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第九話

 俺と御堂さんが教室に入ると、教室内は水を打ったように静かになる。

 いくつもの視線が俺の身体に突き刺さる。

 うっ、めちゃくちゃ気まずい……。

 まるで教室内の空間そのものに圧があるような息苦しさがある。でも、御堂さんはそんな空気なんて存在しないように涼しい顔で歩いて行っちゃう。

 俺は、その後を俯きながら付いて行く。


 自分の席に辿り着いて座ると、同じグループの人達がジッと俺を見詰めてくる。

 な、なんか言って。無言でこっち見続けないで……。


「し、資料、出来た?」

「ッ!? あ、あぁ……だいたいは」


 俺が口を開くと、周りがピクッと反応を示す。

 なんなんですかこの状況は?

 グループ以外からの視線も感じるし、まるで無数の監視カメラに睨まれてる気分だ……。


「あのさ……一条って、あいや、一条君って御堂さんとどんな関係?」

「え? どんな関係って、それは……どういうこと?」


 何この質問!? どういう意図があるの?

 もしかして『お前ら付き合ってんの?』的な感じ?

 周りから見たら俺と御堂さんって付き合ってるように見えるのかな?


「どういうことって、それは……しゃていとか、そういう」

「しゃてい? ん?」


 しゃてい……射程?

 御堂さんが射程圏内かどうかってこと? 落とせるのかどうか聞かれてる?

 恋のライバルとして警戒されてるのかな……。


「いや、それは俺もよくわからな――」

「皆さん、資料作成は完成しましたか? 発表を始めたいと思います」


 俺の言葉は先生に遮られる。

 それと同時に、俺に集まっていた注目が先生の方に逸れた。

 さっき質問してきた男子も、俺への視線を先生の方へと向ける。

 ……御堂さんは可愛いしね。そりゃあ、狙ってる人も多いよな。

 俺はそっと、薬指の絆創膏を撫でる。

 脳裏に鮮明に思い浮かぶ御堂さん。「お揃いだね」って微笑む顔。

 御堂さんが誰かと付き合うの、見たくないなぁ……。


 順番に発表が始まったけど、俺は半分上の空でそれを眺め続けた。

 でも、御堂さんのグループが前に出ると、意識は一瞬で彼女へと向いてしまう。

 御堂さんが発表係で、ハッキリとした声で政策について説明してる。

 彼女の凛とした声が耳に心地よく響く。


「以上が、私たちの考えた政策です」


 発表が終わって頭を下げる御堂さん。

 俺は反射的に盛大な拍手を送ってしまった。

 パラパラと拍手がなる中、俺だけバチバチバチッ! と手を叩いてしまい、再び注目を浴びる。

 なんなら、あちこちからヒソヒソと囁き声まで聞こえる。

 やってしまった……。

 顔が熱くなるのを感じながら、俺はチラッと御堂さんの様子を窺う。

 うっ、またあの見守るような優しい微笑みを向けられた……。

 また幼い子供だと思われてるのかも……。


 意気消沈したのも束の間、すぐに自分たちの発表の番が回ってきた。

 グループの人たちと一緒に黒板の前に立つと、否が応でもクラス中の注目を浴びる。

 ……って、なんか俺だけ見られてない?

 俺の他にも三人いるのですが? 何これ、自意識過剰なだけ?


「え〜、私たちのグループの考えた政策は――」


 俺たちは四人全員で分担して発表する形になった。

 一人で発表するよりもハードルは低いけど、できれば発表は完全回避したかった。

 そうこうしているうちに、俺の番が回ってきた。

 四人の中で一番最後。

 緊張する……。


「自分たちは、えーと、社会保障も大事だと考え……」


 なんか俺が話してる時だけさっきよりも静かじゃない?

 気のせい? みんなめっちゃ見てくるし、まぁ俺が話してるから普通と言えば普通なのかな?


「少子高齢化が、深刻化していくので、その……あ〜……」


 あれ? なんだっけ? 緊張しすぎて言うことが飛んだ! あれ? 何を話せばいいんだっけ? や、やばい!


「つまり、自分たちの考えは……えーと……」


 まずいまずい! 落ち着け、落ち着け俺!

 あぁ、もう! みんな俺を見ないでくれっ!

 軽いパニックに陥って、クラスの注目から逃げるように視線を彷徨わせていると、ふと御堂さんと目が合った。

 その瞬間、御堂さんが優しく微笑んで頷いてくれた。……ような気がした。


「…………税金の取り方に工夫が必要だと考えました。まず一つ目の工夫は」


 なんだろう。他のクラスメイトの視線は緊張するのに、御堂さんの視線は落ち着ける。

 ドキドキはするけど、なんか頭の中がスッキリするような感じがある。不思議な感覚だ。


「――以上で発表を終わります」


 ……なんとか発表できた。

 パラパラとまばらな拍手にペコペコと頭を下げる。

 一刻も早く注目の場から立ち去りたい。その一心で自分の席に戻る途中、御堂さんの近くを通りかかった瞬間。


「お疲れ」

「っ!」


 御堂さんが労いの言葉を!?

 しかも、すごく可愛い微笑みで言われた!


「う、うん……」


 やばい、顔がニヤケそう。

 俺は顔に全力で力を込めて、真面目な表情を維持したまま、急いで自分の席に戻った。


 その後は特に何事も起こらず一時限目は終了した。

 今日は朝から濃い一日だな。

 御堂さんへの挨拶に失敗して、御堂さんが怪我をして、御堂さんに絆創膏をあげて、御堂さんとお揃いになって、御堂さんに声をかけられて……。

 ……びっくりするくらいに御堂さん一色だ。


 俺は、通路側の御堂さんの席を見る。

 彼女はいない。休み時間になるのと同時に、教室を出てしまった。

 基本的に、自由時間になると御堂さんは教室から姿を消してしまう。

 いつもどこに行ってるんだろ?


 って、また御堂さんのこと考えてるし……。

 はぁ、でもさっき声をかけてくれた時、俺にコミュ力があればもっとマシな反応ができたのかな?

 爽やかに「御堂さんの発表も良かったよ」なんて返せたら格好良かったのにな。

 ぎこちなく頷いて、立ち去ることしかできなかった自分が憎い。


 俺は小さく溜息をついて、教室の窓の外に目を向けた。


「天気、曇ってくれないかなぁ……」


 このままだと、ずっと御堂さんの事を考え続けちゃいそうだ。

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