第一話
高校生になるタイミングで、親が転勤になった。
俺も住み慣れた街を離れて、一緒について行くことにした。
一瞬、一人暮らしなんてことも頭をよぎったけど、冷静に考えて無理だ。
一か月で餓死する自信がある。
でも、高校に入学してから少し……いや結構後悔した。
知らない街に引っ越してきたわけだから、当然友達もいない。
そして、コミュニケーション能力が高いとはいい難い俺は、当然のように新しく友達を作ることに失敗した。
同じ中学からのグループで固まっているクラスメイト達。
完成されている人間関係に割って入る度胸のない俺は、そのままボッチ街道を突き進んだ。
そして、淡い桜がすべて散り、青々とした葉桜が生い茂る頃には、立派な孤立人間が完成していた。
「はぁ、今日はどこで昼飯を食べようかな……」
四時限目の終わりを告げるチャイムに重ねて呟く。
クラスメイトたちは昼休みの訪れにテンションが上がっているけど、俺にとって苦痛の時間の始まりだ。
「天気が悪いから、今日は屋上で食べるかな」
普通なら天気が良い日に屋上だが、俺の場合は逆だ。
天気の悪い日に屋上で食べようなんて人は居ない。つまり、ぼっち飯を誰かに見られる事はない。
弁当片手にそそくさと教室を出ると、そのまま階段を駆け上がって屋上へと向かう。
そして、厚く日光を遮っている曇天の下に出た俺は、先客がいたことに驚いた。
「あれ? 御堂さん?」
屋上のベンチに座っていた同じクラスメイトの彼女は、少し驚いたようにこっちを見てくる。
「……一条、君?」
一拍遅れて俺の名前を口にする御堂さん。
まぁ、所詮俺は教室の隅のモブだからな。逆に名前を知っていてくれていたことにビックリ。
「こんな天気に屋上に来てどうしたの?」
不思議そうに首を傾げる御堂さん。
綺麗な絹のような黒髪がサラサラと流れる。
「え? あ〜その……」
ぼっち飯を見られたくないからここに来た。
とは言えない俺は、視線を泳がせながら、言い訳を考える。
「その……俺さ、曇りが好きなんだよね。なんかこう、分厚い雲を見ると、心が落ち着くというか、風情を感じるというか、侘び寂びだなって感じ?」
「侘び寂び……?」
「あ、いや、えと、ほら! 曇りだと紫外線も少なくて、お肌に良いしね!」
「お肌?」
「お、俺、美容男子目指してみようかな〜なんて……最近、その、いや、そんなことはないんだけど……えと」
色々苦しくなってきた……。
これ以上言い訳が思いつかない。
「ふふっ、一条君って面白い人だったんだね」
「え?」
「侘び寂びを語る美容男子。キャラ濃過ぎ」
「あ、あはは。そ、そうだよね! 侘び寂びか美容か、どっちか片方に絞るべきだよね!」
「そういう問題じゃないと思うよ?」
「そ、そっか。そうだね……」
くすくすと口に手を当てて笑う御堂さん。
うぅ……顔が熱い。
「あの……御堂さんはなんで屋上に?」
「私? 私も……曇りが好きなの」
そう言うと御堂さんは、厚い灰色の空を見上げる。
その横顔は、一瞬世界が止まったと思うくらいに綺麗で、でもなんだか少しだけ、辛そうにも見えた。
そして、彼女はそのまま俺を見て言った。
「一緒だね」
にっこりと笑う寂しげな御堂さん。
どうして一人でいるの?
なんで、そんな顔で笑うの?
それを聞けない、踏み込めない自分の不甲斐なさに、俺は無性にもどかしさを感じた。




