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第四話

 私は期待していた。

 高校生になれば、何か変わる。そう思ってた。

 『御堂』に付きまとう煩わしさから、少しは解放される気がしてた。


 ただの御堂朱莉として、普通の女子高生になれる。

 そんな、根拠のない淡い期待を抱いてた。


「お嬢、お帰りなさいませ!」

「……ただいま」


 深々と頭を下げてくる厳つい男に、私は軽く返事をする。

 私の家は極道だ。

 詳しい事は知らない。というより知りたくないんだけど、結構昔からの有名な家らしい。

 だから、地元では有名。そのおかげで私は常に周りからこう見られている。

 

 ――極道の娘。


 そんな人物がクラスにいたら、変な空気になるのは当然だよね。

 中学生の時は、常に周りから距離を取られていた。

 でもハブられていたわけじゃない。

 きっと私の反感を買うのが怖かったんだと思う。極道の娘の機嫌を損ねたら、何をされるかわからないもんね。


 だから、私は自分から周りと距離をとった。

 気を遣わせるのも悪いし、正直、そんな空間にいるのは私もしんどい。


 もう一つ『御堂』で辛いのは、私が普通にしようとしても、周りが普通にしていてくれない事。


「お嬢、こんな時間に外に行くんですかい?」

「ちょっと散歩したい気分なの」

「夜は危ねぇですから、護衛をつけましょうか?」

「いらない」

「ですが――」

「いらないってば」


 私は静止を振り切って外に出る。

 私の家は『正道会』とかいう組織で重要なポジションらしい。直系とかなんとか。

 でも正直そんなのは、私とは関係ない。私はただの御堂朱莉なんだから。

 ……なのに、周りはそう思ってくれない。


「へぇ、正道会トップを張る御堂組のご令嬢が、こんな時間に一人で散歩かい?」


 夜道を歩いてると、ニヤニヤした笑みを浮かべた男が暗闇から現れた。

 堅気の人間じゃない。まとう空気が荒んでる。

 その男の後ろからさらに数人の男が出てきた。


「何の用?」

「ちょっとお願いしてぇんだよな。お前の父ちゃんに電話してくれねぇか? アンタのためなら一千万、いや一億くらいポンと出すだろ」


 そう言いながら、男は右手に握ってる物を私に見せる。

 街灯の明かりに照らされて、それは怪しく光る。


「お嬢ちゃんも痛いのは嫌いだろ?」

「はぁ〜……めんどくさい」


 私は溜息を一つ吐くと、大きく踏み込んで男の右手のナイフを回し蹴りで吹き飛ばす。


「なっ!? テメェ!」

「はっ」

「ぐべぇっ!」


 武器を失って激昂する男の腹に、私は前蹴りをお見舞いする。

 すると男は面白いくらい簡単に吹き飛んで、そのまま後ろの電柱に激突して動かなくなった。


「クソアマァ! 何してくれてんじゃっ!!」

「うるさいって」


 襲いかかってくる手下たちの攻撃を体捌きで避ける。そして、適当にカウンターを合わせて倒す。

 ものの一分で、夜の路地裏に男五人が転がった。


「はぁ……マジでウザい」


 私は胸に湧き上がる不満を溜め息と一緒に吐き出しながら散歩を再開する。

 私は小さい頃から空手や柔道、剣道なんかを習わされてきた。他にもボクシングやムエタイなんかも。本当に色々やらされた。

 そのどれも、指導者がビックリするくらいの速さで上達していった。

 だけど、私はそれが嫌でしょうがなかった。格闘技の才能がある自分が嫌いだった。

 なんで、女の子らしく美味しいお菓子を作るとか、裁縫が上手とかそういう才能じゃないのよ……。

 プロボクサーと対等にスパーリングする女の子なんて嫌よ……。


 私の周りにまとわりつく嫌な環境。

 中学の頃は漠然と高校生になるまでの辛抱。って自分に言い聞かせてた。

 でも、高校生になってみても何も変わらなかった。

 そして、この生活がまた三年も続くのかと思うと息が詰まりそうだった。


 友達と一緒に帰りにクレープ屋に寄る。

 みんな集まって、ファミレスでテスト勉強をする。

 好きな人の話題で盛り上がる。

 気になる男子と、ドキドキしながら一緒に帰る。


 全部、私には叶わない夢になっちゃった……。

 そんな絶望を抱えながら、雑談で賑わう教室にいるのは辛くて。

 私は常に一人でいられる場所を探してた。

 

 そして、曇りの日の屋上を見つけた。

 私の心を表してくれているような曇りを見ると、少し心が落ち着いた。

 空が私に寄り添ってくれてるみたいで。


 そんな私のお気に入りだった曇りの屋上に、ある日一人の男子生徒が現れた。


 一条 真白(いちじょう ましろ)君。

 


 彼は、私を見てビックリしてた。

 そう、ビックリしてただけ。恐怖や不安じゃなくて、ただ驚いていただけ。

 少し会話をした後は、すごく離れたところで一人でご飯を食べていたけど、それも私に気を遣った感じじゃなさそう。

 多分、内気な性格なのかも。


 また別の曇りの日にも、彼は屋上に来てた。

 前回話した時も思ったけど、一条君は話してて面白い。

 緊張して余裕なさそうなところも少し可愛い。


 彼といると、まるで普通の女子高生になれている気がして、心地良かった。


 それ以来、私は曇りの日に屋上に行くのが少し楽しみになっていた。

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