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上杉憲政も仲間にしよう

「ん、お前はポチか。いったい何処からわしの部屋に侵入したのだ?」

「ああ、憲政様。そんなことは置いといて、ボクと話しをして『関東の地に平和をもたらす』ことに代わる、新たな生きる目的を見つけてみませんか」

「お前、ポチにしては変なしゃべり方だな。もしかして、お前がポチに封印されたとかいう怨霊か?」

「憲政様、正解です。ボクはポチの身体を一時的に借りて、憲政様と会話をしています」

「ふん、お前も禅僧のように全てを投げ打って今すぐ出家しろとか、浄土宗の連中みたいに南無阿弥陀仏と唱えて、どんな悪人でも救ってくださる阿弥陀如来に感謝しろなどと言うのではあるまいな。そもそも、怨霊とは人の世に禍をもたらす存在ではないのか?お前の言うことなど、わしは聞かんぞ」

「ボク的には、姫様や憲政様の側近衆に頼まれたんで、しかたなくやってるだけなんですけど・・・。とにかく、今の憲政様は屈辱の日々を送っていて、自分ではどうすることも出来ないから自暴自棄になっているんですよね。でも、山内上杉家の全てを政虎様に譲るというのは大英断だったと思いますよ。なにしろ、上杉家中はバラバラでしたから、政虎様とか武田信玄とか北条氏康みたいな化け物じゃないと、存続させるのも難しかったでしょうしね。それより、ボクは憲政様が以前言っていた『変態道を極める』という言葉に感心しているんですよ。その方向で、憲政様は能力を発揮したらどうですか?」

「ふん、あれはただのでまかせだ。わしには、なんの考えも展望もない。それに、お前の言うことなど聞かぬと何度も言っているであろう」

「まあまあ、折角なのでこの絵をご覧下さい」

そして、おっさんは一枚の絵を憲政に渡した。もちろん、おっさんが直前に幽界図書館で書いたやつね。

チラリとその絵を見た憲政は、激しい衝撃を受けた。

「なんだ、この助平な絵は。しかし・・・、不思議と目を離すことができぬ」

その絵には、半裸美少女が烏賊に触手責めされている様子が描かれていた。もちろん『蛸と海女(葛飾北斎)』のオマージュね。

「うむ、この絵こそ変態道の極みと呼ぶに相応しいが、弱々しいはずの美少女が烏賊に責められることで、逆にとてつもない存在感を放っておる。これは、もしかして・・・」

「そう、この美少女は弱々しい存在ながら、不条理なまでの強烈な強さを放っている。言い換えると、この美少女は相反する属性(弱さと強さ)を持ちながら、紙上で不条理なまでに調和し超克した状態にあるのです。これこそが、日本人の追い求めてきた最高の美意識である『幽玄』だと、ボクは確信しています」


注:世阿弥は「強さの中に幽玄があり、幽玄の中に強さがある状態を至高」と言っていたので、烏賊が美少女を触手攻めする絵の中には『強さと幽玄』が共存していると説明するのが正確なのかも知れないが、本作品では『強さと幽玄』が矛盾なく調和し超克している状態を『幽玄』と定義しておくよ。


「ほう、これが幽玄美というものか・・・。それで、お前はこれを見せてわしにどうしろというのだ?」

「憲政様は、今まで色々悪あがきをしてきたけど、何一つ成功していない。山内上杉家という名門に生まれたけど、何もできなくて何も成し遂げていないことに屈辱を感じているんでしょう?」

「お前、人が気にしていることを遠慮無く言うよな。ちっ、その通りだ。わしは武家の名門に生まれながら連戦連敗で、何一つ成功させたものがないんだ。このまま悪名だけ残して死んでいくのが、わしは何よりも口惜しい。というか、同じ武田軍を相手に戦ったわしが愚将で政虎殿が義将なのも納得できん」

「正直、憲政様が政治や軍事面で歴史に名を残すのは無理でしょう。であれば、その道はきっぱりと諦めて、別の道を探すのが良いんじゃないですかね」

「お前は、わしに何をしろというのだ。早く結論を言え」

「憲政様は、自分で変態道を極めると言っていたではないですか。変態的で助平な芸術作品を創り出すことに、活路を見い出したらいいんじゃないですか。正直、憲政様からは徽宗、足利義政、土岐頼芸と似た雰囲気を感じるんですよ。それに、人間は男女を問わず皆助平だから、成功する確率は高いんじゃないですかね。それとも、政治や軍事で成功する道を目指しますか?でも、自分に向かないことを目標にしても、苦しいだけだと思いますよ」

「ふん、凡人のわしが政治や軍事で成果を出すのは無理だ。むしろ、わしが口出しすることで、世の中は悪い方向に進む気がしてならん。であれば、自分の好きなことをして残りの人生を面白おかしく生きた方が、世のため人のため自分のためということか。そして、わしが美の巨人たちに唯一勝っているのが、変態道なわけだな」

「そうです、憲政様は助平な絵で天下を取るのです。万人受けはしませんが、知る人ぞ知る絵の天才として、後世に名を残したら良いんじゃないですか」

「しかし、何度も言っているが、わしには最後までやり遂げたものが何一つ無いんだ。わしに、芸術作品を完成させることなどできるのか?」

「そこは、精神論です。最後まで頑張って、完成させるしかないっすね。ボクも物語を書いたことがあるから分かりますけど、一つの作品を完成させるのって結構難しいんですよ。書きたいことを書きなぐるのは簡単だけど、広げすぎた風呂敷がたためないとか、文章としてまとまっていないとか、前後で矛盾だらけというのはよく有りますからね。でも、憲政様は助平なことが大好きでしょう?」

「そうだな。若い頃のわしは、気に入ったおなごには必ず手を出しておったぞ。まあ、そのせいで正室にはいつも怒られていたがな」

「そうそう。興味のあることなら、最後までやり遂げられますよ。そうだ、折角なのでこれも見て下さい」

おっさんは、一枚の紙を憲政に渡した。

「うん、これは詩か?それにしても、愛だの別れだの涙だの、陳腐でありきたりな言葉が繰り返し書かれておるのう」

「憲政様、それは完成形ではありません。その詩を歌にするとどうなるか。憲政様に、真の芸術というものを見せて差し上げますよ。姫様、憲政様の側近衆を連れて部屋に入ってきて下さい」

「ふっふっふ、ようやくわたくしの出番になりましたね。小幡様と大石様、打ち合わせ通り笛と琵琶の演奏をお願いします」

「「姫様、準備はできております」」

「では、いきますよ」

雛鶴は、すーっと息を吸った。


・・・・・


ララララララーラララーララーララーラララー


・・・・・


ララララーララララー、ラララーラーラララー


・・・・・


「どうですか、憲政様。湖面を吹く風のような、爽やかで素敵な歌でしょう」

雛鶴は、にぱっと微笑んだ。

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