ゲームでもアイドルになれる
そこからは、あれよあれよと言う間にトントン拍子で事が進んでいった。
「私、リアルでデザイナーやっておりますの」
ドッキリ大成功!みたいな顔でμ蘭がそう宣い、困惑する僕達に説明した。
まず、話は彼女がこのゲームを始めた理由にまで遡る。
μ蘭は、リアルではそれなりに名の知れたデザイナーだそうで、今は僕でも知っているアイドルグループの衣装を手掛けているらしい。へーっと言った感じだけど、ミールィさんも同じような風だった。どうやら彼女も知らなかったらしい。μ蘭がちょっと悲しそうだった。
そんなμ蘭だけど、ファンからの評判も上々。これは良い感じだなぁと思ってた折に、そのアイドル事務所から新しい依頼が舞い込んで来た。
“今度噂のゲームでアイカツするから君もデザイナーとしてプレイしない?”と。
つまるところ、μ蘭はゲーム内で生産職として衣装を作り、アイドルはそれを来てアイドル活動を行うという、運営も一枚噛んでるそれなりに大きな企画だそうだ。アイドルはゲーム内で活動することで僕みたいな人たちへの認知度を高める。運営はプレイする様子を彼女達が配信することで、様々な人に興味を持って貰って売上を上げる。Win-Winな関係というわけだ。そう言えば、そんな話を聞いたことがある気がする。
それだけで小市民たる僕は付き合いを絶ちたくなるのだけれど、この話は前座に過ぎなかった。彼女は、ミールィさんにそのアイドル活動に参加しないかと勧誘してきたのだ。
意味が分からない。いや、言いたいことは分かるのだけど、何言ってるんだってことだ。
「プロデューサーから頼まれてたのよ。プレイヤーの中で見込みのありそうな子ならゲーム内だけ、アルバイトみたいな形で参加させてみないかって」
もちろんゲーム内でもジルでだけど報酬は払うわよ、と続けるμ蘭の言葉に僕は反対の意を表明したが、ミールィさんが即座に引き受けたこと、μ蘭が、引き受けてくれたら僕とミールィさんの装備の代金を立て替えてあげると唆してきたことで、僕の意志はあっさりと折れた。
……僕って結構ちょろいんだなぁ。
そして、今。
きらびやかな衣装を纏い、笑顔を振り撒く彼女はどこから見てもアイドルだった。と言うか堂々とし過ぎじゃない?なんであんなに堂々といられるのか。あなたリアルだと半分引きこもりだよね?どこでそんな度胸を手に入れたのやら。そういう所がミールィさんの面白い所なんだけどね。
ミールィさんも気合いを入れて作ったアバターだったからかとても可愛らしい。けれど、ミールィさんと共に立つアイドルの人たちも本職らしく、そこら辺に疎い僕にもはっきりと分かる程に全員が美人さんだ。てか、何人かテレビで見た覚えのある人もいる。しかも、彼女達の凄い所は、彼女達のアバターはリアル準拠、つまりリアルの顔そのままということだ。立ち振舞いも完璧である。アイドルってすげー。
場所を街の中央の広間。特設ステージにて、ファンの為の撮影会が行われていた。当然ながら、我らがミールィさんも同じステージに立っている。ファンの人たちも最初は戸惑っていたものの、ミールィさんのやけに手慣れた立ち振舞いやその見た目の可愛らしさから、概ね好意的に受け入れられている様子。お兄さん一安心である。
見渡すと観衆の男達に紛れてファランが一心不乱に手を動かしているのが見える。絵を描いてるのか?手の動きにまるで迷いは無く、けれどその目はステージのミールィさんに釘付けだ。なんというか……狂気のようなものを感じなくも無い。気のせいか、彼の周りだけ人がまばらだ。怖いもんね。仕方ないね。
『皆ー!楽しんでるー?』
僕が密かに戦いていると、拡音された女性の声が響く。ステージの上で、さっきまでスクショを撮られてたアイドル達の一人がマイク片手に爽やかに笑っていた。「おおぉーーー!!」と、野太い声が広間に響く。あの人は確かリーダーの……朱美さん?
「お、明莉じゃん。良いよなぁ、あの子」
「………ソウダネー」
明莉だったかぁ。惜し、くはないか。フェルトありがとね。ファンの前で名前間違えるとか、自殺行為したくない。
『今日は新しく出たAnother World Onlineをプレイしてくれて、そして私達の応援をしてくれて、ありがとう!このゲームね、本当に凄いよ!皆はこうやってプレイしてくれてるから分かると思うけど、今までで一番リアリティーがヤバイっていう感じでね?』
そんな風に口火を切ると、軽快なトークが始まる。
ほーん。
なんというか、アイドルのコンサートライブってこんな感じなのかな?僕みたいによく知らない人の為に自己紹介から始まり、取っつきやすいゲームの内容と絡めて自分達がこれからゲーム内で活動することを広めている。ミールィさんも、ちょいちょいトークに混ざっていた。流石というかさっきと同様、如才なく対応していた。途中、ウインクをしてきたので手を振ってやると、ステージに立つアイドル達が揃って面白いものを見つけたような目を向けてきた。ついでに、フェルトも横でにまにまとした笑みを見せてきた。なんなんだ?
そして、最後に、
『私達の歌う新曲が、AWOのCMに使われます。発表はまだ先だけど、今ここにいる皆には、一足先に聞かせちゃうよーっ!』
「「「「「うおおぉぉーーーー!!」」」」」
ミールィさんが観客から惜しまれながら退場し、アイドルは最後の締めとして、歓声に応えるように歌った。
力強く爽やかで、心の沸き立つ歌。人よ、楽しめと。自由を謳歌しろと。それは、僕達の行く先を祝福する、祈りの歌だった。
ここでは、なんでも出来る。ここでは、なんにでもなれる。だから、楽しもう。生きよう。無限の可能性が、ここにはある。
胸が熱くなる。
うん。これは、良いな。
とりあえず、ログアウトしたらこのグループ……《フォーチュンテイルズ》だっけ?の他の歌を検索しよう。
僕は心のメモ帳に書き込みつつ、この素敵な歌に耳を傾けた。
**********
「じゃ、またな」
「またねー」
イベントは無事終わり、僕とフェルトはその場で別れる。フェルトはこれからまたレベリングをするらしい。う~ん、薄々感じてはいたけどフェルトって廃ゲーマーだよね。レベルはもう8だっけ?僕達とは3つも差がある。ま、僕達は僕達で楽しくやれば良いよね。
「えーと、ここか?」
ミールィさんは《フォーチュンテイルズ》の人たちと一緒にいるらしく、迎えに来てとメッセージを送ってきた。どうやら、退場した後彼女達に付いていって打ち上げに参加したようだ。いや、そこはせめて案内人ぐらい寄越して欲しいと、メッセージに添付された地図を見ながら思う。
地図を見ると、この定食屋っぽい店だと思うけど……『CLOSE』の札が下げられている。地図を見直し、少し道を戻って場所を確かめて、やっぱりここがそうだと確信する。
う~ん、とりあえずノックを。
コンコン
『あ、九十九クン?九十九クンだよね?!入ってどうぞー!』
「…………」
決め付けられて、若干面食らいつつもとりあえずの許可が出たから、入るとしよう。
「お邪魔しまー「「「「「いらっしゃーい!」」」」」すぅっ!?」
扉を開けて一発目にいらっしゃいの大合唱を貰い、思わず仰け反る。目に映るのは、先程までステージできらびやかに歌って踊っていた、アイドル達。ぴきり、と間近に出現した有名人に緊張する。あ、なんか柄にもなくドキドキしてきた。近くで見ると、その整った容姿がよく分かる。目を合わせるのもなんだか気恥ずかしくて、目があっちへこっちへクロール平泳ぎバタフライと泳ぎだす。
「九十九クーン!」
そんな僕を知ってか知らずか、能天気な声が響く。言わずもがな、ミールィさんである。両手を万歳し、子どものようにすててーと足音をたたせながら、走り寄ってくる。……遅い。流石AGI0。
あくびが出そうなのを噛み殺して、ようやく目前に着いたミールィさんが突きだした手に合わせて、僕も手を出すとぺしんと間抜け音のハイタッチを交わす。
「いえーい!」
「いえーい」
ご機嫌なようで何より。思わずほっこりする。アイドルの彼女達もほっこりしている様子。
うん。ミールィさんのお陰で緊張が解れた気がする。何の気なしに、ミールィさんの頭を撫でてやる。一瞬きょとんとした彼女は、すぐに照れたように頬を赤く染める。思わぬ反応に、僕も気恥ずかしくなってくる。
……はっ!
「…………なんでしょう?」
「「「「「いえいえ、何も?」」」」」
嘘つけ。めっちゃニヤニヤしてるじゃん。
くそぅ……。
「…………」
八つ当たり気味に、ミールィさんの頭をくしゃくしゃと掻き回す。ミールィさんはぎゃーと悲鳴を上げ、アイドル達は可笑しそうに笑った。




