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ブレイブ・セージ  作者: 真中太陽/原作:風陽しんわ
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=第六章=

 城壁の門を出て、一同は真っ直ぐに南東の山々を目指して進む。騎馬と歩兵の混合部隊。だが、スピードは歩兵に合わせ、また歩兵も若干の速足で馬に合わせる。この速さなら夕暮れ前には到着するだろうと思われた。


 道中に関してはほぼ広い草原地帯で、敵の魔物の発見は容易であった。それでもファロルド王に油断しないようにと釘を刺されていたので、ロベルフは何人かの騎馬兵を前方の見回りに、テーラも左右後方の見回りに何人か出していた。


 たまに後方に下がって最後尾の荷物番の役目も持つヴァースの様子を見るが……。


「大丈夫か? 重くないか? 辛くなったら言えよ? ……ははっ、そうか、お前は強いな」


 と、大量の荷物を背負う馬たちに向かって会話しているかのように話しかけている。それを気味悪がって後ろの歩兵士たちは少し距離をとっていた。

 テーラもため息をもらすが、とりあえず害はないし、放っておくことにした。


 南の方にはいくつかの村があり、向かっている南東の山との間にもちょうど村が一つある。騎士団はその村を休憩地点として考えていた。


 ちょうど昼ごろに到着する。

 村に到着した騎士団たちは、別の意味で驚いていた。

 【赤鬼】が出たという話だったが、村の被害はそれほどひどくなかったのである。前回現れた時は、その報告の時点で村は壊滅、死人も大勢いたと聞いている。


 しかし、今回は本当に姿を見せただけで、大した被害は出ていない。


 ロベルフ、テーラ、そしてそれぞれの副団長と、なぜかヴァースも呼ばれて、その村の自警団の長の家へと案内され、話を聞くことになった。


「【赤鬼】が出たっつーのに、えらい被害が少ないんだな?」


「……その言い方では、まるで残念がってるように聞こえるんですが?」


 ロベルフの言い方に不快を示した初老の男性だが、すぐにテーラが訂正に入る。


「申し訳ありません。正直、我らとしては、前回のことがありますゆえ、もっと被害が出ているものかと思っていたもので。むろん、被害が少ないことに、我らも一安心しているところです」


「そうですか。ですが、もし被害が多かったら、騎士団様たちの対応は遅すぎでは? 連絡は昨日の夕方過ぎには伝わっているはずです。それを一日も遅れてやってくるとは……。王は……あなたたちは私たちを軽く見ておられるようですね」


「なんだと……!」


 今度は長の言い草にロベルフが怒りを浮かべる。が、これもテーラが制す。


「おっしゃる通りです。誠に申し訳ありません。ですが、こちらも万全を期して当たらなければ二次被害の拡大を増やすだけですので、慎重になっておりました。報告でも、”見かけた”というだけだったと受けておりますので、その辺りはどうか配慮していただけるとありがたいかと」


「……」


 険しい顔で聞いている長に対し、テーラは言葉を選びつつ、丁寧かつ真摯に対応した。

 ロベルフは不機嫌そうに机をトントンと指で叩いていたが、長はロベルフの方を一瞥して、テーラに向き直って、頭を下げた。


「……すみません、私も言い過ぎました。確かに、被害が多ければあの王は、すぐさま騎士団を率いて駆けつけてくれたことでしょう。それに、報告も”見かけた”ということで相違はありません。奴が直接手を下したわけではありませんし……」


 その言葉に、テーラはほっと胸をなでおろす。それはロベルフを除いた全員がそうだった。

 ヴァースは、王がテーラを推していた理由を悟った。確かに、いくら強いと言ってもロベルフではまともに話もできなかったのではないかと思う。


「それで、奴はどこに現れやがったんだ!?」


「……」


 ロベルフの粗野な振る舞いに、長は無視するように口を閉ざす。


「……ちっ。テーラ、悪いが後を頼む」


 その様子にロベルフは立ち上がり、話し合いの場から出ていこうとする。


「……なんだよ」


「……別に」


 入口近くで立っていたヴァースに、ロベルフがガンを飛ばしならが聞く。それに対して真っ向から睨み返すようにヴァースも視線を受け止める。


「……ちっ」


 そのことに何か言いたそうなロベルフだったが、舌打ちだけして出て行った。

 その様子にテーラは小さくため息を吐きつつ、長に向き直る。


「……すみません。どうかお気を悪くしないでください。彼もあれで――」


「存じております。黒狼騎士団のロベルフ団長ですね。そして……”赤鬼の復讐者”」


「!」


「……復讐者?」


 ヴァースが話に食いつく。


「……最初はすぐにわかりませんでしたが……大きゅうなられましたな。ですが、こんなことを言う資格は私にはないでしょうが、どうか復讐のみに捉われぬよう、彼を支えてやってください。奴は、そういう相手を逆手に取るのを得意としますので」


「……あなたはいったい?」


「お恥ずかしい話ですが……私も元は彼と同じ村の出身なのです。そして……今と同じく、奴に滅ぼされた村の自警団の長でした」


「なんと……!」


「……」


 その場にいる全員が長の話に耳を傾ける。


「私も妻と娘を殺されました。そして、多くの仲間も……。当然、私は奴を恨み、憎んで戦いましたが……結果は惨敗。あまつさえこうしておめおめと生きながらえさせられる始末……」


「そんなことは……」


「いえ、言葉のとおりです。奴は戯れで私を生かした。そして、彼も……妹を目の前で殺され、その瞳には強い復讐の炎が見てとれます。ですが、あのままでは奴には勝てない。あなたは……新たな団長様でしょうか? でしたら、どうかお願いします。これ以上被害を出さないよう、奴を倒し、そして……私の村の唯一の生き残りの彼を、どうか守ってやってください」


 そう言って、長は最初の態度とは裏腹に深々と頭を下げた。

 その時に見えた、肩と首の付け根から背中の方へと続く大きな傷跡が、彼の過去の凄絶さを物語っていた。


「……必ず」


 テーラは決意を込めて彼の言葉に答えた。


「……」


 ヴァースは黙って聞いていた。


「ありがとうございます。……話がそれましたな。それでは、奴についての話し合いを行いましょう」


「はい」


 テーラに合わせ、その場にいる全員が頷く。


「……昨日の夕方でした。魔物が現れました。この辺りでも騎士団の方が見回りと討伐を行ってくださっていることは存じておりますが、それでも週に何度かは現れてます。といっても、数も一匹や二匹で、我々でも十分に対処はできました。ですが……その時はいきなり十数匹も現れて、我々にとっては大変な状況でした。……最初に辛く当たってしまったことは、完全な八つ当たりです。本当に申し訳ない」


 長は今度は謝罪の意味を込めて頭を下げる。


「……いえ、我々もすぐに駆け付けることができず……」


「いえ、騎士団の方々は見回りが終わった後でした。おそらく……奴はその機を狙っていたのでしょう。男衆は総出で立ち向かいました。幸い、死人は出ませんでしたが……重傷を負った者が何名がおります」


 その言葉を聞いたテーラがヴァースを見る。

 ヴァースもテーラの意図を察して頷く。そしてすぐに行こうとしたが、それをさらにテーラが止める。すべては、話を聞いてからだと。


「そして、なんとか魔物たちを半分まで倒した時……奴が現れた」


 その言葉に、長は思い出したかのように震えだす。


「……ははっ、情けない。思い出すだけでもこのざまです。ですが……おかげで見間違うはずもありません。確かに、奴でした。……奴への恐怖も、憎しみも私自身消えたわけじゃない。でも、こんな私を受け入れ、また自警団の長にと推してくれた皆のためにも、復讐だけに呑まれるわけにはいかない。それに、私では、奴を、倒せない……!」


 今度は怒りでぶるぶると震えている。


「……」


 ヴァースも、テーラたちも長の思いはひしひしと伝わっていた。

 少しして、再び話し出す。


「……すぐに王へと伝令を伝えました。そして我々は、最悪の事態も覚悟しました。ですが、偵察をするように姿を見せただけで、すぐに消えていきました。私は……そのことに心底ほっとしてしまった。追いかけたかった。一矢報いてやりたかった。でも……できない。できなかった。だから、せめてアジトだけでも探ろうと後を付けた。そして、すぐそこの山間の洞窟に入っていったところまで見ました」


「……賢明な判断です。そして、あなたのおかげで、奴のアジトがわかりました。あとのことは、私たちにお任せを」


「……頼みます。どうか、どうか! 奴を倒してください!」


 再び長は深く頭を下げた。その場にいる全員が、彼の思いを強く胸に刻んだ。



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