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第三話

 耳元で鳴り響く不快な音。

 顔を顰めながら目を覚ました俺は、元凶の騒音を響かせているスマホを握りしめて画面を適当に連打する。

 ピタッと鳴り止む不快音。

 少しスッキリとした気持ちでスマホを眺める俺。

 そして絶叫した。


「寝坊だっーーー!!」


 ベッドからの豪快ジャンプで跳ね起きた俺は、そのまま階段を三段飛ばしで降りてリビングに突撃する。


「お母さん! なんで起こしてくれなかったの!」


 真っ先に文句を言うと、キッチンから説教じみた返事が襲来した。


「しょうがないでしょ! お母さんも寝坊したのよ!」

「夜遅くまで海外ドラマ見てるからだよ」

真白(ましろ)も高校生なんだから、朝くらい自分で起きなさい!」


 うっ……これ以上の反論は止めておこう。藪蛇になりそうだ。


「……朝ごはんは?」

「まだお米が炊けてないから、食パンで我慢して。はいこれ」


 そう言ってテーブルに並べられたのは、トースターで焼かれた食パン二枚と、生焼けのウィンナー三本。


「………………」

「なにかしら?」

「いえ、いただきます」


 これ以上文句を言って、夜ご飯無しとかになったら最悪だ。

 生殺与奪を握られている俺は、どんな料理もありがたく頂くしかないのだ。うん。

 ……せめてマーガリンは欲しいのですがお母様?


「あら、また今日も曇り? 最近天気良くない日が続くわね〜」


 キッチンに立ったまま、お母さんはスマホで天気を調べて顔を顰めている。


「もう、洗濯物乾かないじゃない」


 不機嫌そうなお母様はそっとしておいて、自分でマーガリンを取ってこよう。

 でもそっか、今日も曇りなのか。ふーん。


「真白、あんたなんでニヤニヤしてんのよ?」

「へ? いや別に、ニヤニヤなんてしてないし」


 慌てて食パンを頬張ってお母さんから表情を隠す。

 って、痛っ! パンの耳が歯茎に刺さった!

 なんでトースター使ってるのに耳が焦げてんの?

 でも、文句は口に出さない。夜ご飯のためにもね。


 それに、寝坊したせいで急いで食べないとマジで遅刻してしまう。

 お母さんの小言アタックは全力で回避したい。


「あ、そうだ。今日お弁当作る時間ないから、はいこれ」


 そんな言葉とともに、ポンと千円札が一枚テーブルに置かれた。


「…………?」

「これで適当にお昼買いなさい」

「えぇ〜。コンビニ寄ってたら遅刻しちゃうよ」

「何言ってんの、購買があるでしょ。そこで買いなさい」

「あそこは競争率が凄いんだよ。俺が行っても何も買えないよ」

「根性出しなさい。男の子でしょ」

「そんなぁ……」


 今日は曇りで少しテンションが上がっていたのに、下手したら昼ごはんが手に入らないかもしれないという、重大懸念事項が発生してしまった。


「ほら、早く食べていきなさい。遅刻しちゃうわよ」

「はい……」

「あ、それと今日は曇りのち雨らしいから、傘も忘れずにね」


 お母さんの言葉に頷きながら、俺は急いで朝食をかき込んで、傘を握って家を出た。


 学校へと向かう道を全力ダッシュしながら、空を見上げる。

 どんよりとした曇り空。

 それを見ると自然と口元が緩くなる。


「今日も御堂さん、いるかな?」


 そんな呟きを漏らしながら、俺は遅刻ギリギリの登校道を走り続けた。

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