第一話 ルクスの原点
『魔石』を収めた僕は、雲一つない紅に染まりきった空を見上げる。
「そういえば、あの日もまたこんな悲しげなそれでいて美しい空でしたね。」
僕が物思いに耽っていると、ケルトスが僕の方へ歩いてきた。
「おい、ルクス・シャッテン。」
「おや、何用でしょうか?ケルトス副軍将閣下。僕は先ほど『宝石の獣』を討伐し、『魔石』を納めこれより宿舎の自室に戻ろうというところなのですが。」
「フン、吾輩とて貴様のような移民と話したくもないが。今回ばかりは例外だ。貴様、『義賊』は知っているな?」
おや、驚いた。まさか彼からその名前が出てくるとは。彼は『七星戦記』の主人公側の人物だ。だが、ケルトスと彼に接点などというものはないはず。
「ええ、最近巷を騒がせている貴族や裕福なものたちから物を盗み市民へ分け与えるとされる人物でしたね。以前から生活が苦しい下町では救世主扱いされているという噂もまた耳にしましたね。」
「そうだ。全く民草も情けないとしか言いようがないな。コソ泥程度を救世主扱いするとは。まあそれももうすぐ終わる。それを捕らえる計画が今水面下で進行中だ。貴様も、これまでに我が国の重大な資源でありエネルギー物質たる『魔石』をいくたびも収めたその功績をもとに、その計画の一端に関わらせてやろうではないか。感謝しろよ、うん?」
(なるほど、そういえばその計画が始まるのがこの時期でしたか。この作戦かなり穴が多いからか、ほぼほぼ失敗するでしょうね。ですが断ったら、後が怖いですし。)
「承知いたしました。ケルトス副軍将閣下のご慈悲に感謝を。それでは、僕はこれにて。」
「うむ、早めに準備をしておけよ。」
そうして、僕は宿舎へと向かうふりをし墓地へと向かった。
◇
「お久しぶりです。父さん、母さん。最後に来てから三ヶ月が経ちましたね。これでも僕は帝兵になったもので忙しい日々を過ごしております。そっちではゆっくりと争いもなく過ごせていますか?まあ母さんならともかく、父さんは少し心配ですが。」
僕は、『アルテシア・シャッテン』と『レオナルド・シャッテン』と刻まれた墓標の元に両親が好きだったワインとパンをおく。
「二人が亡くなったあの日から、もう10年になります。僕は今年で十五になりました。以前も言いましたが、ああできることなら十五の誕生日だけは二人に祝って欲しかった。と言っては、二人も怒りますよね。」
(何度思い返してみても、あの日には苦痛しかありませんでしたね。)
◇
目を閉じると、常にあの好きだった街が焼け野原になってしまった姿が思い浮かぶ。
あれは今日のような雲一つない青空の日だった。
僕たちシャッテンの一族は、決して裕福とはいえず差別も受けながらも穏やかに暮らしていた。当然五歳の時に目覚めた『前世の記憶』は秘密にしてだが。だが、そんな楽しくそして穏やかな生活が突如として終わりを迎えた。
初めは、一つの竜だった。宝石によって形取られた、一頭の竜。『宝石の獣』の中でも上位に位置する
『白金獣』と呼ばれる物でありその一頭で街すら滅ぼすと言われる災厄。その災厄が、強烈な咆哮をあげ僕たちが住んでいた街の上空を訪れた。
その翼が動くと周囲の建物は倒壊しその咆哮は、周囲の生物を硬直させた。まさに災厄そのものと言ってもいい。
「行きなさい、ルクス。私たちはあなたを道連れにはしたくはない。」
「よく覚えておけ。ルクス、父さんたちはな誰かを守るために力を振るったんだ。そのことだけは、決して忘れるなよ?たとえ、誰かに愚弄されようともたとえ誰かに俺たちを馬鹿にされようとも例え誰かが
『シャッテンの一族』を馬鹿にしようともそれだけは覚えておけ。」
それが両親の最後だった。一人一人が特殊な能力を持つ『シャッテンの一族』その中でも最強と呼ばれる両親は武器を持って家族と街を守るために『白金獣』という獣の形をした災厄に勝負を挑んだ。そして、敗北した。
『宝石の獣』にもまた『シャッテンの一族』のように、特殊な能力を持つ者がいたのだ。人々はそれを、特異生物と呼んだ。
その『白金の獣』もまた『特異生物』と呼ばれる者だった。
戦闘はまさに一進一退の攻防だった。そんなギリギリの戦いで、両親は敗れた。
それでも、両親はその『白金獣』を追い詰めていた。そして、最後の最後で『白金獣』は周囲にいた天将に討ち取られた。だが、その天将はその功績をあろうことか、
『あの雑兵程度の移民如きがいたとしても、我にとっては邪魔にしかならぬ』といい放った。
両親が追い詰めた姿を見ていたはずなのに、一言もその事を言わずあろうことか戦闘の邪魔をしたとさえ言った。目撃者も僕以外に何人かいたがそんな彼らもまたその男だけで成し遂げたと言いはった。
そうして、男はその功績を買われ人員が減少していた『六星将』へと昇格した。
「今思い返してみても腹が立つ。父さんたちの功績を蔑ろにしたあいつも、父さんたちに救われながら僕たちが移民だからという理由で言わなかったあいつらも。」
だからこそ僕は決意した。軍に入り、この腐りきった帝国を変えることを。そのためにはまず、
(闘技大会で勝たなくてはいけないな。全く、酷なものだ。いや、当面の問題は『義賊』だな。彼を今殺させるわけにはいかないし。さてどうするものか。)
改めて決意を固め、僕は今僕にできる限り『義賊』の片腕を失わせないための準備をするため、僕は空を見上げていった。
「行ってきます。」
そう言い終えると今度こそ宿舎の自室へと向かって歩き始めた。
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