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転生皇后 藤原彰子 〜 欠けることのない望月の世は私が創る 〜  作者: 条文小説


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六十三 女房たちの結び

挿絵(By みてみん)


 女房同士の友情を「女の仲良しごっこ」と嘲る男房が現れる。彰子は大伴坂上郎女おおとものさかのうえのいらつめの存在を語り、女性同士の感情や連帯も文学になり、力になると示す。女房たちは自分たちの関係を軽んじられた怒りを共有し、彰子方の結束が強まる。

 女同士の関係は、軽く見られやすい。


 前世でもそうでした。女性同士で助け合っていると、


「仲良しグループ」


「女子会」


「感情でつながっているだけ」


「仕事に私情を持ち込むな」


「派閥でしょ」


 などと言われる。


 男性同士が酒を飲んで根回しをすれば「人脈」。先輩後輩で引き上げ合えば「組織力」。同期で情報交換すれば「横の連携」。


 なのに、女性同士が互いの事情を聞き、助け合い、怒りを共有し、知恵を渡し合うと、急に「仲良しごっこ」扱いされる。


 不思議である。いえ、不思議ではありません。評価する側が、その関係の価値を見ようとしていないだけです。


 人を支える関係。感情を言葉にする関係。孤立を防ぐ関係。知識を共有する関係。困った時に逃げ込める関係。それは立派な社会基盤です。


 ただ、男の評価軸に乗らないことが多い。だから、軽く扱われる。でも、軽く扱われるからといって、軽いわけではありません。


 ここは平安宮中。女房たちの世界は、単なる奥の雑談ではありません。文を取り次ぐ。歌を返す。情報を集める。香を整える。紙を管理する。帝や公卿の反応を見極める。主の御殿の空気を作る。文化を育てる。


 女房同士の関係が弱ければ、御殿はすぐ崩れます。藤壺がここまで来られたのは、紫式部一人の筆だけではありません。赤染衛門の整え。有子の記録。春枝の紙。若菜の香。澄子の灯。小少将のしつらえ。常盤の噂読み。菅原の君の語り。花橘の君の儀礼。真葛の君の批評。朝顔の君の進行補佐。薄墨の君の静かな聞く力。それらが、互いにかみ合ったからです。


 これは、仲良しごっこではありません。組織です。いえ、赤染衛門に言わせれば「御殿を支える女房たちの結び」です。


 その大切な結びを、雑に踏んだ男がいた。名を、藤原の少将という。そこそこ家柄があり、そこそこ歌ができ、そこそこ顔もよく、そこそこ自信がある公卿です。


 つまり、厄介である。


 突出した才がない者ほど、自分より低いと見なした相手を軽く扱うことで、地位を確認しようとすることがあります。


 前世でも、そこそこ仕事ができる男性社員が、女性事務職のネットワークを「女子の噂話」と笑っていました。


 でも、実際にはその「噂話」によって、会議室の手配、資料の修正、来客対応、上司の機嫌、取引先の好みまで回っていました。知らないだけです。


 知らない者ほど、笑う。


 その少将は、藤壺の小宴に招かれていました。その日は、女房たちがそれぞれの役目を自然にこなし、場はよく整っていました。


 若菜の香は控えめに流れ、澄子の灯は言葉が沈む明るさに整えられている。春枝が選んだ紙は手触りよく、有子は反応を静かに記録している。小少将の几帳の色は、今日の物語に合っていた。


 菅原の君は、長くなりすぎず、続きを残す語りをした。朝顔の君は、出すぎずに場をつなぐ。花橘の君は、近すぎない美しさで儀礼を整える。


 真葛の君は、批評を棍棒にせず差し出す。薄墨の君は、場の端で疲れた者に気づいている。常盤は外の流れを見ている。赤染衛門は全体を雅にまとめる。紫式部は、少し離れて筆を置いていた。


 よい場だでした。少将も、最初は感心していました。


「藤壺は、近頃ずいぶん整っている」


 それだけ言っていればよかった。しかし、男は余計なことを言う。いや、全ての男がではありません。この少将が、です。


 菅原の君が語り終えた後、女房たちが小声で互いをねぎらっていました。


「今日の香、語りに合っていました」


「灯の加減がよかったです」


「菅原の君、止め方が見事でした」


「朝顔の君の一言で、場が柔らかくなりました」


 それを見た少将が、扇で口元を隠しながら笑った。


「女房たちは、まこと仲がよろしいこと」


 最初は、ただの言葉に聞こえました。しかし、次が悪かった。


「女の仲良しごっこも、ここまで来れば御殿の趣になるのですな」


 藤壺の空気が止まった。


 若菜の手が止まる。春枝が紙箱を抱え直す。菅原の君の顔が赤くなる。常盤の目が細くなる。真葛の君の棍棒が半分出かける。


 朝顔の君が前に出そうになって自制する。薄墨の君が、場の温度が下がったことに気づいて目を伏せる。赤染衛門は、筆を置いた。紫式部は、ゆっくり顔を上げた。


 女の仲良しごっこ。


 この一言に、どれだけの軽蔑が詰まっているか。女同士の助け合いは、本気ではない。仕事ではない。文学ではない。政治ではない。ただ、仲良くしているだけ。そういう見下しだ。


 菅原の君が何か言おうとした。しかし、怒りで言葉が詰まる。真葛の君が言えば、正論の棍棒になる。朝顔の君が言えば、場が派手に燃える。常盤が言えば、外へ噂として広げる方向へ走る。


 紫式部が言えば、たぶん後世まで刺さる文章になる。それはそれで見たい。でも、ここは私が出る場だ。


 私は扇を手に取った。


 ぱちり。


 音が藤壺に落ちた。


「少将」


「はい」


 少将は、悪びれずにこちらを見た。自分が軽く場を笑わせたと思っている顔だ。最悪である。


「女同士の結びを、仲良しごっことおっしゃいましたか」


 少将は少し笑った。


「いえ、悪しき意味ではございません。女房方が互いに褒め合う様子が、何とも微笑ましく」


「微笑ましい」


「はい。男たちの政や歌の競いとは違い、柔らかで」


 出た。


 褒めているようで下に置く言い方。柔らか。微笑ましい。愛らしい。女らしい。それらは時に、相手の力を奪う言葉になる。


 私は微笑んだ。


「万葉の昔の、大伴坂上郎女おおとものさかのうえのいらつめをご存じですね」


 少将が、少し怪訝な顔をした。赤染衛門は静かに筆を取る。


「姫様」


「はい」


「覚になりますね」


「なります」


「題は」


坂上郎女さかのうえのいらつめの歌、女同士の結び」


 赤染衛門がさらりと書き留める。私は少将を見る。


「大伴の家を支え、一族の女たちの感情を数多くの歌に残したお方です。娘や姪、仕える女たちへ向ける細やかな思い、友と離れる寂しさ、共に過ごす時間の美しさや、教え導く言葉。それらを歌にした人です」


 少将の笑みが少し薄くなった。


「ほう。万葉集の代表的な歌人でございますな」


「ええ。彼女の残した歌は、男同士の武勇や出世争いだけが歴史や文学ではないと教えてくれます」


 紫式部が、静かに目を細めた。菅原の君はほとんど身を乗り出している。落ち着いてほしい。


「女性同士の感情も、立派な文学になります」


 私は言った。


「そして女性同士の連帯も、家や御殿を支える強い力になります」


 赤染衛門が筆を走らせる。


「一緒に笑うこと。怒ること。傷ついた人のそばにいること。互いの才を見つけ、役割を与え、守ること。それを軽く見てはなりません」


 少将は扇を少し動かした。


「しかし、政を動かすのは男たちでございましょう」


 藤壺の空気がさらに冷えた。


 よし。


 この男、地雷を踏み抜く才能がある。


「その政の場に出る文を整えるのは誰ですか」


 私は尋ねた。少将が少し黙る。


「帝や公卿が訪れる御殿の空気を作るのは誰ですか」


 若菜と澄子が目を伏せる。


「歌合の題札を整え、判者の反応を記録し、見物人の噂を読み、物語を育て、贈答の筋を通し、写本の流出を防ぐのは誰ですか」


 有子の筆が止まるほど、場が静かになった。


「男たちが『政』と呼ぶものの周囲には、女房たちの働きがあります」


 私は声を低くした。


「それを見ずに、仲良しごっこと笑うのは、見えていないものを見えていないまま軽んじているだけです」


 少将の顔色が少し変わった。ここで強く責めすぎると、相手は恥をかかされた男として反発する。でも、今日は少し恥をかいてもらう。言葉には責任がある。


「少将」


「……はい」


「あなたが先ほど楽しんだ藤壺の整いは、女房たちの結びによって成り立っています」


 私は続けた。


「若菜が香を整え、澄子が灯を見て、春枝が紙を選び、有子が記録し、小少将が色を合わせ、菅原の君が語り、朝顔の君が場をつなぎ、花橘の君が儀礼を整え、真葛の君が言葉を磨き、薄墨の君が揺らぎを聞き、常盤が外の流れを読み、赤染衛門が全体を支える」


 女房たちの名を、一人ずつ出した。


 これが大事です。「女房たち」ではなく、名前を持つ人たちである。


「この関係を、軽いものと見ますか」


 少将は、もう笑っていなかった。


「……失言でございました」


 藤壺が静まる。謝罪としては早い。だが、まだ浅い。私は言った。


「失言を、ただ取り消すだけでは足りません」


 少将が顔を上げる。


「では、何を」


「見たものを、正しく言葉にしてください」


 少将は戸惑った。


「正しく」


「はい。今日の藤壺で、誰のどの働きが場を支えていたか。ひとつでよいので、言葉にしてください」


 これは難しい。男の評価軸から降りる第一歩は、見えていなかったものを言語化することだ。


 少将はしばらく黙った。やがて、若菜の方を見た。


「……香が、物語の邪魔をしませんでした」


 若菜が少し驚いた顔をする。


「強い香ではないのに、語りの後に残った。あれは、若菜の君の工夫でございましたか」


 若菜は静かに頭を下げる。


「はい」


 少将は次に、菅原の君を見た。


「語りも、以前より短く、しかし続きが気になりました」


 菅原の君の目が揺れた。


「それは、菅原の君の技でございましたか」


「……はい」


「そして、朝顔の君の最後の一言で、場が明るくなりました」


 朝顔の君が少し笑う。


「ありがとうございます」


 少将は、深く頭を下げた。


「私は、見えておりませんでした」


 よし。最低限、ここまで来た。私は扇を膝に置いた。


「女同士の結びは、飾りではありません」


 赤染衛門が筆を構える。


「文学にもなり、政治にも関わり、御殿を支える力になります」


 菅原の君が、震える声で言った。


「姫様。坂上郎女様の、女へ向けた歌は、どのようなものなのですか。恋の歌は存じておりますが……」


「たとえば」


 私は少し考えた。


「愛しい者の声や姿を見た時の胸が震えるほどの情愛、離れて暮らす寂しさ、互いを気遣う細やかな心。そういう、きわめて個人的で繊細な感情が、相手の女房や娘に向けて詠まれています」


 紫式部が静かに言った。


「男君へ向けたものに劣らぬほど、女の内側の震えを、軽んじずに言葉にした人なのですね」


「ええ」


「それは、強いです」


「はい」


 文学とは、戦や王の物語だけではありません。心が動いた瞬間を、言葉として残すこと。誰かとの関係が自分の世界を変えること。他者との結びが、孤独を変えること。それも文学です。


 そして藤壺は、まさにそれをやっています。紫式部の物語も、女房たちの覚も、感想札も、地方へ送る文も、香の記録も。全部、人と人の関係を言葉にしています。


 それを「仲良しごっこ」と呼ばせてはいけない。


 その日の宴は、少し緊張を残しながらも終わった。


 少将は、退出時にもう一度頭を下げた。


「本日は、学びました」


 常盤が小声で言った。


「本当に学んだでしょうか」


「少なくとも、次から言葉を選ぶでしょう」


「それは学びです」


「はい」


 だが、宴の後の藤壺は、静かではありませんでした。女房たちの怒りが、遅れて燃え始めたからである。


「仲良しごっことは、何ですか」


 最初に言ったのは真葛の君だった。棍棒は出ていない。ただ、怒っている。


「私たちがどれほど役割を持って動いているか、何も見ておられなかったのですね」


 若菜も、いつになく強い声だった。


「香も、ただ焚いているだけと思われていたのでしょうか」


 春枝が紙箱を抱える。


「紙も、誰かが勝手に出していると思っているのです。きっと」


 有子は静かに言う。


「記録は、残って初めて見えるものですが、残す前の働きは軽く見られがちです」


 朝顔の君が珍しく前へ出すぎずに言った。


「私も、以前は目立つことばかり考えていました。でも、今は分かります。誰かを立てることも働きです」


 薄墨の君は、小さく言った。


「仲がよいから、言えることもあります。仲がよいから、早く気づけることも」


 菅原の君は、涙目で言った。


「私たちの関係は、物語になります」


「なりますね」


 紫式部が静かに言った。全員が紫式部を見る。


「女同士の関係は、男君をめぐる嫉妬や争いだけではありません。支え、怒り、慰め、言葉を渡し合う。それも書くべきものです」


 菅原の君が震えた。


「式部様……!」


「泣くと話が進みません」


「はい」


 赤染衛門が筆を取った。


「では、覚をまとめましょう」


 題は、


 ――女房たちの結びを軽んぜぬ覚。


 記載事項は六つ。


 一、女房同士の関係を、単なる私情として軽んじない。

 二、互いの才を見つけ、名前を出して評価する。

 三、怒りや傷つきを共有することは、御殿の結束を強める。

 四、女性同士の感情や連帯も、文学と文化の源である。

 五、男の評価軸だけで、御殿の価値を測らせない。

 六、見えない支えを、言葉と記録に残す。


 最後の一行に、赤染衛門はこう書いた。


 ――女房の結びは、御殿を支える根なり。


 その一文を見た時、藤壺の空気が少し変わった。


 根。


 表からは見えない。花ほど華やかではない。枝ほど目立たない。だが、根がなければ木は立たない。それは、女房たちの関係そのものだった。私は言いました。


「男の評価軸から降りましょう」


 赤染衛門の筆が止まる。


「姫様」


「はい」


「雅に」


「お願いします」


「『男君らの目にのみ価を預けぬこと』」


「採用します」


 私は女房たちを見る。


「帝や公卿に評価されることは大切です。宮中で生きる以上、それは無視できません」


 皆が静かに聞いている。


「でも、それだけを価値にしません。男が見たか、褒めたか、恋の対象にしたか。それだけで、私たちの働きを測らせません」


 紫式部が頷く。


「自分たちの言葉で、自分たちの価値を記すのですね」


「はい」


 有子が記録帳を閉じた。


「では、残します」


「お願いします」


 その日から、藤壺では少しだけ習慣が増えた。宴や朗読会の後、誰かが誰かの働きを一つ言葉にする。


 若菜の香がよかった。澄子の灯で語りが聞きやすかった。春枝の紙が手に馴染んだ。有子の記録で後から振り返れた。


 小少将の几帳で場が落ち着いた。菅原の君の止め方が効いた。朝顔の君が場をつないだ。花橘の君の距離の取り方が美しかった。


 真葛の君の指摘が届きやすかった。薄墨の君が疲れに気づいた。常盤が噂を広げすぎず整えた。赤染衛門が言葉を雅にした。紫式部が一行で場を沈めた。


 褒め合い。と言えば、少将ならまた笑うかもしれない。でも、違う。これは評価です。


 互いの働きを見えるようにする、小さな記録です。


 前世で言えば、ピアレビュー。いえ、言いません。赤染衛門がこちらを見る前に飲み込みました。


 でも、効果は大きかった。女房たちの結束が強まった。誰かが褒められると、他の誰かの価値が減るのではありません。むしろ、御殿全体の価値が増えます。


 そういう感覚が育ちました。藤原の少将の失言は、結果として藤壺の根を強くしました。数日後、少将が別の場でこう言ったと常盤が聞いてきました。


「藤壺の女房たちは、ただ仲がよいのではない。互いの働きをよく見ている」


 私は頷きました。


「少し学びましたね」


「はい。少し」


「少しでよいです。最初は」


 定子方からは、また別の声が届いた。


「藤壺では、女房同士で褒め合う会まで始めたとか」


「本当に仲良しですこと」


「男君方に見てもらえぬから、内輪で慰め合っているのでは」


 常盤が伝えながら、少し怒っていた。


 私は少し笑いました。


「言わせておきなさい」


「よろしいのですか」


「はい」


 私は扇を手に取った。


「私たちは、もうその評価軸だけでは動きません」


 菅原の君が、静かに頷いた。


「坂上郎女様のように、女同士の感情も歌になるのですね」


「ええ」


 紫式部が言う。


「そして、歌になるものは、力になります」


 その通りです。言葉にならない関係は、軽く見られる。でも、言葉にすれば残る。残れば、力になる。


 万葉の言の葉は、古い時代から、長い時を越えて残りました。もちろんすべてではありません。それでも、男たちの勇ましい声の陰で、女が女を思いやった古い歌は、今も私たちの胸に届く。


 女の声は、消えやすい。だからこそ、残す。藤壺の女房たちの名も、働きも、怒りも、連帯も。


 私は扇を鳴らした。


 ぱちり。


 女房たちが姿勢を正す。


「女同士の結びを、軽く扱わせてはいけません」


 赤染衛門が筆を構える。


「それは慰めであり、知恵であり、文学であり、御殿を支える根です」


 薄墨の君が小さく頷く。朝顔の君が誰かの名を出す準備をしている。真葛の君は言葉を整えている。春枝は記録に合う紙を選んでいる。


 若菜は香を控えめにした。澄子は灯をやわらかくした。有子は一人ずつの働きを書き留めた。常盤は、外へ流すべき言葉を選んでいる。菅原の君は、もう泣きそうだ。


 花橘の君は、静かに微笑んだ。赤染衛門が、最後の一行を書いた。紫式部は、その一行をじっと見ていた。


 ――女房の結びは、御殿を支える根なり。


 藤壺の棚に、また一枚、覚が増えた。


 ――女房たちの結びを軽んぜぬ覚。


 坂上郎女の歌は、遠い万葉の昔に生まれたものだ。

 けれど、その声は、今の平安の藤壺にも届いている。


 女が女を思うこと。女が女を支えること。女が女の才を見つけること。女が女の怒りを共有すること。

 それは、ただの仲良しごっこではない。


 文学であり、政治であり、生き延びるための連帯です。男の評価軸から、少し降りる。その瞬間、藤壺の女房たちは、互いの顔を見ました。


 誰かに見られるためではなく。


 互いを、見るために。

〜 出典 〜

『万葉集』巻六・992


 古郷の飛鳥はあれど青丹よし奈良の明日香を見らくしよしも


(訳)昔の都であった飛鳥あすかの地は今もありますが、この美しい奈良の都に移された新しい明日香(飛鳥寺=元興寺)の里を見るのは、素晴らしいことです。


 平城京遷都に伴って移転してきた元興寺(飛鳥寺)周辺の里を詠んだ歌。「青丹よし」は奈良にかかる枕詞。旧都の飛鳥を懐かしみつつも、今の新しい都(奈良)にある明日香の風景を美しく讃えている。


〜 舞台背景 〜

 大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ、生没年不詳)は、『万葉集』の代表的歌人。大伴安麻呂と石川内命婦の娘。大伴氏の刀自(婦人の長老)として、大伴氏の一族を支えて、家政を取り仕切り、宗廟の祭祀、親戚の宴を主催した。皇族ではない異例の、佐保邸(万葉集巻4-721)や、春日の里(同725・726)の個人地で詠んだ奉納歌を、聖武天皇に献歌していて、勢力が拡大する新興貴族の藤原氏に対抗して、氏長者の家持がまだ若い既存貴族の大伴一族を守るためと指摘されている。出典:wikipedia

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