生活用品は大体凶器
「…………………………どうも」
「あ、はい」
「……よろしく?」
「どうも」
「……マジお前どうした?」
「私にもちょっと分かんないのよ~」
僕が応え、ミールィさんが戸惑い、ファランが素っ気なく返し、フェルトが心配して、μ蘭が同意した男は、端的に言って情緒不安定な不審者だった。煤けた作業服をだらしなく着て、視線が安定しない。目を決して合わせず、そわそわと手先を動かす。ついでに、μ蘭に首根っこを掴まれて僕らの前に転がされているので威厳なんかも存在しない。
彼の名はマスタードというらしい。フェルトの話ではβにおいて1、2を争うレベルの生産職だったらしいのだけど……。
「…………」
「お、俺は知らねえぞ?こいつがこんな風になってるなんて知らなかったんだからな」
じっと無言でフェルトを見ると、面白いように慌てる。別に責める気は無いけどこれって僕達の依頼を受けてくれるのかな?
「その辺どうなの?」
「それならフェルトがなんとかしてくれるわよ」
フェルトに尋ねると、μ蘭が口を挟んできた。
「おいμ蘭!?」
「ね~。良いでしょう、フェルト?」
「良いでしょうって……はぁ」
にっこりと作られる悪意100%の笑みは、フェルトに了承代わりの溜め息を溢させる。フェルトは苦労性だね、間違いない。
僕は……フェルトがなんとかしてくれるまで、さっきの面白武器を見ていようかな?マスタード君も見る分には文句を言うことは無いだろう。そのマスタード君はというと、何故かミールィさんに頭を撫でられてファランに羨ましがられている。どういう経緯?
ま、気にしないでおこう。
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[バールのようなもの] 武器アイテム:棍棒 レア度:3
属性:? 耐久値 ?
STR+10
金属製の棍棒だが、片側がL字に曲がり先が鋭くなっている。まるでバールのようだ。火かき棒としても使える良質の一品。火曜サスペンスに出演しそう。
製作者:?
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[ツルハシっぽいもの] 武器アイテム:鎌 レア度:3
属性:? 耐久値 ?
STR+5 DEX+3
鎌なのに“斬る”よりも“刺す”に力を入れた、製作者渾身の一振り。その性質上、相手の肉体を削るような攻撃を繰り出せる。岩石に対して威力微上昇。トッテンカントッテンカン。
製作者:?
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[釘バット?] 武器アイテム:杖 レア度:3
属性:? 耐久値 ?
STR+2 INT+7
棒状の金属が生えていても杖です。赤い液体が付着していても杖です。杖なんです。尚、この杖で人を殴ると赤い液体の付着量が微増するスペシャル機能付き。
製作者:?
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マスタードぇ……。
とりあえず、目に付いた物を無差別に鑑定してみたのだけど、殆どがこんな風にネタ装備と揶揄されそう物ばかりだった。ランクも3と今まで見た中でも一番高いし、+値も初期装備の武器とは比べ物にもならない。それなのに、何故こうなった?分からない。良いぞ、もっとやれ!
僕こういうの好きだし、あるとつい使っちゃう。しょうがないね。ネタ装備は使ってなんぼだよ。で、そんな中に、僕の使えそうな武器が転がっていた。それがこれだ。
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[スコップ(断言)] 武器アイテム:槌 レア度:3
属性:? 耐久値 ?
STR+9
スコップである。これは紛れもなくスコップであり、それ以外にあり得ない。絶対にスコップであって、その他に何物も該当しない。これはスコップである。
製作者:?
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先ほどと変わらず属性や耐久値、製作者の欄が見えない。これはレア度が高く、僕の鑑定スキルのレベルが低いからだと思うけど、まあさほど気にすることではない。テキストの内容だが、やけにスコップだと言ってくる。と言うかテキストはそれについてしか言及していない。スコップではないと何かあるのかな?確かにこの[スコップ(断言)]はスコップと言うよりももっと別の呼び名がしないでもないと思うけど……。
うん。と言うかね、これって……
「スプーン、なんだよなぁ……」
そう、スプーンだ。これはスコップよりも縮尺を大きくしたスプーンと呼ぶべき物だと思う。スプーンよりはスコップと言った方が武器と考えやすいけど。これはスプーンと言った方が正しい気がするんだよなぁ。
ま、結局の所は製作者がスコップと言えばスコップなんだろうけどさ。
「あ、スプーン?」
あ、こら。僕が心の中で必死に納得しようとしてるのに、なんてことを言うんだ。と、横から僕の手元を覗き込んできたミールィさんをじっと見つめると、ウインクで返された。あら、可愛い。
「どうしたの?」
「ん~?別に何かってわけじゃないけど、九十九クンが何してるのかなって思ってさ。……このスプーンは武器、かな?」
こてりと首を傾げて疑問を露にするミールィさんに首肯で応える。
「うん。これでも、武器のカテゴリで槌らしいからね。出来たらこれを貰って使いたいなって」
「これを?って、あぁ。九十九クンって昔から何かと色物武器を使いたがったからね。今回もその悪癖が出ちゃったか~」
「あ、悪癖って……。こういう武器とか使ってて楽しいでしょ?」
「いや、私魔法職だし、武器は基本杖だからね?」
「あ、この[釘バット]は杖のカテゴリだよ」
「……彼はなんて物を作ってるんだろうねぇ」
「そう言えば、ミールィさんなんかマスタード君と話してなかった?彼はどうだった?」
「ん~……。まあ九十九クンなら言っても問題無いかな?」
「? よく分かんないけど口はそれなりに固いと思うよ」
ミールィさんの物言いに、なんのことかと訝しみながらもそう答えると、ミールィさんがちょいちょいと僕の服の襟を引っ張って顔を寄せる。どうやら内緒話らしい。
「(リアルでね、彼は好きな人がいたらしいんだよ)」
「(好きな人?まさか振られたとか?)」
「(そのまさか。昨日……リアルの方ね。で、告白したら見事に振られたっぽいよ)」
「「……それが何故こんな物らを作ることに?)」
「(何かに八つ当たりしたかったんだろうねぇ。振られるってのは悲しいことさ)」
「はぁ……」
「(でも、失恋もまた大人になるためには必要なことなんだろうね)」
「…………」
何言ってんだ、あんた。幼女姿でそんな世の中の酸いも甘いも味わった大人の女みたいな態度取られても滑稽なだけなんだが。
「ん~?何かな、その眼は?何か言いたいことでもあるのかな~?」
「いや、別に……」
おっと、ミールィさんが何やら察したか。ぐいぐいと顔を近付けて僕の目を覗き込んでくる。
あっはっはー。
なんでもないよ~と笑ってあげれば、ミールィさんはにこっと笑って僕の顔、正確には頬に手を伸ばす。当然させるわけもなく手を割り込ませて防ぐ。が、左の頬は防いだものの、右の方は気を配っていなかったから、ミールィさんの子ども手につままれてしまった。
うむ。優しい痛さ。
「ていっ」
「むにゅ」
やられっぱなしも癪なので。僕もミールィさんの頬をつまむ。
「…………」
「…………」
「…………お前ら何してんだよ」
お互いに頬を引っ張り合い、その間、無言で見つめ合う。
こんなしょうもない攻防は、フェルトが呆れた声で言葉をかけてくるまで続いた、




