第二話
曇天の屋上以来、俺は御堂さんが気になってしょうがなかった。
御堂朱莉。
同じクラスメイトである彼女はいつも一人だった。
でも、俺みたいにコミュ力が低くてぼっちって感じではなさそう。
なんというか、周りからすごく気を遣われているというか、慎重に扱われているというか。
で、御堂さん本人もちょっと周囲から距離を取ってる感じ?
クラスメイト達とは挨拶を交わしたり、軽く会話をしているから、虐められてるとかではなさそう。
友達がいれば、御堂さんのことを聞けたりするんだけど、今のところそんな友達ができる予定はない。悲しい……。
御堂さんのことが気になる。
でも、彼女のことを知る術がない。本人に話しかけるなんてもってのほか。
度胸のかけらもない自分自身に、苛立ちすら覚えながら送る学校生活。
そんな悶々としたとある日。
心情を表すような、どんよりとした曇り空。
俺は再び屋上で弁当を食べることにした。
「っ!? み、御堂さん!?」
「一条君、また会ったね」
いつも通りぼっち飯をしようとしていた俺は彼女と再開した。
「あ、う、うん! その今日も……いい曇り空だね!」
何言ってるんだよ俺!? いい曇り空って意味わかんないよ!
「ふふっ、そうだね。いい曇り空だね」
ふわりと柔らかく笑う御堂さん。
普段の彼女は、凛とした美しさを纏ってる。少し張り詰めたような、ちょっと近付きづらい雰囲気。
でも今は、その気高い美しさが少し鳴りを潜めて、女の子らしい柔らかい空気を纏ってる。
そのギャップにドキドキしてしまって、俺は余計な事をどんどん口走る。
「だ、だよね! 特にあそこの雲がいい感じなんだよね! こう、灰色のグラデーションが最高で……」
だから何言ってんだよ俺!
雲のグラデーションなんかどうでもいいよ! 全部ただの灰色だよ! もっと他に聞きたいことがあるだろ!
「グラデーションって、やっぱり一条君って面白いね」
「っ……あ、ありがとう」
「うーん。あ、あそこの雲はちょっと可愛いかも」
「え? ど、どこの雲?」
「ほら、あのちょっと青空が見えてるところの左側」
そう言って指差す御堂さん。
俺は必死にその先に目を凝らした。
「えと……あのフワフワした丸いやつ?」
「そうそれ。可愛くない?」
「う、うん。可愛い……ね?」
……可愛いのか?
そもそも雲に可愛さを求めるものなのか?
御堂さんって意外と、何に対しても「可愛い」とかいう人なのかな?
そんなことを思いながら、俺は横目に彼女の様子を窺う。
少し鼓動が落ち着いて、色々と疑問が湧き上がる。
なんで、クラスでいつも1人なのか。
なんで、みんなから距離をとっているのか。
なんで、曇りの日に屋上にいるのか。
聞きたいことはたくさんある。
でも、何一つ聞き出せない。怖くて聞けない。
代わりに、俺はどうでもいい会話を続ける。
「俺はあの黒い雲が良いかな。なんか硬くて強そう」
「硬いって、雲だよ?」
「いや、そうだけど……ほら! ちょっとずっしりとしてて、重心がしっかりしてるというか」
「重心、ふふっ」
また御堂さんが笑った。
とても可愛い笑顔で。
聞きたい事は何も聞けない。表面上だけの意味のない会話。
もどかしさを感じながらも、その会話はとても楽しかった。




