子は無い。そして、彼女は悪魔のように囁いた。
「お宅のお嬢さん、アイドルに興味等はございませんか?」




