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お待たせしてます。ゆっくりペースですが、よろしくお願いします
「ああ、ちょっと待て、ヴァース」
「はい?」
呼び止めた王は、ヴァースに向かって一本の剣を投げる。
「わっ、とと! え、王さま、これは?」
「貸してやる。貴重な”魔法剣”だぜ?」
「魔法剣?」
「サバウドーラ」
王は説明が面倒になったのか、サバウドーラに丸投げする。
その意をくんで、ため息を一つ吐いて説明に入る。
「……魔法使いが武器に何を使うか知ってる?」
「え、そりゃ……杖でしょ?」
「半分正解。確かに、魔法使いにとっては杖が一般的で一番効率がいいの。なぜなら魔力を通しやすい上に増幅もしてくれる。でも、別に杖にこだわる必要はないの。通しやすくて増幅してくれるなら、何でも良いの。たとえば杖の次に有名なのは魔法書がそうね」
「あ、なら俺の――」
「前も言ったけど、あなたが大事に持ってるその本は、魔法書でもなんでもないから」
「そうですか……。じゃあ、剣は?」
「もちろん構わないけど、一つ問題があるの。剣は……というか、杖以外そのほとんどは魔力を通しにくい上に、増幅もしてくれない」
「そなの?」
「イメージの問題も大半を占めるけどね。魔法はその大部分が自身の魔法力とイメージに頼るから、自然と”魔法使いは杖”というイメージが強いほど、杖じゃないと無意識に力を出しにくいわけ。それとその素材も重要なの。魔力を通しやすい素材というのは、そのほとんど、耐久力が低い。剣士みたいな使い方をしていたらすぐに折れちゃうわね」
「……確かに」
「かと言って耐久力が高い素材は逆に魔力を通しにくいの。だから普通は剣など不適切なわけ
「なるほど……でも、じゃあ、この剣は……」
「”普通は”と言ったわ。その剣は例外に当たる、”魔法剣”。つまり、剣でも魔法を通しやすく、増幅もしてくれる。でも、そういう剣って造るのが非常に難しい上に、最低でBランクの高級品なんだから。上位クラスの”魔法剣士”が主に使う貴重な剣で……リヴァール団長が前に使っていた剣なんだから、大事にしなさいよね!」
「そんな貴重な剣を……ありがとうございます!」
「……改めて言っておくけど、今回あなたはサポートが目的で、剣で戦うことはほとんどないはずよ。終わったらちゃんと返すように。もし壊したら……」
「……こ、壊した、ら?」
「……二百万ゴールド」
「にひゃくまん!?」
この世界の一般の人の賃金が一月約二十万ゴールド。その十倍。
持っている剣に対してガクガクと震えだすヴァース。ましてや自分はほぼ一文無し。壊したら借金地獄が待っている。
「……”壊したら”だ。身を守るために使って折れちまったら、そりゃ不可抗力だから見逃してやるよ。ああ、それと例の衣裳部屋に行け。俺が昔使ってた鎧も貸してやる。ボロッチィが、まだまだ使えるだろう」
「……王様、前々から思っていたのですが、彼に対して異様に甘すぎません? 仮にも一国の王がそんな贔屓して良いと思ってます?」
「かてぇこと言うな、サバウドーラ。その剣だってリヴァールのお古で、あいつにも好きに使って良いって言われてるんだからよ。……それに、あのじじいとの約束でもあるしな」
「「?」」
最後のポソリと言った言葉は、ヴァースにもサバウドーラにも聞こえなかった。
「とにかく、その剣を使えば、何も持ってない今の状態よりは、多少安定して魔法は使えるようになるだろうし、剣としてももちろん使えるから十分に戦えるだろう」
「……王様、面倒な説明を私に押し付けて、何勝手にまとめてくれてるんです?」
サバウドーラのジト目を王はそっぽを向いて受け流す。
「……ファロルド王、サバウドーラさん、ありがとうございます!」
ヴァースは二人に心を込めて頭を下げた。
「……ヴァース」
ファロルド王は、まだ文句を言いたそうにしているサバウドーラを遮って、言葉をかける。ヴァースが顔を上げる。
「……死ぬなよ」
「……はい!」
ヴァースは二人に見送られて王の間を退出し、衣装部屋によって鎧を受け取る。
確かに、ボロイと言えばその通りだが、使い込まれているその鎧は見た目に反してかなり頑丈で、不思議なあたたかさを感じた。それをメイドさんの力を借りてなんとか装備させてもらい、借りた剣も腰につける。
ついでに小さな鞄ももらって、そこに大事な本を入れて担ぐ。
メイドさんにお礼を言って、ひとまずの恰好がついたヴァースは、心の中でファロルド王に深い感謝を捧げつつ、急いで外へと向かった。
城門の前ではすでに準備を済ませたロベルフとテーラが待っていた。
「ごめん、遅くなって」
「ちっ……」
ヴァースが来たことを確認して、ロベルフは舌打ちして先に外に出る。
その態度にムッとするヴァースだが、遅れてしまったのは自分が悪いので、我慢する。
「……それはファロルド王の鎧か? 剣も、リヴァール団長の……?」
装備を整えてやってきたヴァースに、テーラが質問する。
「あ、うん。ファロルド王が、貸してやる、って」
「……ずいぶんと気に入られているんだな。そういえば、一度会ったことがあるんだったか?」
「らしいね。俺は覚えていない、と、思う。言われればなんかうっすらあるようなないような……。むしろ、じいちゃんと仲が良かったみたいだし、そのおかげ、かな?」
「……お前の祖父は、いったい何者なんだ?」
「……わかんない。たぶん、じいちゃんも”賢者”だったことは間違いないだろうけど……」
ヴァースもその辺は気になってるらしく、しかし、答えを知っているはずの王は答えてくれず、祖父も亡くなってしまっていては、知るすべは今のところない。
「……まあ、今は置いとくとしよう。それでは行くぞ。お前は私の隊の一番後ろについてこい」
「わかった! それじゃ、”鬼退治”にしゅっぱ~つ!」
「遠足じゃないんだぞ!」
ロベルフの隊はすでに行軍を開始している。それにテーラもどこか浮ついた感じのヴァースをたしなめつつ、サバウドーラから預かった騎士団を率いて行軍を開始して城壁の外へと向かった。




