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そのほか細かい話を終え、全員が外に出る。
テーラたちも騎士団の元に戻る。食事を終え一休みしている彼らに簡単な説明ののち、ヴァースを先頭に回復呪文が使える者を、被害を受けた村の人々の回復に向かわせる。騎士団たちにも半分は移動の準備、残り半分は時間まで村の復興の手伝いを指示する。
そしてもう一人の団長を探す。すると、その少し離れたところに、見えないはずの山間の洞窟を睨むようにロベルフが腕組みをして立っていた。
「ロベルフ」
「テーラ……何かわかったか?」
「……ええ。とりあえず、向こうの洞窟が奴のアジトで間違いないみたい」
「そうか……」
テーラは長のことも詳しく話そうかと思ったが、彼の家を出る前に言われた「私のことは彼には黙っていてください。あんな態度をとってしまったてまえ……いえ、それ以前に私の思いまで背負っては、さらに視野を狭めるかもしれません」という思いをくんで、彼女は黙った。
「だったら、さっさと行くぞ」
「……流行る気持ちはわかるけど、まずは騎士団としてやることがあるんじゃない?」
「……そんなことは他のやつらにやらせればいい。俺がやることは一つ……奴を倒す!」
そう言ってロベルフはその場を後にする。
「ロベルフ……」
テーラは小さくため息をついた。
「これは本当に、長の言う通り気をつけないといけないかな」
ロベルフのことは別に好きではない。が、死んでもいいと思うほど軽薄な仲でもない。
「やれやれ……ヴァースのことといい、ファロルド王はなんでも私に押し付けすぎじゃないか? ……まんまと嵌められたような気がしてきた」
テーラはひとり愚痴って、とりあえずヴァースたち回復班と復興班を手伝いつつ、準備ができるのを待った。
騎士団の元に戻ったテーラに、ほどなくして長がやってくる。
「復興の手伝いまでしてくださって、本当にありがとうございます。貴女はとても気が利く方でいらっしゃいますね」
「いえ……騎士団として当然のことをしたまでです」
温和な態度となった長と話していると、ヴァースたちもほどなくして戻ってくる。
「あ、テーラ! こっちもだいたい終わったよ」
「そうか、ご苦労」
「この方は?」
長がヴァースを見て尋ねる。
「ああ……彼はヴァースと言って、今回私たちの回復係を務める者です」
「そうですか……」
そういうと、長はじっとヴァースを見る。
「……とても、不思議な目をした少年ですね。なにか……強い決意と、人を惹きつけるような魅力を持った……いやはや、失礼。年寄りの悪い癖ですな」
「いや~、長さんはそこまで年寄りって感じじゃないですよ」
「ヴァース……すいません、悪気はないので」
「え、俺なんか変なこといった?」
「はっはっは。わかってますよ。さあ、案内は私が努めます。準備ができたらいつでも言ってください」
そうして長が立ち去ろうとしたそこに、一人の女性がやってくる。
「あの……あなた、ですよね?」
「え?」
その女性は村人の一人で、ヴァースに用があるようだった。
「どうしました? こいつが何か粗相でも?」
「え、ああ、いえ……その、私は、お礼を言いに来たんです」
「お礼?」
「? 俺なんかしたっけ?」
テーラとヴァースが首をかしげる。
「なんかって……先ほど、傷ついた者たちを回復呪文で癒していたではありませんか。しかも、重傷の者まで一瞬で全回復してしまうような……その中に、私の夫もおりまして、本当になんとお礼を申し上げて良いものか。失礼ですが、あなたは”僧侶”のマスター様でしょうか?」
彼女の言葉に困ったのはヴァースだった。
「ああ、いや、俺は……」
「彼は、”大賢者”を目指す者です。そのための訓練もしております。ゆえに、人を救うのは当たり前のことです」
助け船を出したのはテーラだった。無論、今は彼も騎士団の一員ということにしてある。テーラとしても、ヴァースに変なことを言われるよりはフォローを入れた方がマシだという結論からの言葉だったが、女性と長は納得してくれたようだ。
「はっはっは! なるほど、”大賢者”ときましたか! これは将来のレテジス王国も安泰ですな!」
「まあ、どおりで。あの呪文は、確か……”フルケア”でしたか?」
”フルケア”――”僧侶”一級の回復呪文。”重傷と言われる傷さえも一瞬で治す超回復呪文である。真偽は定かではないが、切り落とされた腕や足さえも、くっつけて唱えればすぐさま元のように動かせるようになるらしい。ちなみに、元となる”ケア”が七級に当たる初期呪文で、擦り傷程度ならすぐに直すことができる。
「あ、いや、その、実は……」
「そうでしたか、私らのためにそんな魔法力を使うような呪文を……本当に、ありがとうございます」
ヴァースは何か言いたそうだったが、長も納得してしまったのもあり、テーラも目で「そういうことにしておけ」と言っていたので、ヴァースは、あははと愛想笑いしてできなかった。
「では、私はこれで。本当にありがとうございます。そして……【赤鬼】討伐、頑張ってください!」
それだけ告げると、女性は村の方へと戻っていった。
「では、私も……ですが、今出ると、おそらく奴のアジトに着くのは夕暮れ過ぎになってしまうでしょうが……大丈夫ですか?」
「……洞窟内であるなら、昼も夜も関係ないでしょう。それに、奴は今のうちに叩くべきかと思います。……これ以上の被害を出さないためにも」
テーラは真剣な面持ちで告げる。
「……そうですな。確かに、時間をかければ、それだけ奴にも時間を与えることになってしまう。わかりました。では、私も皆に伝えてくるので、後ほど」
「わかりました。お願いします」
そしてテーラと長もそれぞれ騎士団と村の方へと戻っていった。
「……俺、”ケア”しか唱えていないんだけどな……」
そう言ったヴァースのつぶやきは誰に聞かれるともなく、風に吹かれて空へと消えた。
「準備はいいか、おめえら!」
鎧と同じ黒馬に乗ったロベルフの声が騎士団へと広まる。
「いよいよ奴のアジトに向かう! 王も言っていた、それは過去からの因縁ではなく、未来を守るためだ! これ以上被害を出させねえためにも、必ず奴を倒す! 行くぞ、レテジス王国騎士団の名誉にかけて!」
「「「「「はっ!」」」」」
ロベルフの号令と共に、全員が出発する。




