特殊イベント発生、図書館を使って上杉政虎を味方にしよう 後編
そんなわけで、茶室に到着したおっさんは床の間に螺鈿紫檀五絃琵琶(の模造品)を飾ると、政虎と雛鶴に座るよう促し、ドリンクバーの冷たい抹茶を振る舞った。
ちなみに、政虎に用意した器は正倉院瑠璃杯で、雛鶴に用意したのは耀変天目茶碗(加賀前田家伝来)ね。
「そうそう、ポチにも水と干し肉をあげるよ」
「おっさん、ありがとうだわん」
一方、政虎と雛鶴は、器の美しさを絶賛していた。
「ふうむ、この気品ある蒼き瑠璃の杯。素晴らしいな。それと、そこの琵琶。螺鈿細工が実に見事だ。五絃琵琶なんぞ初めて見たぞ」
「まあ、なんて可愛らしい天目茶碗。油滴天目みたいだけど、虹色に輝いているわ。この虹色って、螺鈿みたいね。『おっさん』さん、これらの品の由来を教えて下さいな」
「えーと、床の間の琵琶と政虎様の瑠璃の杯は正倉院御物(の模造品)です。それから、雛鶴姫の虹色の天目茶碗は、南宋時代に建窯で作られた曜変天目の要素を持つ油滴天目なんですけど、どう分類すべきかは議論があるようですよ。たしかに、他の曜変天目茶碗とは、ずいぶん趣が違いますよね」
「余も琵琶を嗜むが、四弦琵琶しか演奏したことがない。五絃琵琶の弦を、はじいても良いか?」
「どうぞ。ちなみに、この琵琶は楊貴妃が聖武天皇に贈ったものだと言い伝えられていますよ」
政虎は、撥で弦をはじいた。
「ふむ、これが天平の音色か。そして、この瑠璃杯。図書館とは、宝物庫でもあるのか?」
「これらは、全てボクの想像力が生み出した模造品です。ボクは、以前これら国宝の模造品を見たことがあるので、それを思い出しながら(業政の)神力を注ぐと、・・・。ほら、こんな感じで模造品が現れるのです」
おっさんは、『正倉院 THE SHOW』で見た螺鈿箱を再現して、政虎に渡した。
「ほう、これも見事な品だ。螺鈿細工が虹色に輝いている。ところで、神力とは何だ。それがあれば、ここにある物を現世に持ち出すこともできるのか?」
「神力とは、人々の想い(恨みや妬み)の力とか信仰心を源としているみたいですよ。業政様は、領民が上州の守護者として崇めることで、神になってしまいました。図書館とかロケットも業政様の神力を使って再現したのですが、神力を無駄遣いするなと怒られてしまいましたよ。まあ、未来への影響が無くて、長野家の存続に役立つことであれば、多少神力を使っても大丈夫みたいですが」
「ふむ、左様か・・・。螺鈿紫檀五絃琵琶と瑠璃杯、実に見事であった。褒めてやろう」
すかさず、雛鶴は政虎の懐に入り込んだ。
「では、父上様(業政)の葬儀費用の工面について、政虎様は協力して下さるのですね?」
「あーん、そこの業政の娘。余は、話は聞いてやると言ったが、協力するとはひとことも言っておらぬぞ。それにな、余はおっさんのもてなしに、どうしても我慢できぬ点がひとつあるのだ」
「えっ、あれほど琵琶と瑠璃杯を絶賛していたのに、どうしてまた・・・」
「そうだ、このような素晴らしい楽器と杯があるのに、出されたのは普通の抹茶だけだ。美酒はどこだ。余は、美味い酒が飲みたいぞ」
雛鶴とポチはズッこけた。
おっさんは、政虎に反論した。
「あのー、政虎様。図書館は、あくまでも教育施設です。ここで飲酒するなど、想定していませんが」
「嫌だ。余は、この瑠璃杯で酒を飲みたいぞ。そもそも、酒が飲めねば生きている意味などないわ。業政に怒られるのが嫌なら、余の神力を使え。なにしろ、余は毘沙門天の化身だからな。酒を飲むために命を落とすなら、それも本望だ」
「もう、どうなっても知りませんよ」
おっさんは、政虎の神力でカフェ内にアルコール飲み放題コーナーを作った。
「はい、政虎様。ご所望の葡萄酒です」
おっさんは、瑠璃杯にワインを注いで、政虎に渡した。
「どうします?ボクが毒味をしましょうか」
「ふん、おっさんの毒味なんぞ不要だ」
政虎は、そう言うとワインを一気に飲みほした。
「ふいー、美味いではないか。『葡萄の美酒 夜光の杯』といった感じか?じゃんじゃん持ってくるがよい」
「それじゃあ・・・。ビールとハイボールとレモンサワーとウイスキーのストレートです。酒の肴に、箕輪の梅干しはいかがですか。ついでに、チーズと唐揚げも用意しますよ。政虎様は、牛の乳とか大丈夫ですか?」
「うむ、問題ない。あと、ポチの食べている干し肉も美味そうだな」
「ねえ『おっさん』さん。チーズって、ピザに使っていた食材よね。久しぶりにピザが食べたいわ」
「もう、干し肉とピザも用意しますよ。思う存分、飲み食いすればいいんじゃないっすか」
「雛鶴よ、こちらに来て酌をせい」
「政虎様、承知致しました」
「もう、滅茶苦茶だわんね」
・・・・・
政虎が飲み食いしまくって良い気分になったのを見た雛鶴は、早速行動を開始した。
「それで政虎様、父上様の葬儀に五百両(5千万円)ほど必要なんですが、お借りすることはできないでしょうか。もちろん、献上品も御座いますよ」
そして、雛鶴は政虎に目録と写本を渡した。
政虎は、目録に目を通すと、写本を幾つか流し読みした。
「ふーん、五百両か。そもそも、余はこれから信玄坊主と大戦をしなければならぬ。金に余裕があるのなら、兵糧や武器の購入とか奥信濃の国人衆への工作に使う方が良いと思うがな。それとも、上州の連中が川中島まで援軍に来てくれるのか?」
「うっ、それは・・・。とにかく、上州の一本槍と名高い上泉伊勢守様は説得してみせます。あと、段蔵もわたくしに協力してくれるはずです」
「ふむう、上州が誇る剣の達人と飛び加藤か。だが、余を説得する材料としては弱いな」
「わんわん(ご主人様、ポチが武田軍の大将を討ち取って、敵を蹴散らしてやるわん)」
「雛鶴よ、ポチは何を訴えているのだ?」
「ポチは、自分が武田軍を蹴散らすと言っております」
「じゃあ、春日山に戻ったら、ポチには上杉軍の武将たちと戦ってもらうとするか」
「わんわん(どんとこい、だわん)」
「まあ、冗談は置いといて・・・」
「わんわん(ポチの申し出を冗談にされたわん)」
「しっ、ポチ。政虎様の出方を良く見て、少しでもよい条件を勝ち取るのです」
「わんわん(わかったわんよ)」
「余は、お主らよりおっさんの方に興味があるぞ」
「えっ!やはり、政虎様はおなごより殿方を好むのですか?」
「ええい、そうではない。余が興味を持っているのは、あの空を飛ぶロケットだ。うーむ、それにしても凄い迫力だな。おっさんよ、あれはどれくらい遠くまで飛ぶのか?」
「えーと、五百十里(約2,000km)くらいですかね」
「ふむ・・・。春日山から躑躅ヶ崎館までは、どれくらいの距離か?」
「六十里(約240㎞)くらいでしょうか。まさか、政虎様も躑躅ヶ崎館にロケットを落とせとか言いませんよね」
「ふん、どうせ未来に影響を与える兵器は現世に持ち出せぬのであろう。とりあえず、今まで見たことの無い物凄い兵器を作って、余を楽しませてみよ。余を満足させることができたら、協力してやってもよい」
「『おっさん』さん、任せましたよ」
「刎友、頑張るんだわん」
「くそう、みんなボクに丸投げしやがって・・・。うーん、今まで見たことの無い物凄い兵器か。そういえば、ボクは怨霊だから雷を操ることはできるんだよな。であれば・・・」
おっさんは、以前動画で見た電気エネルギーを使って弾を撃ち出す兵器を思い出した。
「レールガンを発射するのに必要なエネルギーって、雷何発分なんだろうか?」
おっさんが怨霊AIに尋ねると、平均的な落雷1発のエネルギーが10億ジュールで、レールガンを発射するのに必要なエネルギーが500万ジュールとの回答を得た。
つまり、雷1発でレールガンは約200発撃てることになる。
「なんだ、怨霊ならレールガンの発射なんて朝飯前じゃん」
ということで、怨霊AIと相談しながらレールガンを作ってみたよ。
レールガンの構造自体は、意外と単純である。
なにしろ、導電性のある2本のレールの間に金属の弾体をはさんで、大電流を流すだけだからね。
ただし、レールがすぐ摩耗するせいで連続射撃回数とか耐久性に問題があるらしいけど、政虎を楽しませるだけだからどうでもいいや。
とりあえず、でかい金属の的を用意して、レールガンに雷を落としてみた。
どかーんという音ともに、的が吹き飛んだ。
ついでに、レールガンのレールも摩擦と高熱で溶けていた。ここらへんは、調整が必要だな。
その様子を見た政虎が叫んだ。
「おい、おっさんよ。この兵器は火薬を使わないのか?」
「へー、政虎様には分かりますか。これはレールガンといって、火薬じゃなくて雷の力を使って弾を撃つ兵器なんですよ。でも、威力がありすぎて砲身が溶けちゃいましたよ」
「なんと、火薬を使わずにこの威力とは・・・。いや、これは未来の技術。そして、余は正々堂々と戦う義将であったな。おっさんよ、レールガンとやら見事であった。それと、もう一つおぬしに頼みがあるのだが・・・」
「分かっていますよ政虎様。これでしょう」
そう言っておっさんが取り出したのは、政虎用の図書カードだった。
「そうだ。これさえあれば、好きな時に図書館に来て酒を飲めるのであろう?おっさんよ、早く寄越すのだ」
「それでは、姫様の願いも前向きに検討して下さい」
「ああ、分かっておるよ(ふん、だが越後国は日ノ本で最も纏まりの無い国だ。余ひとりを説得できたところで、皆が反対すれば余であってもどうにもできぬがな)。それでは、図書館に来て随分時間も経過したことだし、そろそろ現世へ戻るとするか」
「政虎様、幽界と現世では時間の流れが違うので、多分四半刻(30分)も経っていないと思いますよ」
「なにっ、そうなのか!」
こんな感じで、おっさんたちは政虎の協力を得ることに成功?したのだった。




